“ナノコンポ”で聴くオーディオのスモールワールド:潮晴男の旬感オーディオ(2/2 ページ)
大型のオーディオシステムを置くスペースはないし、ミニコンポでは満足できそうもない。そんな人に注目してほしいのが、東和電子の「NANOCOMPO」(ナノコンポ)である。
協力会社としての悲哀を味わうことになるが、そこでへこたれないのがこの人の凄いところだ。災い転じて福となるべく自分達で物作りをするブランド、「オラソニック」を立ち上げたのである。山本さんはソニーでオーディオの事業本部長という重責を担っていただけに、この世界への愛着も一塩だったのだろう。最初に卵型のパワード・スピーカーをリリースし、その後ナノコンポの開発にとりかかった。
「サイズにはこだわりましたが、小さいだけでは納得できなかった。いい音が出るまで徹底して試作を繰り返しました」。そのかいあって満足の出来る製品が出来上がったが、ここに至るまで予算もスケジュールもタイトにしなかったという。追われて物を作ると妥協が生まれる。だから緩めにした。大企業を知る中小企業だからこそできた方法論といってもいいだろう。
今回はこの中から「NANO-CD1」と「NANO-UA1」を組み合わせ、スピーカーにボーカル・ソフトの再現に秀でたmhiの「MM-01A」を組み合わせて試聴した。
NANO-CD1はスロットイン式メカニズムを採用してコンパクトネスを実現しているが、デジタル出力は同軸と光コネクターを用意し、さらにサンプリング周波数を44.1k、88.2k、96kHzに切り替える機能を備えている。
NANO-UA1はこのCDドライブのデジタル出力のほかUSB入力にも対応し、こちらは96kHz/24bitの信号まで受け付ける。パワーブロックにはTI社製のクラスDアンプを採用しているが、小信号時には使わないエネルギーをコンデンサに蓄えることで、大信号時のサポートを行うというオラソニック独自のSCDS方式を用いて、小さな巨人を目指した物作りも特長である。
いずれのモデルも同一のシャーシに回路を組み上げることで、積み重ねた時の観目も麗しいが、こうすることで合理的にコストを吸収するなど、知恵を絞った物作りが随所にしのばれる。
試聴には平成のビリー・ホリディと呼ばれているかどうかは知らないが、彼女の音楽に触発されたというマデリン・ペルーのCDアルバム、「ザ・ブルールーム」からレイ・チャールスが1962年に大ヒットさせた「愛さずにはいられない」を聴いてみた。フランス生まれのマデリンは1996年に米国で本格デビューを果たすが、このCDは彼女と二人三脚で歩んできたプロデューサーのラリー・クラインとコンビで作り上げた作品である。レコーディングにもこだわり、エンジニアには受賞歴の豊富なヘリク・ハダルを起用しているが、その成果は音にもよく現れていて熟成した大人の味わいを聴かせる。
ナノコンポはそうした彼女の豊かなボーカルをよく描き出す。さすがに大音量向きのアンプではないが、MM-01Aを至近距離に配置したニアフィールド環境では、演色感の少ない丁寧なサウンドに心も寛ぐ。NANO-CD1のデジタル出力を比較すると、44.1kHz出力より96kHzの方が音が優しくなる感じだ。試しにこの間にNANO-D1を加えると、あら不思議。音の響きが豊かになり音場も深くなる。とりわけNANO-D1で96kHzにアップサンプリングしたサウンドが一番よい。スモールワールドながら目の前に演奏が広がる様に思わず聴きほれてしまった。
今回は近作のパワーアンプ「NANO-A1」が間に合わなかったので、なるべく早いうちに追加のリポートをお届けしたい。
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