成熟のREGZA「46ZH7000」で観るBD「善き人のためのソナタ」:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.30(2/2 ページ)
従来型のCCFLバックライトを搭載した液晶テレビのなかで、もっとも完成度が高いと思えるのが東芝“REGZA”の「ZH7000シリーズ」。その画質をじっくりチェックする機会があったので紹介しよう。
次に、この春の500シリーズから導入された自動画質調整機能「おまかせドンピシャ高画質」の完成度をチェックしてみよう(新製品ではおまかせドンピシャ高画質プロ)。照度計が1100ルクスを指し示す、量販店の店頭のような極端に明るい環境で、「光源の色」を部屋の照明に合わせて『電球色』に設定、映像モードを“おまかせ”にして地デジのオンエアを観ると、ZH7000は、この明るい環境に負けない、明快で力強い画質を提示する。確認してみると、プリセットされた「あざやか」モードとよく似た画調で、よりいっそうコントラストを強調した画質であった。
白熱灯のシーリングライトを調光して60ルクスの環境で、引き続き地デジのオンエアを「おまかせ」で観ると、しっとりした画調に変化する。これくらい照度を落すと、レゾリューションプラスの効果もひときわ鮮明だ。この状態だと「標準」モードの画質にかなり近い。
最後に、メモがかろうじて取れるくらいのほの暗い環境をつくり、地デジとDVD、BDの映画ソフトを“おまかせ”で観てみた。オンエアはプリセットされた「テレビプロ」の画質によく似ているが、それよりも若干コントラストがつく印象。そして“おまかせ”モードの暗い環境で観る映画ソフトへの対応が興味深い。
バックライトの設定が35以下になると、映画ソフトのフレーム(コマ)表示を意味する「オートファインシネマ」の設定が、24コマを5等倍するモード(5-5フィルム)から2-3プルダウン処理の120Hz表示となる。これは、画面の明るさによってフィルムジャダー(映画ソフト特有のカタカタした動き)の感じ方が異なるからというのがその理由。ここで設定した照度環境では自動的に2-3プルダウン・モードになり、画調は色温度6500ケルビンの「映画プロ2 」とほぼ同じと思える、フィルムルックを思わせる繊細なタッチの映像が再現された。
「おまかせ」モード・チェックの後、ほの暗い環境のまま「映画プロ」モードをベースに適宜画質調整を加えながら、最近お気に入りのBD映画ソフトを何枚か観てみたが、これが予想以上の素晴らしさだった。とくによかったのが、「色空間」を『ワイド』、「ダイナミックガンマ」を少し効かせ、「色のこさ」をデフォルトのー10から0に戻して「映画プロ2」で観た「善き人のためのソナタ」である。
「善き人のためのソナタ」は、新人のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが監督・脚本を手がけた、2007年アカデミー外国語映画賞受賞作である。舞台は、1980年代半ばの冷戦下の東ベルリン。旧東ドイツの秘密警察シュタージのヴィースラー大尉が、劇作家であるドライマンに対して、たいした根拠もなく、ひょっとしたら反体制活動を行なっているのではないかと彼のアパートを24時間態勢で盗聴・監視を始める。
ドライマンは人気女優のクリスタと愛し合い、同棲生活を送っているが、彼ら2人の生活を盗聴していくうちに、がちがちの体制派であったヴィースラー大尉に少しずつ変化が起きていく。そして、タイトル曲の「善き人のためのソナタ」をドライマンがピアノで弾くのをヘッドフォン越しに聴き、ヴィースラーに決定的な変化が起きるのである。
冷徹な管理社会であった共産主義国家・東ドイツを象徴するかのような盗聴室の冷たい蛍光灯の光。通行人が誰もいないさみしい町並み。不安な人々の表情。その計算され尽くした見事な映像を、46ZH7000は見事に表現する。
とくに素晴らしいのがフェイストーンの描写力。色温度の異なる照明下で微妙に変化する肌色を的確に描きわけ、冷徹なヴィースラー大尉を演じるウルリッヒ・ミューエの透き通ったまなざしに、だんだんと血の通った人間らしい光が差し込むのを、46ZH7000は見逃すことなく表現する。じつに懐の深い画質である。安定した色再現とホワイトバランスで観る名画の味わい。それを東芝46ZH7000で堪能した。
このテレビで残念なのは、この素晴らしい画質とあまりにアンバランスな貧弱な音である。東芝には次世代機ではぜひ本質的な音質強化に乗り出してもらいたい。まず、声がリアルに聴こえること、BD映画ソフトでじゅうぶんな音圧感が得られること、鮮烈な効果音でゆがまないこと。まずはこの3点に注力してほしい。
関連記事
- 超本格派、パイオニア「BDP-LX91」で体験するBD「ダークナイト」の鮮烈な映像と音
Blu-ray Discプレーヤーが本格的にテイクオフした2008年。パイオニアが満を持して発売するのが高級モデルの「BDP-LX91」だ。そのパフォーマンスをチェックする機会があったので報告しよう。 - エプソン「EH-TW4000」で観る「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の光と闇
エプソンのフルHDプロジェクター「EH-TW4000」は、倍速駆動に加え、進化した「ディープ・ブラック・テクノロジー」など見るべき点が多い。じっくりチェックできたので紹介しよう。 - パナソニックの新プロジェクター「TH-AE3000」で堪能するBD BOX「ゴッドファーザー」の色彩
今回はパナソニックの新製品「TH-AE3000」に迫ってみよう。今年の3LCDプロジェクターの画質改善ポイントはコントラスト。LCOSタイプに対して不利といわれ続けてきた“黒再現”を著しく向上させた。 - “超解像”にレグザリンク・ダビング、東芝の新「REGZA」詳報
東芝は液晶テレビ「REGZA」の新製品として、5シリーズ14機種を発表した。今回の目玉は超解像技術と、その専用チップを搭載した「メタブレイン・プレミアム」だろう。 - 東芝、“超解像”テレビを発表
東芝が液晶テレビ「REGZA」とDVDレコーダー「VARDIA」の新ラインアップを発表した。5月の経営方針発表で予告した通り、REGZAには“超解像”技術を応用した新エンジン「メタブレイン・プレミアム」を搭載している。 - 「レゾリューションプラス」の割り切りとその効果
東芝が新“REGZA”シリーズに搭載した「レゾリューションプラス」は、超解像技術をCellへ実装したときに得られたノウハウをLSI化したものだ。今回はその“結果”について話をしていこう。 - 独自の進化を果たした東芝「RD-X8」(前編)
東芝からハイビジョンレコーダーの2008年冬モデル3製品が登場する。全製品に高精細技術「XDE」を搭載、ネットワーク接続による「スカパー!HD」録画に対応するなど、独自の進化を果たした。 - 独自の進化を果たした東芝「RD-X8」(後編)
前回に続き、東芝のハイエンドモデル「RD-X8」を検証する。今回はネットワーク経由の録画を実現した「レグザリンク・ダビング」やより長時間のハイビジョン録画が可能になったAVC録画機能などを取り上げる。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.