HDRが映画を変える――2015 CES振り返り(後編):麻倉怜士のデジタル閻魔帳(1/3 ページ)
DVDやBDへの進化では、解像度の向上以外のインパクトは小さかったが、HDRが導入される4K対応Blu-ray DiscやVoDでは、よりディレクターズ・インテンションに忠実な映像を見られる可能性が高いという。AV評論家・麻倉怜士氏に詳しく聞いた。
1月上旬に米国ラスベガスで開催された「2015 International CES」。8Kや有機ELテレビ動向に触れた前編に続き、今回は注目のHDR(high Dynamic Range)と4K対応Blu-ray Discについて、AV評論家・麻倉怜士氏に詳しく聞いていこう。
――今年のCESではHDRが1つの話題でした
麻倉氏: そうですね。全体を通して提案性の高いのはHDRでした。2014年あたりから注目され始め、昨年の「2014 CES」ではシャープと中国のTCLが「ドルビービジョン」対応のテレビを参考展示していました。
麻倉氏: 今年は、東芝(ドルビーブースに展示)と、LG、サムスン、TCL、ハイセンス、ビジオなどがドルビービジョン対応のテレビを参考展示しました。またOTT(Over The Top)ストリーミングビデオ事業者のNetflixやhulu、ワーナーホームビデオがドルビービジョンをサポートすると明らかにしています。一方、昨年は対応テレビを参考展示していたシャープが今年は出していません。
麻倉氏: ほかにもHDRをサポートする次世代Blu-ray Disc「ULTRA HD BLU-RAY」のプレイヤーをパナソニックが参考展示するなど、大きな動きになりました。
――HDRが、このような大きな動きになった理由を教えてください
麻倉氏: きっかけは、2013年10月に米国で開催されたSMPTE(Society of Motion Picture & Television Engineers)総会でドルビーが関係者たちを前にプレゼンを行い、「モアピクセルからベターピクセルへ」と訴えたことです。つまり「高い解像度ばかり追うのではなく、より良い画素を作らなければならない」。“ベター”には2つの要素あって、ハイコントラストとハイカラーを挙げています。UHDTV規格(4K/8K)のBT.2020で色域は広がりますから、次はHDRでハイコントラストを狙いましょう、というわけです。
昨年1年間でドルビーは各方面に働きかけました。これにより、4K対応Blu-ray Discの規格化を行っているBDA(Blu-ray Disc Association)や放送/コンテンツ業界も感化されてきて、今回のCESで集約されたという流れです。
――しかし、4K対応Blu-ray Discは「ドルビービジョン」ではないHDRを採用すると聞いています。
麻倉氏: そうです。BDAは昨年から4K対応Blu-ray Disc「ULTRA HD BLU-RAY」の話を始めていました。4K BDには4K解像度のほか、HEVC圧縮、10〜12bit化、そしてHDR技術としてSMPTEの規定するオープンフォーマットを採用します。ドルビービジョンは“オプション”として入る見通しです。ライセンス料の高さがネックになったようですね。
CESの後でハリウッドのスタジオを訪ねましたが、各スタジオが共通して乗り気なのがHDRで、実は4Kはさほどでもありません。ワーナーに話を聞いたところ、「4K BDはサポートするが、それはHDRがあるから」と話していました。理由をたずねると、「4Kと2Kは、画面から離れて見ると違いが分からない。でもHDRは分かるから」だそうです。
ワーナーはOTT動画配信と4K BDの2正面作戦で対応を進めます。ここまで積極的な姿勢を見せているのはワーナーだけですが、ほかのスタジオでも4K BDが採用したSMPTEのオープンスタンダードにのった形のデモンストレーションをしており、HDRは積極的にサポートしたいといった印象を受けました。
――HDRによって、コンテンツはどう変わるのでしょう
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