高音質CDブームの行く末(3/3 ページ)
昨年は、さまざまな種類の“高音質CD”が登場し、音楽ファンにはとても“ホット”な一年だった。今回はそれぞれの内容を改めてふり返りつつ、今後の動向を推測してみたいと思う。
最高級CDはガラス製、「K2HD MASTERING+CRYSTAL」
年末にさしかかった時期に発表されたのが、ビクターエンタテインメントの創立80周年を記念して発表された「K2HD MASTERING+CRYSTAL」だ。なんとガラス製のディスクを採用、反射皮膜には金メッキをチョイスしている。加えてビクターが誇るマスタリング技術、K2HDテクノロジーをさらに進化させた「K2HD MASTERING」によってさらに高音質化。音源とマテリアルの両面からCDのクオリティーアップを進めた(→ガラスと純金で作られた“最高品位ガラスCD”、1枚18万円で登場)。
ただし、こちらはほかの高音質CDとは立ち位置がまったく異なる、スペシャルモデルと呼べる存在。SHM-CDなどが通常CDよりも数100円高価なのに対して、10万円以上のプライスタグが予定されていうえ、生産も完全予約制となっている。SHM-CDがCDそのものの存続を背負っているのに対して、こちらはビクターエンタテインメントの技術力をアピールするための存在ともいえる。音楽ファンというよりも、一部の音楽マニア、ハイファイオーディオファンをターゲットとした製品だ。
リリース予定となっているアルバムは3タイトル。フジ子ヘミング、村治佳織、川井郁子というチョイスは、まさに記念碑的な製品にふさわしい人物たちだろう。
実際のサウンドは、ビクターエンタテインメントのスタジオで体験した。偶然にも、僕は3枚すべて通常CDを持っていて、なかでも村治佳織/川井郁子はヘビーローテーションに組み込まれているため、初めての環境でもかなり音の違いを確認することができたのは幸いだった。備え付けのマスターシステムと、持ち込まれたビクター製のミニコンポの両方で試聴させてもらった。
そのサウンドは、とにかくマスター音源の良さが際だつ。通常CDとは、音の細やかさもダイナミックさもまるで違う。その差はSHM-CDなどとは比べものにならず、全くの別物のCDとしか感じられなかった。顕著なのがビアノの音。倍音や付帯音が豊かに広がっていくため、演奏している場所の空気感までもリアルに感じ取ることができる。また新しい発見だったのが、演奏者のノリ。なかでも川井郁子のヴァイオリンは力強い弓弾きがとても好きだったのだが、単にノリで弾いているのではなく、音の響きをきちんとコントロールしている冷静さが垣間見られたのが意外だった。
コストからいって、購入できる人は限られてしまうだろう。けれども「CDとしての最高峰」であることは確かだ。ファンであれば、無理をしてでも手に入れたくなってしまうかもしれない。
K2HD MASTERING+CRYSTALタイトル
高音質CDの今後を予想する
昨年より大いに盛り上がっている高音質CDブーム。今年以降、これらはどのように移り変わっていくのだろうか。
まずこの1年で推し進められるのが、高音質CDのタイトル拡充だろう。ご承知の通り、CDは単に発売すれば売れるものではなくなっているし、ダウンロードがシェアのリーダーになる日も近い。そういった時期に、SHM-CDなど“売れる”ネームバリューがあるのは大変有利。これをチャンスと見て、各社とも一気にタイトル数を増やしていくはずだ。いままでは名盤のリプレースが中心となっていたが、今後は邦楽の初回限定などにも利用されることになるだろう。
逆に、今年タイトル数を増やせない高音質CDブランドに未来はなさそう。専用プレーヤーを必要としないうえ、製作の手間も少ないため、細々と継続はするだろうが、それが販売数を増やす効果に結びつかない状況に陥ってしまうはずだ。音に関してはどれも明らかに良くなっているので、今年どれだけ名を売れるかが勝負を分けることになるだろう。
中期的に見ても、高音質CDの存在は大きく揺らぐことはなさそう。なぜなら、CDの後継となる高音質ディスクが、今後登場してくるとは思えないからだ。厳密にいえばSACDなど、いますでに後継といえる存在が誕生はしたものの、CDに取って代わるまでに至らなかったというのが事実。「CDよりも高音質」という存在が、なかなか浸透できないのだ。
将来的に最大のライバルは、ダウンロードの48〜196kHzの24ビットデータとなるだろう。しかしダウンロードの高音質化は、まだ先の話。高音質CDが急に色あせてしまう、ということはない。そう考えると、今がCDにとって最後の旬だ。大いに、パッケージメディア最後の一花を楽しもうではないか。
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