安くて音と使い勝手のいいレコードプレーヤーが欲しい!――そんなわがままな人にVOXOA「T-50」:潮晴男の「旬感オーディオ」(2/2 ページ)
最近、若い人達にも新鮮なメディアとして受け入れられているアナログレコード。今回はレコード入門層にも最適なレコードプレーヤー、VOXOA「T-50」の使用記&試聴記をお届けしよう。
もっと凄いのはTACET(タチェット)レーベルがリリースするカロル・リッチィ指揮、オランダフィルハーモニーの演奏するラヴェルの「ボレロ」だ。「ボレロ」は読者もご存じのとおり最初から最後まで同じリズムが続く珍しい楽曲である。しかも始まりはpp(ピアニッシモ:とても弱く)で終わりはff(フォルテッシモ:とても強く)で幕を閉じる。この楽曲を普通にレコードに刻むと最外周はppで最内周にffが来る。CDの場合デジタル信号なので何の問題もないが、レコードは一定のスピードで回転しているため、内周に行くほど線速度が速くなり、振幅の大きい信号に対して針飛びを起こしやすくなる。そこでこのレコードは逆転の発想で最内周からスタートさせ外周に向かって回転するが、マニュアルモードに切り替えればこのレコードも見事に最後まで再生する。
「オンリー・イエスタディ」に話を戻すと、付属のカートリッジと内蔵のフォノアンプを使った標準状態ではゴロやスクラッチノイズも少なく高域もスムーズでクリアなサウンドを聴くことができた。音の厚みは平均的だが安物のプレーヤーに見受けられるようなぺらぺらした感じは全くなく心ゆくまで音楽を楽しめる。
続いてこのカートリッジの出力を直接アンプのフォノ入力に繋いでみる。この時プレーヤーの背面にあるスイッチを「LINE」から「PHONO」に切り替えるとフォノダイレクトになる。音の鮮度感はアップするし音場も広がるが、高域にかけてはいくぶんクセっぽい感じが残る。たぶんこれはカートリッジ本来のキャラクターなのだろう。付属のカートリッジではフォノダイレクトより、内蔵のフォノアンプを使った「LINE」出力のほうが、バランスが取れている印象だ。
次にヘッドシェルを外しカートリッジを手元にあったオーディオテクニカの30年前のベストセラー「AT-150E」に交換してみた。ユースト品というより骨董品に近い時間の経過したカートリッジだが、フォノダイレクトで使うとこれが何と素晴らしいサウンドを奏でるではないか。一瞬にしてその違いが分かるほど鮮烈で余韻が深く、カレンのボーカルも丁寧に聴かせる。これを内蔵のフォノアンプ経由に戻すと音のグレードは向上するが、フォノダイレクトの時ほどの感動はなかった。付属のカートリッジを使う場合は内蔵のフォノアンプ経由で、カートリッジをグレードアップした場合はフォノダイレクトで使ったほうが、このプレーヤーも持ち味が出せるように思う。
48kHz/16bitのデジタル信号に変換する機能も
またこのモデルは背面にUSB端子を設けてアナログ信号を48kHz/16bitまでのデジタル信号に変換できる機能を装備している。プレーヤーに付属する「オーダーシティ」というフォーマットのCD-ROMをPCにインストールすればレコードの楽曲のファイルができるので、この信号をUSB-DACで再生すればアナログレコードのデジタル化が可能になる。レコードで聴くより音は綺麗になるがある部分整理された感じになるので、この機能はプラスαと考えてほしい。せっかくのレコードプレーヤーである。ぜひともアナログオーディオを積極的に楽しんでほしいと願う。
いずれにしてオーディオは手間暇がかかります。特にアナログは手塩にかけないといい音が出てきません。T-50は気軽にレコードを楽しむことができるプレーヤーだが、それなりの本格派なのでぜひともそうした可能性を引き出したい。ところでMはお嬢さんにT-50を買ってあげましたか?
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