いま手に入る“高音質CD”「SHM-CD」を聞き比べる(2/2 ページ)
「SHM-CD」がちょっとしたブームになっていることはご存じだろうか。音楽好きであれば認知度の高いアイテムだが、一般的にはそれほど知られていないようなので、改めてその内容を紹介しよう。
お得な“聞き比べ”ディスクの中身とは
実はこの春に第1弾となる「ロック」が登場したが、あまりの人気のために発売後すぐに売り切れてしまい、多くの人から「第2弾を」というリクエストがユニバーサル ミュージックへも寄せられたようだ。それを受けてこの秋、第2弾として「ロック/ソウル/ブルース」「ジャズ」「クラシック」の3タイトルが同時リリース、より多くの人がSHM-CDの特徴を体験できるようになっている。
しかもこの「これがSHM-CDだ!」シリーズは、サンプルとは名乗っているものの、曲が途中で終わってしまう“サンプル試聴ディスク”ではなく、れっきとしたコンピレーションアルバム。しかも選曲が絶妙で、例えば「ジャズ」は、ジョン・コルトレーンやオスカー・ピーターソン、ルイ・アームストロング、ビル・エヴァンスなど、ビッグネームの名曲がずらりと並ぶ。
さらに「クラシック」では、カラヤンやクライバー、ベーム、バーンスタインなど著名な指揮者がタクトを振る名演奏に加えて、小澤征爾のウィーンフィル・ニューイヤーコンサート「ラデツキー行進曲」まで収められている。ジャズやクラシック初心者でも、充分堪能できる内容となっているのだ。
これがたった1000円で手に入るなんて、どう考えてもお買い得。第1弾同様、すぐに売り切れてしまうことが予想されるので、ぜひ聞いてみたい人、SHM-CDがいかなるものか体験したいという人は、早めの購入しておくことを勧めする。
せっかくだから、この3枚に関して「聞き比べ」お勧め曲をリストアップしておこう。
まず「ロック/ソウル/ブルース」では、1.オールマン・ブラザーズ・バンドが一番。ライブは観客の声援などが収められているため、SHM-CDの「細かい音まで漏らさず再生する」特徴が生きてくる。このほか4.ジェームス・ブラウンや5.フライング・ブリトウ・ブラザーズ、7.フリー、13.トム・ウェイツ、20.マーヴィン・ゲイなどは、アコースティック&エレキギターやパーカッションの音を聴くと、SHM-CDの音がいかにクリアでイキイキとしているかが実感できる。
「ジャズ」は1.と5.のコルトレーン、3.オスカー・ピーターソン、8.アントニオ・ラルロス・ジョビン、11.キャノンボール・アダレイ、12.ケニー・バレル、13.ビル・エヴァンスと上げたらきりがない。全体を通しては、ピアノと金管楽器の音色に注目すると、表現力の差を実感できるはずだ。
「クラシック」は全曲とも違いがはっきりと分かる。しいて上げるならば、4.ラデツキー行進曲のニューイヤーコンサートならではの抑揚感、6.サン=サース交響曲3番の力強い低音とオルガンの音の多彩さ、7.モーツァルト/レクイエムの合唱などに、両者の違いが顕著に感じられた。
最後に、現在リリースされているSHM-CDの中から、実際に試聴し、とくにオススメしたいと思ったタイトルをピックアップしよう。ジャズやクラシックのない偏ったラインアップだが、ほとんどが個人購入のためご容赦を。
まずは「イーグルス/フリーゼス・オーヴァー」と「エリッククラプトン/アンプラグド」。どちらももともと良質な録音の名盤なので、その実力をSHM-CDによってさらに生かされたという印象。そういった事情もあって、音質よりも空間的な広がり、ストレスなく空間いっぱいに音が広がる気持ちよさに心ひかれた。アンプラグド系は、ブライアン・アダムスもよかった。
'70年代のアルバムでは、やはりレッド・ツェッペリンが筆頭にあがる。1994年に行われたリマスター盤の良さが、SHM-CDによって開花したという印象。とくに「ツェッペリンIV」は粗野なセッティングながら、1発録音ならではの迫力やノリの良さが充分に伝わってくる。そのあとオリジナル盤のCDを聴くと、録音機材がまるで10年前のポンコツのように感じた。対して「カーペンターズ/ナウ・アンド・ゼン」は、アナログレコードにある独特の柔らかさ、心地よさがやっと取り込めたというイメージ。こちらも悪くない。
モトリー・クルーやイングヴェイ・マルムスティーン、ザ・キュアーなどのベスト盤も良かった。意外なものでは、ビレッジピープルがあっさりとしたちょい古めかしい音ながら、録音の良質さがよく分かって好印象だった。
SHM-CDは、聞き慣れたミュージシャンの聞き慣れた曲ですら、新しい“何か”を発見させてくれる貴重な存在。しかもラジカセやPCなど、再生機器がチープであればあるほど、普通のCDとの音質差がはっきりとしてくるのだから面白い。良質なサウンドを追い求めるオーディオファンはもちろん、“音楽好き”にこそベストなディスクと断言しよう。
ダウンロードミュージックに完全移行しようとしている人、ちょっと待って。SHM-CDという名のCDには、まだまだ可能性があるゾ。
関連記事
- 小寺信良の現象試考:オーディオ業界に3日で絶望した男が業界を救う話
“マニア禁制”オーディオイベントとして認知度を高めている「my-musicstyle」。iPodなどを持ち込めばその楽曲を本格的な機材で気軽に楽しめるこのイベントの中心にいたのは、オーディオ業界に3日で絶望した男だった。 - ソニー、圧縮音源の音質を「向上」させるAVアンプ「TA-DA5400ES」
ソニーがAVアンプの新製品3製品を発売。低ジッタのデコードエンジンを備えるほか、上位機種は音楽ソースの情報を最大限に引き出す新技術を実装した。 - “音”を追求したHDMIケーブルが生まれた理由――サエク「SH-1010/810」
画質の良さをうたうHDMIケーブルは数多く存在するが、“音”を追求したものは今までなかった。サエクコマースが発売する「SH-1010/810」は、“音の質感”を高めるために素材や構造から見直した初めてのケーブルだろう。実は、このケーブルが生まれた背景と筆者は無関係ではない。 - 音質の改善が著しいHDMI対応機器(後編):お金をかけずにHDMI接続の音を良くする方法
今回は、HDMI経由の音を可能な限り良くする手段をいくつか紹介したい。いずれも追加投資はほぼゼロ。ただし、中には少々荒っぽい手段もあるので、それはあくまで自己責任でお願いしたい。 - PS3をAV機器として評価する(前編):進化するAVプレーヤー、PS3
ゲーム機でありつつも、高性能なAVプレーヤーに劣らない能力を持つPS3。そこで、PS3をAV機器として最大限に活用する方法を紹介していく。 - “AVプレーヤー”にとどまらないPS3
前回に続き、今回はPS3のメディアプレーヤーとしての能力と、AV機器としてPS3を設置する際の注意点を述べたい。 - 本格AVシステムへも展開するPS3
前々、前回に続き、今回はPS3を「AVシステム」として発展させるプランを考えてみる。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.