オールドファンのための奇跡のプロダクツ――ペンタックス「Limitedレンズ」:矢野渉の「金属魂」的、デジカメ試用記
カメラマン・矢野渉氏が被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。ペンタックス「K-7」を題材にした番外編その2は、「奇跡のプロダクツ」ことLimitedレンズをとりあげる。
K-7のボディが、リミテッド(Limited)レンズとのマッチングを考えてデザインされていると聞き、実際に使ってみたくなった。現在のリミテッドはデジタル専用(つまりAPS-C専用)のDAというラインであり、従来のFAレンズよりもさらに細身になっている。DAレンズの中では40ミリの最薄パンケーキ「DA40mmF2.8 Limited」が注目されがちだが、こちらは語りつくされている感があるので、あえて「DA35mmF2.8 Macro Limited」と「DA70mmF2.4Limited」をとりあげてみた。
まずDA35mmF2.8 Macro Limited。このレンズをK-7に装着してみて懐かしい感覚を覚える人は、おそらく1980年代初めに写真を撮りはじめた人だ。一眼レフを買ってみたものの、レンズまではなかなか金が回らない。標準レンズ1本というのもいかにも素人まるだしだ。そこに標準マクロという選択があった。
50ミリ(35ミリ換算)近辺のレンズは不思議な魅力があって、望遠レンズ風に使いたければぐっと寄ればいいし、広角レンズ風に使いたければ後ろに走ればいい。僕らは「人間ズームレンズ」なんて呼んでいたけれど、マクロならばさらに等倍まで寄れる機能が加わるのである。標準マクロで風景やポートレイトや物撮りまでこなした人は意外に多いと思う。
あの時代のテイストを残した短焦点レンズがここにある。もちろんオートフォーカス、絞りリングもないのだが、イメージとしては「あの頃のまま」だ。ペンタックス開発陣の意図がよくわかる。全体を覆う金属感。ゴムの滑り止めさえない。内蔵引き出し式のフードも金属だ。その内側には乱反射防止の起毛素材がはりつけられている。ここまでやって、この価格で大丈夫なのかと心配になるほどである。
僕はこの35ミリマクロを常用レンズとしてK-7に付けっぱなしにすることをお勧めする。ズームレンズとは別格の画質の良さがあるし、工夫次第で色々な写真が取れるからだ。K-7を購入する人はその辺のことは解っているとは思うのだけれど。
もうひとつ気になったレンズはDA70mmF2.4Limitedだ。なんとこのレンズ、70ミリなのに全長が26ミリしかない。35ミリ換算で105ミリ前後。中望遠でも長い方なのに、である。
この薄さは「中望遠パンケーキ」と呼んでさしつかえないだろう。今までの、「レンズは解放f値をより明るく」という思想はここにはない。結果、レンズ口径が大きくなり、全体に肥大化するからだ。
さりげなく持ち運べて、そこそこの写りが得られる、日用品のようなレンズ。気合を入れずに、カメラを常に携行できることによって生まれる写真もあるのだ。そのためのレンズの小型化。そのレンズにベストマッチするようにデザインされたK-7。ペンタックスの意図はとてもわかり易い。
かといって、写真歴の長いハイアマチュアは「小型軽量」だけで満足するほど簡単な人種ではない。手になじむ質感はどうしてもはずせない。このDA70mmF2.4Limitedは、その辺も怠りない。伝統の金属製かぶせ式キャップ。金属製の鏡筒。このあたりは当然として、面白いのは引き出し式のフード部分がはずせることだ。フードをはずすとフィルターのねじが切ってある部分が出てくる。
僕は、これは古いペンタックスファンへのサービスではないかと考えている。レンズ自体の短さを強調する意味もあるのだろうが、ペンタックスがタクマーレンズの頃からコダわっている49ミリのフィルター径をむき出しにすることによって、使用者に夢を与えているような感じを受けるのだ。
昔使っていたゼラチンフィルターホルダーがそのまま使える。もっと言えば49ミリのフィルターが全部使える。ペンタックスファンの喜びは半端ではないだろう。
リミテッドレンズ。その設計思想はあまりに深く、そして慈愛に満ちている。
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