ルンバの動きは“ランダム”か?――実は“臨機応変”タイプだった:滝田勝紀の「白物家電スゴイ技術」(3/3 ページ)
ランダムタイプか、マッピングタイプか――最近、ロボット掃除機の動きを2つに分類する風潮もあるが、実はルンバはどちらにも該当しない。危険を素早く回避し、あくまでも掃除という目的を遂行するルンバの人工知能について、国内総代理店の技術担当者に話を聞いた。
「Fetchは、iRobotが1990年代に開発した地雷探査ロボットで、ルンバの開発にもっとも影響を与えたロボットの1つです。後にルンバに搭載されることになる、人工知能“AWARE”のプロトタイプを初めて採用しました。地雷原というのは世界の紛争地域に未だに存在し、それにより多くの人々が犠牲になっています。そして土中に埋められた目に見えない地雷を人間の代わりに探し出すのが、Fetchの役目です」。
「地雷原というのは、1つとして同じ状況はありません。路面状況だって、ほとんどがでこぼこだったり、決して動きやすいところではないのです。でも、どんな状況でも“地雷を見つける”という最終目的のために、Fetchは動かなければなりません。ちょっとした草にタイヤが絡まって動けなくなったとか、穴に落ちてしまったとか、自ら危機を回避できないようでは役に立ちません。それでは、その場所に新たに足を踏み入れた人間が、地雷によって命を落とす危険性があるからです。そういった過酷な状況で鍛えられたFetchの人工知能が、後にルンバに搭載されているのです」。
ルンバが掃除をする部屋というのも、1つとして同じ状況ではないという点が、実はFetchと大きく共通するところだ。しかも、部屋の広さをしっかりと把握しながら、全体を清掃し、ゴミを除去しなければならないというルンバに科せられた目的と、Fetchが目の前の地雷原の範囲をしっかりと理解しながら、どこにあるか分からない地雷を見つけ出し、除去しなければならないという目的も、危険の有無という違いはあるものの、同じ動きを必要とする。
「そんな状況で鍛えられたFetchですから、当然ですがいちいち状況が変わるごとに、立ち止まって考えているようではダメです。危険が迫ったら、考えるまでもなく臨機応変に回避行動を取ってくれないと役に立ちません。ルンバもそんなFetchの考え方が基本となっているので、そのような動きができるのです。
ルンバも初代モデルから、基本的な考え方は変わらないのですが、どんどん行動の精度は高まっています。人工知能がどれだけ多くのことを素早く考え、iAdaptで各部にその動きを知らせ、スムーズに動くか。まずこの連動性が、モデルチェンジをするごとに驚くほど進化しています。そのうえで、さらにルンバがどれだけスムーズに危機回避できるかも、精度が大幅に高まっています」。
危機回避というのは具体的にどういうことだろう。
「例えば、ロボット掃除機でいえば、落下する危険のある段差がある時に、いかに落ちないようにするかということです。ロボット掃除機の動く環境で、落ちるといえば階段や玄関が考えられます。一般的にロボット掃除機はセンサーなどで段差をみつけたら“段差がある。後ろに下がって落ちないようにしよう”と考えて、危機回避していると思われがちです。でも、その点に関してだけは、実はそのような思考プロセスは、ルンバは行っていません」。
ルンバは考えてないということなのか?
「正確にいえば、考える前に危機回避の行動しているということです。これは人間の脊髄反射などと同じだとイメージしてください。例えば人間は手が熱湯に触れた際、反射的に手を離しますよね? “熱い。触っている手を熱湯から出さなければ……”なんて、いちいち脳から指令を送っていないはずです。そんなことをしていたら、とっくに人間はやけどしてしまいます。人間にはこのようにDNAに危機回避能力というのが始めから備わっていて、それが脊髄反射といわれているものです。ルンバも同じです」。
「ルンバも段差があるとセンシングにより分かった時には、実はいちいち人工知能までその認識を戻していません。これは目に見えない思考プロセスなので、イメージで説明しますが、落ちると思ったら、ルンバの手足であるタイヤは即座に落ちない方向に動くのです。まるで人間が脊髄反射するように。タイヤ自体が判断している感じでしょうか? あくまで分かりやすく言えば、ですが」。
人工知能に情報をフィードバックするまでもなく、状況に応じて臨機応変に動くルンバ。「ロボットメーカーであるiRobotが、ルンバ発売の前から長年開発を積み重ねてきたからこそ実現できた叡智なのです」(曽根氏)。
ルンバはロボット掃除機のオリジナルである。現在、ロボット掃除機市場の圧倒的ナンバー1に君臨し、この日本国内でもシェア7割以上を維持。全世界では累計1200万台以上販売されている。ここでは、ほんの一部分ではあるが、そのオンリーワンな技術の高さを説明した。これ以外にも、機密レベルでロボットメーカーならではの技術が多数に渡り込められているのがルンバである。近年、家電メーカーから多くのフォロワーが登場しているが、それらとは明らかに異なる考え方で作られた本当の“ロボット”ということが分かるだろう。
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