音のコミケ「M3」 1万人動員のイベント主催者に聞く「同人音楽の20年」:Keyからひぐらし、ボカロまで(2/4 ページ)
今年で18年目を迎える音のコミケ「M3」。同人音楽の20年に迫る。
なぜ順調に参加者が増えた? M3の“3つの転機”
―― CDの売上が減っているのは知っているんですが、M3は参加者もうなぎのぼりですよね? なぜ増え続けているのでしょうか。
相川氏 実は一気に増えた、というより着々と増えてきたに近いです。
永尾氏 もちろん時期によってブームはありますが、何かのブームが去ったことで来場者が減るということはないですね。ニコニコ動画の「歌ってみた」も一時期より落ち着きを見せている印象ですが、それが来場者の減少に結びついたり、新しいジャンルが生まれたことで急激に増えたりということは今までにありません。
貴重な資料をいただいたので1998年の第1回と2016年春のサークル配置図を比較してみた。
第1回と第37回、配置図比較
1998年の第1回のサークル配置図
冒頭でも紹介した第1回のサークル配置図。左ページが参加サークル一覧で、見事に2ページ内で収まっている。
今月行う第37回のM3サークル見取り図&会場全体図
第1回は57サークルの参加だったが、今年4月24日のM3は約1400サークルが参加する見込みだ。これだけでも、規模が大きくなっていることが分かる。ちなみに現在のサークル一覧表はカタログの別ページにまとめてある。
筆者は2006年頃からの参加組であるが、当時は大田区蒲田の産業プラザPiOで行っていた。それが、横浜の大さん橋ホールや、東京流通センターへ会場が変わり、参加者数が年々増えていることを肌で感じていた。
1:最初はゲーム音楽だった
永尾氏 イベント設立当初は「Key」や「ラグナロクオンライン」の流行があり、ゲーム音楽が大本(おおもと)でした。オリジナルも少しずつ増えてきていましたが、サークル数自体は少なかったです。
相川氏 パソコン通信で頑張ってゲーム音楽のアレンジを作っていたり、カバーして歌ったりしていた人が多かったですね。
解説:「Key」とは
Key(キー)は、ゲームソフトメーカーである「ビジュアルアーツ」に所属するゲームブランドの1つ。主に恋愛アドベンチャーゲーム作品を発表し、ゲームで流れるサウンドトラックは「Key Sounds Label」(自社レーベル)から発売される。1999年発売の処女作「Kanon」にはじまり、「AIR」「CLANNAD」「リトルバスターズ!」などの作品は初版10万本以上を売り上げた。感動的なシナリオや笑い、友情話を取り入れたノベルゲームとして定評がある。
解説:「ラグナロクオンライン」とは
「ラグナロクオンライン」とは韓国のゲーム会社Gravity(グラビティ)によって製作されたオンラインゲームのこと。原作である韓国の漫画「ラグナロク」は北欧神話がベースとなっており、ファンタジー風の作り込まれたストーリーやグラフィックが人気。BGMは韓国の音楽家集団「SoundTeMP」が制作しているもので、夢中になるファンも多い。ユーザーがアレンジした曲を公開するなど、同人音楽が盛んなジャンルでもあった。
2:オリジナルが増え、メジャーデビューするサークルも出現
永尾氏 転機となったのは2003年ぐらいから。ゲーム音楽のカバーなどではなく、オリジナル作曲で参加するサークルが増えたのです。今ではプロデビューしたSound Horizonさんも参加していました。
相川氏 2003年ぐらいから霜月はるかさん、片霧烈火さんなどのシンガーソングライターさんが自分のサークルを持って動くなど少し傾向が変わりました。
―― 自分のサークルを持つ前は、当時どうやって歌い手たちはM3に参加していたのでしょうか。
永尾氏 サークルさんのところでゲスト参加して歌うなど、メインホームを持たない歌い手さんが多かったです。あと声優の原田ひとみさんがサークル参加するようになり、新人声優さんや声優の養成所に通う人も参加者として増えるようになりました。
―― なるほど。原田ひとみさんもM3参加当初からご自身のバンドを組まれていましたよね。趣味で音楽をやっていきたい人もM3に来るし、それに加えてプロを目指す声優さんなども参加するようになったと。
永尾氏 シンガーソングライターの志方あきこさんが小鳥遊小鳥さんと一緒に同人音楽サークル「VAGRANCY」を立ち上げたり、「しもちゃみん」など歌い手同士でユニットを組んだりする人も出てきました。
解説:「しもちゃみん」とは
「M3の歌姫」ともいえる霜月はるか氏、茶太氏、片霧烈火氏(みん)の3人が組んだユニットのこと。片霧氏が「みん(様)」と呼ばれている理由は、以前使用していた芸名「天弄御魂(てんろうみたま)」から。3人とも古くから仲が良く、M3でもそれぞれのサークルで交流がある。
3:「ボーカロイド」や「歌ってみた」の出現
何年かM3に参加していて筆者が感じたことは「参加者層」の変化である。特に、10代〜20代にニコニコ動画が流行した2011年頃から、動画経由で音系に入ってきたライト層が増えた気がしている。
―― ボーカロイドが出てきて何か変わったことはありましたか? ボーカロイドの前にPCゲーム作品「ひぐらしのなく頃に」など専用のBGMが同人音楽サークル中心に制作されることもありましたよね。このあたりで時流が変わった印象があります。
永尾氏 2011年頃に「ボーカロイド」による転機がありました。ニコニコ動画が登場して、初音ミクにより音楽を作るために必要だとされていた環境に変化が生まれたんです。
相川氏 以前は音楽1つ作るのに機材だったり、歌ってくれる人のアサインだったり、そろえるものがたくさんあったんです。しかし、ボーカロイドの登場によりPC1台で完結するケースも出てきたんです。
―― ボーカロイドをきっかけにM3に訪れる参加者が少しライトな層になったというか。このあたり、どうですか?
相川氏 そうでもないですね。「クラブミュージックを楽しむオタク」といえるようなライトな層ももちろん増えましたが、それ以上にボーカロイドやニコニコ動画は、M3の常連さんだった人と相性が良かったんだと思います。私たちは、もともとM3に来ていた人が「ボーカロイド」を新しいジャンルとして受け取ったという見方が強いです。
―― もともとの参加者層とマッチして、またそこから新しい文化が生まれたのですね。
相川氏 以前パソコン通信で頑張って音楽を作っていたにもかかわらず、M3から遠ざかっていた人たちが初音ミクをきっかけに戻ってきた印象がありますね。
―― 大本だったゲーム音楽を作っていた人たちが戻ってきた、と。ミュージシャンのサエキけんぞうさんもM3にサークル参加されていて、イベントが年代を問わず愛されている証拠だなと思いました。
相川氏 はい。サエキけんぞうさんは1983年頃に「パール兄弟」のボーカリストとして活動していて、日本のテクノユニット界では有名です。サエキけんぞうさんのような大御所までM3に親しみを持って参加してくれるのはうれしいですね。
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