2010年版、麻倉怜士の“デジタルトップ10”(前編):麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)
2010年最後の「デジタル閻魔帳」は、AV評論家・麻倉怜士氏がこの一年を振り返り、特に印象に残ったモノをハード・ソフト問わずにプライベートにランキング形式で紹介する、恒例「麻倉怜士のデジタルトップ10」だ。
第8位:「STELLA UTOPIA EM」(FOCAL)(→秋のオーディオ大豊作祭り)
麻倉氏: 第8位は、11月に取り上げた仏FOCALの「STELLA UTOPIA EM」(ステラ・ユートピア)を選びたいと思います。スピーカーにはさまざまな種類があり、同じ回で触れたKEFの「Q Series」などは、音楽再現力に優れたコストパフォーマンスの高い製品です。一方のステラは、1029万円(ペア)と、とても高価です。しかし、実際に音を聴くと「それくらいの音はするな」と思いました。
音の立ち上がり/立ち下がりが実に俊敏で、レンジ感も広いことが分かります。フルオーケストラの感動をその量感とともに再現できますし、一方でソロの音場再現も秀逸です。スコアのサイズにかかわらず、どちらも見事に描き出す。しかも低音は、ちょっと矛盾して聞こえるかもしれませんが、量感があって速いのです。
低音のスケールや量感を出したければ大きなスピーカーが良いのは常識ですけど、よほど大きな磁石じゃないとスピード感は出ません。STELLA UTOPIAは、電磁石を採用することで、重く剛性が高くても、立ち上がりの遅さを感じさせない音作りを可能にしました。考えてみれば、すごくまっとうで素直な発想で作られたものです。それをちゃんと作るとこの値段になってしまうというのは残念ですけどね。STELLA UTOPIA は、音楽信号の中には得も知れない多彩な音情報が入っていたと分からせてくれた、最高スケールの表現力を持ったスピーカーです。
第7位:松田聖子さん
――ええと、第7位は……「松田聖子さん」ですか
麻倉氏: 私は昔から好きで、コンサートも良く行っていましたが、第7位になった理由は別にあります。実は松田聖子さんは、BS放送の立ち上げに少なからず貢献した方です。なぜかというと、まだ視聴者数も少なかったBS放送の黎明(れいめい)期に毎年ライブが中継され、“売り”になっていたからです。
2005年の12月には、松田聖子さんのデビュー25周年記念ライブ「Songs」が2回放送されました。中でも「赤いスイトピー」は、映像、音質、歌詞もたいへんすばらしかった。ビデオ撮影による白を強調したもので、ピーク感は100%以上。肌色もきっちりと撮影していて、聖子さんのパーソナリティーと合っていました。音質も良かった。
SongsをエアチェックしたBD-REはとても気に入っていて、当時はAVアンプのAAC再生チェックなどに良く使用しました。ところが、2008年からBDレコーダーで殻付きBD-RE(v1.0)が使えなくなってしまいました。再生系回路がどんどん進歩しているというのに、近年のプレーヤーやレコーダーでは再生できません。
しかし今年の3月12日、BSデジタル放送の「SONGS」で再放送されました。実はその前に地デジでも放送したのですが、「やっぱり地デジは画質がだめだ」と思っていたところにBS hiで再放送してくれました。これにより、新しいBDレコーダーの世界に松田聖子さんの名盤が復活したのです。
8月16日にも再度再放送がありました。今年に入ってからBD-RとBD-REの違いについて、いろいろと実験を繰り返していたので、このときは最も画質に優れる“BD-REへの直接録画”を試しました(→BDからHDDへの書き戻し、AACSはもう一度検討すべき)。2チューナー搭載のレコーダーを使い、同じ番組を片方はHDD録画してBDへダビング、もう片方はBD-RE直録にして比較したのです。
すると、画質の差はやはり顕著でした。私にとっては見慣れたコンテンツですから、違いはすごくよく分かります。そこで、比較用のディスクを作ってあちこちのイベントなどで披露したところ、皆さんとてもびっくりしていました。「大事なコンテンツはBD-RE直録にしよう」。そう言えるようになったのは、実は大好きな松田聖子さんのおかげだったのです。
――後編では第6位からカウントダウンします
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