JETツィーターの本領発揮! エラックの新しい顔「BS-263」の鳴りっぷり:潮晴男の「旬感オーディオ」(2/2 ページ)
今回はぼくの最近のお気に入りの1つ、エラックの「BS-263」を紹介したい。試聴では、リンダ・ロンシュタットの「デュエッツ」から「いとしのルネ」を聴いてみた。
ネットワークはツィーターの変更を受け新たに設計し直した。磁気ひずみの少ない空芯コイルを採用し、ポリプロピレンやポリエステル素材を使った特注品のフィルムコンデンサーを加えて音質を高めている。
スピーカーターミナルも使用頻度の少ないバイワイヤー入力を廃し、シングルワイヤー入力に改めているが、端子の素材を上質なものに換えるなど細部への気配りも余念がない。またこのモデルも背面にバスレフポートが設けられているが、このポートをフレア形状に仕上げて不要なノイズの発生を抑えるなど見えない部分にも妥協を許さない。
語りかけるような歌声にJETツィーターの本領発揮
試聴にはリンダ・ロンシュタットの「デュエッツ」から「いとしのルネ」を聴いてみた。このアルバムはリンダがこれまでに発表した楽曲の中からデュエット曲だけをピックアップしたものだ。彼女は現在パーキンソン病を患っているのでさすがに新曲の収録は難しいが、エミール・ハリスとのデュエットが収められた1974年リリースの「ハート・ライク・ア・ウィ―ル」からアン・サヴォイとの競演となる2006年リリースの「アデュウ・ファルス・ハート」までを集めたコンピレーションなのである。
時代背景もレコーディング・スタジオも、そしてレコーディング・エンジニアも異なる楽曲が並ぶため、さすがに年代を感じさるタイトルもあるが、このアルバムのリリースにあたっては長年マネージャーを務めたジョン・ボイランがマスタリングを担当していることもあって、違いの中にも統一感を目指したサウンドに仕上げられている。
「いとしのルネ」ではリンダとアンの声の表情が際立つ。明瞭(めいりょう)度が高く溌溂(はつらつ)としたサウンドの中にも静けさがあり、語りかけるような歌い方が心にしみる。まさにJETツィーターの本領がこうした部分によく発揮されている。バイオリン、チェロ、ビオラ、そしてアコースティック・ギターの音色がとても澄んでいることにも感心させられた。スピーカーの特性を表すスペックにS/Nという項目はないが、この静けさはS/N感が高いからこそ実現したものであることが分かる。
バックを支えるアップライトベースもこのサイズにあっては豊かさを感じさせる。ベースの音は比較的抑え目に収録されているが、ウーファーが1基でもここまでの再現性を備えているのは、ユニット本来の能力が高いからだと思う。スタンドアローンで使うと音の響きがスムースに拡がる。さすがに最低音は控えめになるが、バランスが良く弦楽器の音色もつややかだ。
残念ながら前作から価格はアップしてしまったが、そのアップ分以上のパフォーマンスを身に付けた「BS-263」は間違いなくエラックの新しい顔になると思う。ブラインドで聴けば誰もこのサイズのスピーカーが鳴っているとは思えない表現力の豊かさをぜひ味わっていただきたい。
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