検索
連載

「ランニング中にアドバイス」 AI内蔵小型ポッドは未来のランニングコーチか

Share
Tweet
LINE
Hatena

 「もう少しアゴを引いて――。良い姿勢です。そのまま走り続けましょう」。機械のランニングコーチがそんなアドバイスをくれる未来が近く実現するかもしれない。

 ランニングやジョギングは最も手軽にできるフィットネスの1つだろう。自分の体だけでできるので、地元はもちろん出張先やホリデー中でも日課として続ける人は多い。しかし一人でできてしまうために、実際に自分の走りが正しいのかどうかについては、パーソナルコーチでも雇わない限りなかなか分からない。

 コーチを雇うにはコストがかかる上、スケジュールの調整も必要だ。ランニングやジョギングの手軽さが半減してしまう。デンマークで開発された「SHFT IQ」は、ランニングの手軽さにパーソナルコーチを掛け合わせ、この問題を解決したという。

 このデバイスは、ユーザーが装着することでリアルタイムに走り方をチェックし、指導してくれるというもの。

コーチ役として開発されたウェアラブルデバイス


小型ポッドはチェスト・ストラップか、ランニングシューズに装着する

 IT業界の市場調査を行う米国のインターナショナル・データ・コーポレーション(IDC)によれば、2016年第3四半期におけるウェアラブルの市場の85%を占めるのが、フィットネスバンド。1年前と比較して大幅伸びを示している。フィットネスバンドの人気の秘密は、「シンプルさ」とIDCは分析する。多機能を備えるスマートウォッチではなく、操作が簡単でフィットネスに特化したデバイスを製造・販売しているメーカーが売り上げを伸ばしていることがそれを裏づけている。

 フィットネスバンドの一般的な機能といえば、心拍数、歩数、移動距離、消費カロリーなど、装着者の動きの計測・記録・分析が主だ。それと同様の働きを備えつつもSHFT IQが主眼に置くのは、ランナーへアドバイスを提供する機能だ。

コアにはインテルのIoT技術

 「より効率的に、けがを少なく、そして楽しく走るために」と、初級・中級のランナーのために生み出されたSHFT IQは、走り方を測定するハードウェアと、無料の専用アプリをダウンロードしたスマートフォンがあれば、すぐに利用が可能だ。デバイスの見た目は一辺が小指の長さにも満たないサイズの三角形のポッド。軽量で防水性に優れ、バッテリーの寿命も長い。それをランニングシューズ、あるいは付属のチェスト・ストラップに付け、スマートフォンを持って走るだけだ。

 小型ポッドには、インテルの「Curie」(IoT向け小型コンピューティングプラットフォーム)に、パターン認識を行う人工知能が内蔵されており、動きや姿勢を検知する。毎秒数千回にも及ぶデータ読み込みを行い、精確な情報をBluetoothでつないだスマートフォンのコーチングアプリに伝え、ランナーに音声でアドバイスする。


ランニングシューズに装着時

走り方に関するさまざまな情報を取得し、的確にアドバイス

 使い始めの際には、フォームや速さなど、いつも通りに走る。それを基にSHFT IQは初回用トレーニングとして、最も改善の余地があり、かつ比較的直しやすい箇所に焦点を当てた指導を行う。短期間に急激なスキルアップを図るのではなく、走るたびに少しずつテクニックを上達させるよう配慮したトレーニングが設定される。ランナーはSHFT IQとスマートフォンを身に付けてアドバイスに従って走るだけで、無理なく理想的な走りを実現できる。

 各人の走りを計測する際の測定基準は多岐にわたる。歩幅、1分間に進む歩数、着地時に足のどの部分が地面に触れているか、足が地面から離れている時間、地面についている時間、接地時のインパクト、走行速度、つま先が地面を離れる際の角度、足と地面の角度などだ。

 SHFT IQをバージョンアップしていく過程で、採用する予定になっている測定基準もある。それは「ワット」だ。ワットとは、前に進む、停止する、地面を蹴る、左右に動くなどに使う力の総計。疾走とゆっくりした走りを繰り返すインターバルトレーニング時に特に有益とされる。疾走時にもう少し速く走る余裕があるか、ゆっくり走るときの速度が遅すぎないかなどを、ワットを用いて判断すれば、適切なトレーニングを行えるという。

 ワットは長距離を走る際、オーバーワークになるのを防ぐのにも有効だ。体に負担がかかっていないかどうかを判断する際には心拍数が考慮されることが多いが、心拍数はストレスの有無、カフェインの摂取、年齢など、さまざまな要因で上下するので、走った際の体の状態を正確に示しているとはかぎらないというのが、SHFT IQ開発者の考えだ。

 走り終わるごとに、レポートや、今までの記録が確認できる。他のフィットネス・デバイスが提供しているような情報に加え、直近のランニングでは何に焦点を当てていたかと、実現にあたっての訓練方法、それに対し、実際の走りはどうだったのか、次回はどこに重点を置いて走るのが良いか、最終目標は何にすべきかなどのアドバイスを得られる。蓄積したデータとの比較もでき、グラフなどを用いた、分かりやすい説明がもらえるという。

 一定期間SHFT IQを利用したランニングに行かなかった場合には、ランニングを続けるよう促す通知が来る。ランナーにトレーニングを継続させる機能も付いているというわけだ。


スマートフォン上で自分の走りを確認。コーチ・レポートを見る

北欧ならではの、スタイリッシュなデザイン

 小型ポッドというこのデバイスの形状には、使いやすさと同時にデザインにも気が配られている。スウェーデンの工業デザインスタジオ、HOWLデザインスタジオが手掛けた、洗練されたシンプルモダンなデザインは、北欧デザインのお手本ともいえそうだ。世界でも指折りのデザインコンテスト、レッド・ドット・デザイン賞のプロダクトデザイン部門でも受賞している。IDCの調査では、ウェアラブルの売れ筋商品はデザイン性も優れていることが指摘され、SHFT IQはその点でも消費者の御眼鏡にかなうに違いない。

 生産は決まっているが、それをより円滑にするため、3月中旬から米Kickstarterで資金調達中のSHFT IQ。調達目標金額が5万USドル(約550万円)のところ、締め切りの4月13日を目前にして達成率は99%のところまできている(2017年4月10日時点)。製品が実現すれば値段は109USドル(約1万2000円)を予定。世界中のランニング・ファンに「コーチは誰?」と尋ねれば、「SHFT IQ」という答えが返ってくる日もそう遠くはなさそうだ。

キックスターター用のSHFT IQのビデオ。機能の説明だけでなく、開発者による開発の理由や、使ってみてのプロ・ランナーの声も聞くことができる

ライター

執筆:クローディアー真理

編集:岡徳之


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る