“AQUOS X”の映画モードで、BD「ヘアスプレー」の華麗な色彩表現を観る:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.12(2/2 ページ)
シャープが投入した“エクストラ・スリム”「Xシリーズ」。インテリアコンシャスな外観もさることながら、画質面の進化も著しい。「LC-42XJ1」をじっくりチェックしてみたところ、それぞれの映像モードで、かなり丁寧に画質が追い込まれているのが確認できた。
1987年にジョン・ウォーターズ監督が手がけた同名カルトムービーを原作とするブロードウェイ・ミュージカル(トニー賞受賞)を再びミュージカル映画に仕立て上げた2007年作品、それが本作。舞台は、1960年代のアメリカ東部、ボルティモア。この街に住む人気TV番組「コーニー・コリンズ・ショー」のダンサーを目指す明るく元気な太っちょの女子高生、トレーシーが主人公である。
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頑張れば夢がかなう、という非常にポジティブなメッセージを抜群に楽しい歌とダンスに乗せて贈る多幸感に満ち溢れた映画であることは間違いない。しかし、一方でこの時代は、公民権運動が盛り上がり始め、アフリカンアメリカン(黒人)たちが人種差別に対して抗議の声を上げ始めた時代。強く豊かでイノセントなアメリカの幻想が崩れ落ち始めた時代である。その微妙な空気を「コーニー・コリンズ・ショー」の『ニグロ・デイ』で繰り広げられる黒人たちの素晴らしい歌とダンスで表現するあたりに、振付師出身の監督、アダム・シャンクマンの才能を実感する。
それにしても、登場人物たちのダンスと歌の上手さには脱帽だ。トレーシーを演じるニッキー・ブロンスキーは、この映画に出演するまでニューヨークのピッツァ・ショップでアルバイトをしていた素人さんだというが、とてもそうは思えない声と動きを披露する。コロコロとよく太っているのに、動きにキレがあるのだ。
歌の素晴らしさでは、『ニグロ・デイ』のパーソナリティを演じるクイーン・ラティファの存在を忘れてはならない。とくに抗議のデモを行なうシーンで聴かせる歌のゴスペル・フィーリングの深さに誰もが感銘を受けるだろう。
また、個人的に嬉しかったのは、トレーシーの敵役を演じるTVプロデューサー役のミシェル・ファイファーの歌声が聴けたこと。「ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」(1989年)で、ハスッパだけど無垢な魂を持つジャズ・シンガー役を演じ、そのヘタウマ・セクシー・ヴォイスにぼくはヤラれたが、本作でも、相も変わらぬ見事な歌声を聴かせてくれる。とくにトレーシーの父親役・クリストファー・ウォーケン(この人のダンスもひときわチャーミング!)を誘惑するシーンは最高におかしい。またも彼女のコケティッシュな魅力にヤラれました。
それからこの映画で誰もが驚くのは、トレーシーの母親役をジョン・トラボルタが演じていることだろう。「サタデー・ナイト・フィーバー」(1977年)以降、マッチョな男イメージの強い彼が母親役? と最初は耳を疑ったが、驚異的な特殊メイクで顔と身体にむっちりと肉をつけ、超肥満体の女性を完璧に造形して、女装の男性俳優が演じているとは思わせない見事な母親役ぶりである。オリジナル映画もトレーシーの母親役を女装の怪人デヴァインが演じていたが、“人と違っていてもいい、自分らしく生きればいいのだ”というこの映画のメッセージを際立たせるためには、どうしてもこういうキャスティングが必要だったのだろう。
さて、このように配役の妙、その意外性で見せるこの映画だが、その色彩設計も興味深い。随所に毒のあるメッセージを盛り込んだ作品ではあるが、基本は1960年代のアメリカをノスタルジックにドリーミーに描くこと。そんなわけで、パステルカラーと原色を大胆に散りばめた色彩設計が施されているのだが、その色のリアリティを本機LC-42XJ1は見事に表現した。
Xシリーズの開発のあたり、もう一度バックライトに使われている冷陰極管の蛍光体の組成を見直し、カラーフィルターとの合わせ込みを再検討したというが、その成果が出たのだろう、淡いパステル・トーンと強烈な原色の描きわけが絶妙。往年のテクニカラー作品を彷彿させるようなノスタルジックな味わいをLC-42XJ1は楽しませてくれた。これは、明らかに「Rシリーズ」「Gシリーズ」にはなかった個性。AQUOSの表現力の進化をBD「ヘアスプレー」でしっかりと確認した。
また、LC-42XJ1でもう1つ感心したのは、精妙な階調表現。例えば、TV局内で陣頭指揮を執るミシェル・ファイファーの顔の表情、鼻筋から顎のシャドウのディティールの描写が実にきめ細かいのである。ここはやはり、12bit信号処理&リアル10bitドライバーの御利益が素直に出たと解釈してよいだろう。
パネルの素のコントラストは2000対1、映画ソースの24p入力にも対応していないXシリーズだが、見事な色彩表現と精妙な階調表現で、映画を味わい深い楽しませてくれることが分かった。AQUOSの高画質化が着実に進んでいることだけは間違いない。
執筆者プロフィール:山本浩司(やまもと こうじ)
1958年生まれ。AV専門誌「HiVi」「ホームシアター」(ともにステレオサウンド刊)の編集長を務め、一昨年の秋フリーとして独立。マンションの一室をリフォームしたシアタールームで映画を観たり音楽を聴いたりの毎日。つい最近20数年ぶりにレコードプレーヤーを新調、LPとBD ROMばかり買ってるそうだ。
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