第15回 サンフランシスコを沸かせたさすらいDJ──「iPJ-Lite」:松村太郎のiPhone生活:ミュージック
iPJ-Liteは、iPhoneを1台のターンテーブルに変えてしまう音楽アプリ。価格は600円だ。MacやPCから無線LANでiTunesの曲を取り込んだりもできる。複数のiPhoneやiPod touchを使えばもっと楽しい。
今回紹介するアプリはiPJ-Lite。App Storeで600円でダウンロード可能だ。このアプリはiPhoneを1台のターンテーブルもしくはCDJに変えてしまうアプリ。プリセットで45秒ほどのサンプル曲が入っているが、iTunes用のプラグインを利用し、無線LAN(Wi-Fi)経由でアクセスすることでiTunesから曲をiPhoneに取り込むこともできる。iPhoneユーザーが複数集まれば、これからのシーズン、クリスマスパーティーで即席DJなんていうのもシャレてるんじゃないか。
iPJ-Liteを起動すると、画面上部のカウンターに、演奏時間やピッチが表示される。中央には大きな2重の円があり、外側を触ってCUEポイントを設定したり、中央をタップしてテンポを取ったりすることが可能。右下のつまみは曲のピッチを調整でき、左下には再生・一時停止とCUEボタンが並ぶ。画面はいわゆるCDJと同じだ。
左上の曲玉のようなアイコンをタッチすると設定画面が現れる。プレイリスト編集、ループの設定、端末を傾けたり振ることによるShake Effectの設定、そして時間やピッチ設定などを調整可能。さらに、URLを入力してのダウンロードや、iTunesとのオートシンクなども実現する。
面白いのは端末を左右に傾けるとパン、前後に傾けるとピッチ変更、そして上下に振るとサンプラーと、加速度センサーの向きによって演奏中の曲にエフェクトをかける機能で、エフェクトによって画面の色が変化する。DJの現場ではかなりパフォーマンス志向が強いプレイヤーになり、「魅せるDJプレイ」を実現できそうだ。フロアーに遊びに来た人がみんなで色を見せ合って楽しむのもアリだろう。
ただ、1台のiPhoneではもの足りない。幸い僕の手元にはiPod touchがあるので、DJミキサーにiPhoneとiPod touchを接続すれば、割と上手にDJプレイをすることができる。同じアプリが入っているほかのiPhoneをミキサーにつなげば、曲を持ち込んでそれをきれいにミックスすることも可能。iPodで好きな曲をかける「iParty」は、iPodの曲をただ順番にかけるだけだが、キチンとミックスして流すの玄人版iPartyも夢ではない。
iPJ-Liteを開発したのはnewforestar。2005年につくばで設立された大学発ベンチャーで、動画関連ソフトの開発などを手がけてきた。取材した取締役副社長の佐原拓人氏によると、2008年3月末にiPhoneに初めて触れ、開発を行ったのは5月からだったそうだ。そして5月中旬のWWDC 2008のアプリアワードには試作アプリを出したというのだから、その開発スピードの速さには驚かされる。
「WWDCを見るためにとりあえずサンフランシスコに飛んだんですが、会場に入ることが出来ませんでした。仕方がないので、駅前で路上デモをすることにしたんです。地元のダンサーと仲良くなって、このアプリによるDJとダンスパフォーマンスをやりました。アプリのお披露目自体が『流し』だったんです」(佐原氏)
DJソフトを作ったきっかけは、副社長の佐原氏も、アプリ開発者で社長の星野氏も、昔DJをやっていたことがきっかけだったそうだ。筑波大学の学園祭で、毎年ディスコをやっていたという。星野氏は以前マウスによるPC DJソフトを作ってみたが、あまり流行らなかったため、「今回iPhoneでDJソフトのリベンジをかける」という別の意味も込められているそうだ。お互いのルーツをカタチにして、newforestarはiPhoneアプリに参入したのである。
「会社としては、個人向けのソフトを1本ずつ販売するのは初めてです。サンフランシスコで流しをした時の反応がとても良かったので、海外を中心に展開していきたいと思っています。現在のヴァージョンがLiteですが、この上も作っていく予定。PC DJの時は現場で使われなかったので、このアプリはぜひ実際のフロアーで定番のアプリになるよう売っていきたいと思います」(佐原氏)
また佐原氏は、iPhoneアプリ開発は外注が難しい点を指摘する。開発には感覚的な部分が非常に大きいため、「スタッフ間での感覚のすりあわせ」が必要で、ずれていたときの修正の難しさもまた存在しているそうだ。そこで、iPhoneアプリに興味がある学生を集めてチームを作り、アプリ開発のノウハウを育成する事業にも取り組むことにしたという。
佐原氏は、「iPhoneアプリって、盆栽みたい」と語った。iPhoneアプリのミニマルで感覚的な部分が大きい開発の流儀と、小さく自分の感性で植物を育てる盆栽を重ねてみると、確かにそのような感覚は強い。だとすると、日本人はiPhoneアプリ開発が得意になるのかもしれない。
プロフィール:松村太郎
東京、渋谷に生まれ、現在も東京で生活をしているジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ(クラブ、MC)。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。1997年頃より、コンピュータがある生活、ネットワーク、メディアなどを含む情報技術に興味を持つ。これらを研究するため、慶應義塾大学環境情報学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。大学・大学院時代から通じて、小檜山賢二研究室にて、ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性について追求している。
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