「ダウンロード違法化」ほぼ決定 その背景と問題点:津田大介(3/3 ページ)
違法録画・録音物のダウンロード違法とする「ダウンロード違法化」がほぼ決定した。「ダウンロード違法化」とは何か、著作権法のどこが変わるのか、ユーザーにはどんな影響があるのか――解説する。
録音録画小委員会中間整理から引用
ii 第30条の適用範囲から除外する場合の条件
違法サイトであることを知らないで利用した者についてまで権利侵害にするのは行き過ぎではないか、あるいは権利侵害といっても個々の利用行為ごとに見れば権利者に与えている被害は軽微なものではないかなどの指摘があり、利用者保護の観点から、次の点について法律上の手当が必要であるとされた。
ア 第30条から除外する行為について、例えば、違法サイトと承知の上で(「情を知って」)録音録画する場合や、明らかな違法録音録画物からの録音録画に限定するなど、適用除外する範囲について一定の条件を課すこと
なお、この点に関しては、利用者への趣旨の周知に努めるとともに、利用者が明確に違法サイトと適法サイトを識別できるよう、適法サイトに関する情報の提供方法について運用上の工夫が必要と考えられること
イ 第30条から除外する行為は、「複製」一般ではなく、権利者の不利益が顕在化している「録音録画」に限定すること
ウ 第30条の適用がない私的目的の複製については、犯罪としては軽微なものとして従来から罰則の適用を除外しているので(第119条第1項)、本件についても同様とすること
なお、これに対して、権利者が利用者に対し本当に権利行使できるかという疑念が残るが、今の状況を放置しておくわけにはいかないので、例えば「著作物の通常の利用を妨げるものであってはならず、かつ著作者の正当な利益を不当に害するものであってはならない」との但書を加え、個別の事案に即して違法性を判断するのも一案ではないかという意見があった。
個別に解説すると、「ア」は「情を知って」という条件が付くということだ。これは要するに「ダウンロードするファイルが違法なものであると知った上で、ダウンロードする場合のみ違法になる」ということで、違法であると知らない、あるいはよく分からないような状況で違法ファイルをダウンロードしても違法にはならないということだ。
「イ」は、著作物全般ではなく、録音(音楽)、録画(テレビ/映画など)に限定するということ。つまり、30条の変更が行われても、画像やゲーム(プログラム)、テキストといったほかの著作物に付いては、たとえ情を知ってダウンロードしても「違法」にはならない。
そして、「ウ」がもっとも重要なポイントだ。もともと私的複製というのは個人による零細な行為であり、犯罪としては非常に軽微なものであるため、罰則の適用がない。違法サイトから違法ファイルをダウンロードする場合もこれと同様で、罰則は付かないということになる。
つまり、今回の中間整理に従ってダウンロードが違法化された後、「情を知って」違法ダウンロードを行ったとしても、罰則(刑事罰)がないので、「逮捕」されることはないのだ。違法ではあるが、あくまで「規範」的なものだと理解すればOKだ。
ただし、違法行為ではあるので刑事ではない民事訴訟の対象にはなり得る。ただ、現実的には権利者側が利用者が「情を知ってダウンロードしていた」ことを証明するのはかなり難しく、現実的にはいきなり民事訴訟を提起されるということは考えにくい。こちらも現時点ではあくまで規範的なものだと考えた方がいいだろう。
ストリーミングは対象外 「YouTube」「ニコニコ動画」問題なし
これに加えて104ページの脚注に下記のことが書かれている。
なお、視聴のみを目的とするストリーミング配信サービス(例 投稿動画視聴サービス)については、一般にダウンロードを伴わないので検討の対象外である。ただし、ネットワークの伝送の過程で行われる技術的手段としての一時的蓄積の問題については、文化審議会著作権分科会報告書(平成18年1月)の第1章第3節「デジタル対応ワーキングチーム」検討結果参照。
録音録画小委員会中間整理から引用
これは、今回対象になるのはダウンロード(保存)行為のみであり、一時的な視聴であるストリーミングはたとえ違法なものを見る場合でも、対象外になるということである。つまり、「YouTube」や「ニコニコ動画」に上がっている権利者に無許諾でコピーされた動画を見ても問題がないということだ。
実効性なき法改正だが……
これらの条件をまとめると
- 「違法なファイル」と知らない状態でダウンロードするのはセーフ
- 音楽と動画以外(画像やプログラム、テキストなど)の違法ファイルをダウンロードするのはセーフ
- ストリーミング形式で違法ファイルを視聴するのはセーフ
- 音楽と動画の違法ファイルを違法ファイルと分かった上でダウンロードしても「逮捕」されることはない
ということになる。つまり、この方向でダウンロードが違法化されても、実質的に権利者が侵害者に対して摘発や提訴などの権利行使をするのはほぼ不可能ということだ。あくまでネットの著作権侵害に対する萎縮効果を狙ったプロパガンダ的なものだと理解した方がいいだろう。
しかし、いかに実効性がないにせよ、日本のインターネット界には1997年の著作権法改正で盛り込まれた「送信可能化権」によって、「アップロードするものは逮捕されるが、ダウンロードする側には罪はない」というある種の「利用ルール」が定着していた。今回の改正案が通ることによって、そのような秩序に変化がもたらされることの意味は大きい。
ダウンロード違法化後も著作権侵害が減らなければ、実効性を高めるため「情を知って」という条件の厳格化や、刑事罰の適用を検討すべしという声も上がってくるだろう(その要望に従って実際に法改正まで行われるかというとまた別の話だが)。
また、すでにドイツやフランス、スペインなどはダウンロードを違法化する改正を行っているが、音楽や動画に限定しているわけではない。国内のゲーム業界からも、すべての違法著作物ダウンロードを30条の適用除外にしてほしいという要望が上がっている。少なくともこちらの話は現実的に改正される可能性は十分にあるだろう。
インターネットはそもそも情報を効率的に伝達するために生み出された新しいメディアだ。そのため、さまざまな情報のコピーが、制御不可能な形で広まっていく性質を持っている。この性質が、クリエイターとクリエイターが生み出した著作物の流通をコントロールすることで利益を生み出してきた旧来のコンテンツビジネスとある面で衝突しているのは疑いのない事実だろう。
私的録音録画補償金問題に端を発するダウンロード違法化問題は、そうした権利者と消費者の衝突が行き着くところまで行ったことの象徴と言えるのかもしれない。
津田大介
IT・音楽ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。
コンテンツビジネス周辺やコンテンツの著作権、ネットサービスを中心とするネットカルチャーをフィールドに新聞、雑誌など多数の媒体に原稿を執筆。2002年よりコンテンツ配信関連の情報を扱うブログ「音楽配信メモ」を運営。
2006年より文部科学省文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会専門委員。2007年より文部科学省文化審議会著作権分科会過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会専門委員、私的録音録画小委員会専門委員。
主な著書に『だれが「音楽」を殺すのか?』(翔泳社)、『仕事で差がつくすごいグーグル術』(青春出版社)、共著に『CONTENT'S FUTURE』(翔泳社)など。
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