「ダビング10を人質になどしていない」「メーカーは“ちゃぶ台返し”だ」 権利者団体が会見(2/2 ページ)
「権利者はダビング10を人質になどしていない」「メーカーの主張は“ちゃぶ台返し”だ」――私的録音録画補償金をめぐるJEITAの態度を権利者が批判した。
だが文化庁案には、「将来は補償金を縮小・廃止する方向」と明記してあり、暫定的に補償金でカバーするとされた「音楽CDからの録音」「地上デジタル放送の録画」についても「権利者の要請による著作権保護技術が施された時点で廃止する」と書かれている。「(DRM付き)ネット配信も、補償金の対象から外すことが明記されている。これを、制度が縮小することの保証と言わずして何を保証と言うのか」(椎名さん)
HDD内蔵機器とPCとの区別が付きにくい、という主張については「そもそも権利者側は、PCを制度の対象に加えないことに同意している。これは最大の譲歩だった。一体型機器と汎用機の区別が付かないというなら、メーカーはいったい、どのような戦略で機器を売っているのか、理解できない」(椎名さん)と話す。
また「課金対象機器の“拡大”という表現は誤っており、対象機器の“移行”が正しい」(椎名さん)とも主張した。
消費者はそれでいいのか
「今日の会見のメインテーマです」――椎名さんがこう強調するのは、消費者の利益についての議論だ。JEITAが示す通りに補償金を縮小・廃止すれば、メーカーは利益を得、消費者は不利益を被ると話す。
「補償金は、莫大な利益を上げているメーカーが、その一部を権利者に還元させようとするもの。現在、補償金は消費者が負担するという建前になっているが、事実上メーカーが負担しており、メーカーもそう自覚している」(椎名さん)
権利者側が提示したデータによると、デジタル関連機器の市場規模(映像、音楽、テキスト、家庭用ゲーム関連商品を合算)は、2005年は4兆3638億円、2006年(予測値)は6兆3888億円。
「コンテンツとハードは互恵関係にあるはずなのに、メーカーはこれだけの利益を手にしながら、権利者を一切踏みにじってきた。自分さえよければ、コンテンツはどうなってもいいのか」(椎名さん)
補償金制度がなくなると、消費者も不利益を被ると主張する。「補償金制度を廃止し、私的複製も権利者とユーザー間の契約で処理するとすれば、メーカーの負担はゼロになり、その分を消費者のみなさんが支払うことになる。本当にそれでいいのか」(椎名さん)
「コンテンツを扱う機器を販売するメーカーが、コンテンツに関する負担から外れて手放しで利益を上げていく一方で、消費者は、私的複製にもすべて許諾が必要になり、コピーする自由がなくなる。消費者はこれを本当に望んでいるのか考えてほしい。補償金はネガティブなイメージばかりが語られるが、この事実が伝わっていない」(椎名さん)
JEITAの調査結果にも反論
JEITAは28日「地上デジタル放送録画機器や、デジタル携帯オーディオプレーヤーに補償金を課すことに反対しているユーザーが大半」という内容のアンケート調査結果を公表した(「地デジに補償金不要」8割――JEITAがアンケート)。「たいへんいい調査をしていただいた」と、菅原さんは皮肉る。
「メーカーの中に、ダビング10を6月2日にスタートしたくない人でもいるのだろうか。『文化庁案に沿ってバランスの取れた解を模索する』というのは、メーカー間のバランスを取るという意味だったのか」と菅原さん
調査では、地上デジタル放送録画機器保有者の7割がタイムシフトのために録画している、という結果が出たが、菅原さんは「タイムシフトのためだけなら、コピーワンスで良かったはずだ」と指摘する。
調査では、デジタル携帯オーディオプレーヤーに保存されている楽曲の録音源の約8割が、購入したCDやレンタルCDという結果が出ていた。これについてJEITAは「購入CDやレンタルCDの対価に私的録音の対価が含まれていれば、保存されている音楽のほとんどに対して、私的録音の対価が支払い済みとなる」と指摘していたが、菅原さんによると「レンタルCDにも購入CDにも、私的録音の対価は含まれていない」という。
弾丸はいまだにメーカーにある
「弾丸はいまだにメーカー側にある」(椎名さん)――権利者は、メーカーの態度表明を待って対応を決めるという。
「メーカー側が協力的でない以上、対抗する制度を考えざるを得ない。このままでは文化庁案は白紙に戻り、昨年の中間整理の段階まで議論が戻ることになるだろう」(椎名さん)
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