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子どもを外遊びに誘うSNS――親も納得、祖父母も夢中 自然を理解して良いことづくめなニュージーランドの取り組み

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 飛べない希少な鳥「キーウィ」や、13の国立公園を含めた、国土の30パーセントを占める保護区など、ニュージーランドは自然が豊かなことで知られる。そんな恵まれた環境で暮らすにもかかわらず、他国同様ニュージーランドの子どもたちも、長時間にわたり、携帯電話やコンピュータなどを使い、外に出て遊ぼうとしない。

 2015年、オークランド工科大学が2000人の親に子どもがどんな遊びをしているかを調査したところ、屋外での自由遊びを日常的にしている子どもはわずか100人に6人。一方、娯楽のためにスクリーンに向かっている時間が平日2時間以上、週末はそれ以上という子どもは10人中8人にも上った。

 親や教師が外で遊ぶように言ってもダメ。では、子どもたちが大好きなデバイスが外遊びを誘ったら? そう考えたのが、首都ウェリントンで映画製作に携わるポール・ウォードさんとヴィッキー・ポープさん。2人は、子どもたちがこの国の貴重な自然との絆(きずな)を育めるよう、専用のSNS、「ワイルド・アイズ」を2017年4月に設立した。

手順をスクリーンで確認したら、外へ!


「ワイルド・アイズ」のウェブサイトのトップページ

 「ワイルド・アイズ」は8〜12歳の子どもが対象で、参加は無料。アカウントを登録し、「ミッション」(任務)と呼ばれる自然・環境・科学関連のアクティビティーに挑戦する。手順はビデオや写真入りの説明を見れば、一目瞭然だ。ミッションをやり終えたら、写真を撮り、SNSに投稿。他のメンバーと共有する。

 コミュニティー内では、スクリーン上のごほうびも用意されていて、写真掲載後、絵文字やポイントなどを獲得できる。ポイント数を稼げば、プロフィール写真を面白おかしく加工する特典などを手に入れることもできる。他のメンバーからもらえる「いいね!」も励みになる。

 インターネット上の子どもの安全についても配慮されていて、米国の専門家に助言を得た上で運営されている。本名の代わりにハンドルネームを使うようになっていたり、投稿される写真やコメントに個人情報や誹謗中傷が含まれていないかを主催者がチェックしたりと、万全が期されている。さらに、自分の子どもが写真を投稿すると、親に告知が行く仕組みになっている。

興味をそそるミッションをこなし、豆知識も身につける


人気があるミッションの1つ、「ゲット・ロスト!」。この男の子は腕をうまく芝生に見えるよう変身させている

 スタートから1カ月ほどで登録者は1000人を、ビジターは1万5000人を超えた。7月4日現在、ミッションは23種類。自然の背景にとけ込むカムフラージュに挑戦する「ゲット・ロスト!」、屋外で五感からどんなことが感じられたかを報告する「ネーチャー・ニンジャ」、カワカワと呼ばれる原生植物を用いたお茶をいれてのお茶会「カワカワ・ティーパーティー」などがある。

 これらは面白いだけではなく、子どもたちがおのずから自然・環境・科学分野に目を向け、学び取れるように作られている。例えば、「ゲット・ロスト!」では動物や昆虫が敵から身を守るために擬態をすること、「ネーチャー・ニンジャ」では野生動物が五感を使って生きていること、「カワカワ・ティーパーティー」では薬になるなど原生植物が持つ特色が学べる。

 雨の日に、室内で楽しめるものも用意されている。実際の洞窟の成り立ちを角砂糖のミニ洞窟で再現する「DIYケーブ」、掃除に使うホウ砂で本物そっくりのクリスタルを作る「クリスタル・マジシャン」などだ。

 ミッションはどれも国内の教育カリキュラムに基づき、いくつかの学校で試験的にこれらを行った際の結果が反映されている。環境保護団体、教師、科学者の意見やアイデアも盛り込まれている。自然界で起こる関連の出来事、人間との関わりなどが、写真やビデオ入りで面白く解説されているコーナーも加えられている。


屋内で楽しめるミッション、「クリスタル・マジシャン」。少し時間がかかる分、もらえるポイント数も多い

喜ぶのは子どものみならず、親、祖父母、教育関係者までも

 「『ワイルド・アイズ』をやっていると、自分の家の庭なのに、冒険をしているような気分になる」「次々とミッションをやりたくなる」と、子どもたちは夢中。

 親は「ゲームやビデオなど、あまり有益とはいえないことでデバイスに長い時間を費やすぐらいなら、遊びとはいえ、内容が教育的で充実している『ワイルド・アイズ』で遊んでほしい」「学校の休暇中にぴったり」と歓迎している。

 主催者が予想していなかった反響もあった。それは子どもたちの祖父母だ。孫の投稿に「いいね!」をしたいと、自らが登録するケースも見られるという。

 学校関係者の評判も良い。教育省のポータルには、「『ワイルド・アイズ』に注目。教師も生徒も夢中になること請け合い」と、またある学校のFacebookには、「生徒を外遊びに連れ出し、自然になじませるのに最適」と触れられている。

 多方面から期待が寄せられていることは、資金援助の状況からうかがい知ることができる。ユネスコの国内委員会、放送業界関連の有望なプログラムに資金提供を行う委員会「ニュージーランド・オン・エア」、経済の活性化を図る、ビジネス・イノベーション・雇用省などが投資を行っているのだ。

大切な宝である自然を感じ、守っていってほしい

 「ワイルド・アイズ」を立ち上げる前から、ポールさんとヴィッキーさんにはある確信があった。それは、「人は大事だと思うものしか守らない」ということ。

 英国の著名動物学者であるデイビッド・アッテンボロー卿の言葉に、「見聞き、経験してもいないものを、大事に思うことはなく、大事でないものを守ろうとは思わない」というものがある。つまり裏を返せば、「子どもたちに、自然を守ろうという気を起こさせるには、自然を満喫させ、大切なものであることを感じ取らせる必要がある」ということだ。

 「ワイルド・アイズ」のミッションを屋外で実践し、培った経験や喜びを経て、子どもたちの心にニュージーランドの環境を守りたい、守ろうという気持ちが芽生え、将来環境保護に積極的に参加する大人になってくれればと創設者の2人は考えている。

ミッションの1つ、「バックヤード・スパイ」の手順を説明したビデオ。追跡システムを手作りして、庭にどんな昆虫がやってくるかを探る

ライター

執筆:クローディアー真理

編集:岡徳之


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