“世界的な不況”下の商品戦略――北米パナソニックに聞く:2009 International CES(2/2 ページ)
「2009 International CES」は、"世界的な不況"が、1つのテーマになっていた。しかし、多くのAV家電が影響を受けている中、北米のテレビ市場は思ったほどの影響を受けていないという強気の声もある。北米パナソニックの北島嗣郎社長に話を聞いた。
ディズニーとキャラクター使用を伴う共同プロモーション
――CESの展示ブースには、ディズニーのキャラクターが多数配置されていましたね。ここまでディズニーキャラクターをプロモーションに使わせてもらえる例というのは、かなり少ないはずです。何らかの契約を結んだのでしょうか?
北島氏:売り場でのテレビは、どの製品も黒いボディーばかりで、どれがどのブランドなのか分かりにくいです。そんな中でディズニーのキャラクターと組み合わせて、あれはパナソニックだと認知してもらえれば良いと思っています。パナソニック製品のアイコンとして、ディズニーのキャラクターを使っていきます。例えばMr.インクレディブルが紹介する、インクレディブルなサウンドのステレオセットとか、そういったプロモーションの手法をやっていきたいですね。
一方、ディズニーは大変に高いブランドイメージを誇りますが、そのイメージはキャラクターによるものです。ディズニーキャラクターを最新の製品と結びつけ、さらにBDのインタラクティブ機能を用いてキャラクターのさらなる強化を図りたい。そこでパナソニックとの協業ができると考えているようです。こうしたことから、ワールドワイドでの共同プロモーションの契約を結ぶところまで進んできました。
――こちらのテレビ放送を見て驚いたのですが、ディズニーのBDを宣伝するテレビCMの最後に、パナソニックのブランドロゴがアナウンスされていました
北島氏:おそらくエレクトロニクス業界で、ここまでディズニーと強固な共同プロモーションの関係を構築できているのはわれわれだけでしょう。テレビ以外のところでも、共同で多くのプロモーションプログラムを企画しています。
北米でLUMIXブランドのテコ入れを
――本格的な不況への突入への不安感と回復への期待感が入り交じっている今年のCESですが、パナソニックとしてこの不況を乗り越えるためにこなす必要がある、今年の課題は何でしょう?
北島氏:不景気はとくにシアター向けオーディオ機器などに特に影響が出ていますから、そこをどのように立て直すかという問題はあるかもしれません。あとはデジタルカメラですね。みんな、今持っているカメラでも困ることはありません。画素競争も終わりつつあり、次の技術的ブレークスルーがなければ成長を期待できないかもしれません。
――日本ではとくに都市部で新デジタル一眼レフカメラの「DMC-G1」がよく売れ、ソニーのシェアを一時的に抜くこともありました。北米ではいかがですか?
北島氏:これまで、LUMIXブランドへの投資を北米ではあまり進めることができていなかったのですが、DMC-G1が米国でもっとも権威あるといわれるカメラ賞を取ったという、われわれとしては想定外の良いニュースがありました。これを契機にして、ブランドへの投資をしようと現在話をしているところです。今年はHD動画が撮影可能なモデルも登場しますから、それらの特徴を生かして差異を訴求していきます。
多様な民族構成に対応する商品構成へ
――昨年のインタビューでは、HD関連製品を一般家庭に提供し、どのような使い方をするのか。家庭内でどんな変化が起きるのかを調査する「Living in HD」というプログラムをしているとの話でした。その後、この活動はどのように発展しているのでしょう。
北島氏:さらに北米市場に適した製品を開発するため、ニューヨークにパナソニックデザインセンターを設立しました。Living in HDで協力いただいた家庭を含む70ファミリーを選び、商品を渡して使い方を観察するのではなく、現状、AV家電をどのように使っているかを調査するプログラムを実施しています。テレビを置く場所や使い方、あるいは購入決定のプロセスはどうなっているかなどを調べたのです。
すると、意外にもテレビにPCを繋いでいる家庭が半分ぐらいありました。PCでダウンロード版のネットフリックス(映像コンテンツレンタルサービス)やWebサイト、YouTubeを楽しんでいる。テレビをディスプレイとして使っている人が多い。そこでインターネットに対応したIPTV機能を強化するなどの方針を固めました。
加えて、この調査の中で1つ、改めて気づいたことがあります。それはアメリカに住む民族の多様性です。
――CES開幕前日のプレスカンファレンスでは、英語とスペイン語の両方で挨拶してらっしゃいました。あまりに流ちょうなので驚きましたが、これも米国の多様性を意識してのことでしょうか?
北島氏:私は欧州赴任が長く、英語、フランス語、スペイン語、イタリア語を話しますが、スペインで結婚したこともあり、自宅での会話はすべてスペイン語なんです。実は日本語よりもスペイン語の方がスピーチは楽という事情もあって、スペイン語を話しました。
米国には正規の市民権を持った人だけでも4500万人のヒスパニック系住民がいます。非正規も含めると、実際にははるかに多くの人がいるでしょう。彼らは英語を話す人たちとは全く違う文化圏を構成しています。そうした人たちに向けて、ちゃんとヒスパニック系住民のことも考えていますよというメッセージを出したかったんです。
ところが、スピーチの後でスペイン語系の記者からは評判が良かったのですが、今度はフランス語系の記者から、”なんでフランス語でも話さないのか?”と指摘されてたんです。ご存じのように北米にはフランス語を話す人たちも多く、また別の文化圏があります。
これこそがアメリカの市場なのだと感じましたが、まさにそうした多様性に対応できる商品のラインアップ整備を昨年から進めています。それぞれ、購買層で異なる好みに合わせ、全く違う製品を提供する。1つのラインアップではカバーしきれない北米市場に対して、多様な製品を開発しました。それが成果として製品に現れるのが今年です。
――数年前のことですが、流通を大手に集約し、とくにベストバイとの協業を強く押し進める戦略に出ていましたが、一方でそれまでパナソニック製品を売っていた店舗から製品が消えていくという現象が起きていました。製品の多様化は流通の多様化にもつながりますか?
北島氏:以前のわれわれの製品は単一シリーズで構成されていました。このため流通も絞っていたのですが、製品ラインアップが多様化すれば、当然、流通も多様化します。例えばウォルマート(米国の量販店)に行くと英語の会話がほとんど聞こえず、スペイン語ばかりです。ターゲットは女性ばかり。一方、コスコに行くと毛皮を着た白人女性がカートを押している。顧客ターゲットが異なる複数のラインアップを持つのですから、それぞれの製品に向いた流通へと商品を卸します。今後、北米のパナソニック製品は、より多くの流通で販売されるようになるでしょう。
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