テクニクス復活のシンボル――2つのオーディオ製品ラインに投入された3つの技術(2/3 ページ)
パナソニックが国内でも「Technics」(テクニクス)ブランド復活を宣言した。新生テクニクスの特徴は、デジタルアンプ技術、低ノイズの信号処理技術、そして音響技術という3つのテクノロジーだ。
まずはアンプ技術。新製品の「SE-R1」と「SU-C700」には、「JENO(ジェノ) Digital Engine」と呼ばれる新開発のフルデジタルアンプが採用された。これは「ハイレゾ音源などのデジタルソースをパワーアンプの出力までノイズやひずみの影響を受けないように伝達するため、フルデジタル構成が有効と判断した」(井谷氏)ためだ。
ただし、従来のフルデジタルアンプは音質面で評価されていない面もある。その理由について同社では「ジッターによる時間精度の劣化とマルチビット信号を1bit PWM信号に変換する際の誤差によって音質劣化が起きていた」と指摘。それを解消するのが「JENO Digital Engine」だ。
JENOは“Jitter Elimination and Noise-shaping Optimization”の略で、ジッターとノイズの影響を極力排除する回路構成が特徴。低周波帯域のジッターを抑制するノイズシェーピング方式のクロック再生成回路、および高周波帯域のジッターを抑制するサンプリングレートコンバーターを組み合わせた独自のジッター削減回路を開発し、すべての帯域に渡ってジッターを削減するという。またPWM変換誤差については、ノイズシェーピングの速度、次数と再量子化数、およびPWMの階調数を最適化したPWM変換回路を新規に起こして対応した。
さらに「SE-R1」では、信号増幅部(パワー段)のトランジスタ素子にGaN(ガリウムナイトライド:窒化ガリウム)を使用する「GaN-FET Driver」を採用。一般的なパルス増幅アンプ(PWM)の4倍にあたる1.5MHzのスイッチング速度を実現したという。「正確に生成したPWM信号をそのまま電力増幅するためには、高速でロスの少ないスイッチングが必要だ。またシングルプッシュプル構成でも十分な大電力アンプを構成できるため、大電流の信号経路を最短化できるメリットもある」。
一方、従来のデジタルアンプは出力段のローパスフィルターを介してスピーカーと接続されているため、スピーカーのインピーダンス特性の影響を強く受けていたという。スピーカーのスペックにはインピーダンスも記載されているが、実際は一定でなく周波数ごとに変化する。「パワーアンプは、その影響を受けずにスピーカーを駆動することが求められる」(同社)。
そこで「SE-R1」「SU-C700」では、「LAPC」(Load Adaptive Phase Calibration)とよばれるキャリブレーション技術を導入した。LAPCは、マイクを使って接続するスピーカーの特性を調べ、アンプ側の出力信号を合わせるというアプローチ。スピーカーをつないだ状態でテスト信号を発生し、スピーカーの振幅と位相を測定、この結果をもとに独自開発の“スピーカー負荷適応アルゴリズム”を用い、DSPで出力信号を補正する仕組みだ。従来のアンプでは実現できなかった振幅と位相、双方の周波数特性の平坦化が可能になったとしている。「自然で微細な音のニュアンスを再現することが可能になった」。
低ノイズの信号処理技術――プリアンプとパワーアンプをつなぐ独自インタフェースも
ハイエンドパワーアンプ「SE-R1」および同ラインのネットワークオーディオプレイヤー「SU-R1」に採用されたのが、「Technics Digital Link」という新しい接続インタフェースだ。同社は“ハイレゾ再生に適したアンプ構成”を再検証した際、プリ部は微細信号を扱うソース機器(SU-R1)に入れ、信号経路の最短化を図ることが望ましいと結論付けた。一方で高周波/大電流を扱うパワーアンプは別筐体(きょうたい)として微細信号へのノイズ混入を防ぐ。その両者をつなぐ手段として、開発されたのがTechnics Digital Linkだ。物理的にはイーサネットケーブルを用い、L/Rで2本を同時に使用するかたち。伝送信号は最大384kHz/32bitまでサポートしている。
ユニークなのは、ボリュームノブを備えている「SU-R1」側では実際に音量を調整しないこと。本来、プリアンプは音量調整の役目を持っているが、デジタル音量調整ではビット落ちなどの劣化も懸念されるため、R1シリーズではボリュームノブから得た“音量調整情報”をデータとして音声信号と一緒にパワーアンプへ伝送し、PWM変換の直前で調整する仕組みになっている。
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