HD DVD、3つの敗因:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)
HD DVDとBlu-ray Discの次世代DVD戦争は、HD DVDを推進した東芝の撤退というかたちで幕を閉じた。その明暗を分けたのは一体どういった要素なのだろうか。麻倉氏が分析する。
冷静に分析すれば敗因は分かるのですが、渦中の当人たちはのめり込むしかなかったのでしょう。一番彼らが恐れたのは、ソニーとパナソニックというBD陣営の2大巨頭が、幅広い製品構成、数多くのスタジオからの支持といった正面作戦を挑んでくることだったはずです。
統一交渉を持ちかけるなど、ある時期までは冷静な判断もできたはずです。ですが、それが決裂した後に無理を重ねたため、今の事態を招いてしまったといえるでしょう。
東芝は今後どうするべきか
麻倉氏: 東芝の西田社長は「BDはやらない」という方針を語りましたが、それは新世代DVD市場に東芝が取り残されることを意味します。つまりDVDの時代から培ってきた光ディスクパッケージの文化から取り残されるわけで、RDという技術を持つだけに、それは間違った判断といえます。
来る配信の時代に先手を打ち、「HDDに録りためてフラッシュメモリへ」というシナリオを描くかもしれませんが、まだまだ技術やインタフェースの開発が必要です。新世代DVDに取り組み、そこから得られたフィードバックを反映していくというやり方がスムーズですが、このままでは再度、いびつな判断を下してしまう可能性もあります。
AV機器を製造するメーカーとしてハイビジョンの世界に身を置かないというわけにはいかないでしょうから、「HD Recを使ってDVDにハイビジョン録画」というシナリオを提案してくる可能性もありますが、これはナンセンスな考え方です。こうした考えを持つとすると、BD陣営に参加してもハイビジョンカルチャーの中で主要な位置を占めるのは難しいではないでしょうか。
ユーザーが一番望んでいるのは、RDとBDの融合。そこまでやらないと社会的な責任を果たせません。BDに参入する、つまり「光ディスク文化を護る」ことはHD DVDを終息させたことでユーザーに迷惑をかけた東芝の責務ではないでしょうか。
私は昨年、11月の「デジタル閻魔帳」で「東芝はBDに参入すべし」と書きました。近いうちにHD DVDが負けることは確実に予測できましたので、早めに提言したのです。その通りの事態になってしまった今、やはり、そのことは東芝に再度、申し入れしたいですね。βで負けたソニーはそこでビデオの世界から去ったわけではありません。悔しさもあったでしょうがVHSを採用しました。またDVD規格の時もMMCDで負けましたが、東芝のSD規格の改良に協力した結果、統一DVD規格ができました。
勝ってデファクト・スタンダードになったライバル規格を採用して、自社ブランドに期待しているユーザー(特にRD信奉者)に迷惑をかけないようにするのは、敗者の義務です。そうしたロイヤリティの高い顧客に対する配慮が西田社長にないのなら、名経営者とはいえないでしょう。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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