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イタリア人以外で初めてフェラーリをデザイン、奥山清行氏が語る“ものづくり”の未来 (5/5)

[堀内彰宏,Business Media 誠]
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イタリア車がカッコいい理由

奥山 エンツォ・フェラーリをデザインする時に描いたもう1つのスケッチが下画像の右上の絵です。このスケッチをベースに、右下の写真のようにエンツォ・フェラーリの模型を作りました。クルマの模型は世界中どこでもクレイ(粘土)を使って作るのですが、トリノでだけはエポウッドという、硬化剤を混ぜると固くなって木のような特性を持つ素材を使って、のみとのこぎりとかんなとサンドペーパーで作ります。

ah_oku4.jpg イタリアの職人文化

 粘土は彫塑(ちょうそ)で、盛ったり削ったり自由にできるので、それを何回も繰り返して作ります。ですから、日本のクルマに粘土の色を塗って外に置けば分かるのですが、鉄板やプラスチックではなく粘土の形をしています。粘土を使って造形すると、自然と粘土の特性が出てしまうのです。「なぜイタリアのクルマは面に緊張感があって、遠目で見てプロポーションがきれいか」というと、実は小細工ができないような道具をある意味でわざと使っているからなんです。

 エポウッドで模型を作るに当たっては、硬化剤を混ぜても4時間くらいは固くならないので、前日に混ぜて帰って、次の日に削って作るんです。すなわち彫刻なんですね。レオナルド・ダ・ヴィンチのころから大理石を削ってものを作ってきたイタリアだからこそまだ職人がいて、大理石の彫刻を作るのと同じような感覚で今、職人たちがクルマの模型を作っているということは非常にすばらしいと思いました。世界中でトリノしかこの職人はいません。

 そうやってものを作ると、形は非常にきれいですし、仕事は早いしということで、「世界中の自動車会社がトリノに行って開発を委託するのは当然だろう」と思いました。そのもとになるのが職人さんで、それとCADや機械などの最新鋭の技術が組み合わさって作った結果がイタリアのクルマなんだと思いました。

 余談ですが、このスケッチは15分で描きました。普段15分でなんかスケッチは描かないんです。しかし、2年間すったもんだしてきて、なかなかいいものができず、フェラーリの会長からこの日にOKをもらわなかったら、もうこのプロジェクトはキャンセルになるという時のことでした。会長が帰りがけにヘリコプターのエンジンをかけて、「15分やるから絵を描いてこい」とおっしゃったので、スタジオに戻って15分、会長がサンドイッチを食べている間に描いたのがこのスケッチなんです。

 何を言いたいかというと、「プロとアマチュアの違いというのは、人生のうちで1度訪れるか訪れないか分からない15分のために準備をするのがプロ、準備をしないのがアマチュアということに尽きる」ということです。

 実は僕はそれまでに提案していたエンツォ・フェラーリのデザインは好きではなかったんです。いろんな人が入ってきて、いろんなことを言ってきたので、「良くないなあ」と思っていました。そこで、もし選ばれなかった時のために2〜3枚用意していたうちの1枚を取り出して、15分で赤い色を塗って、帰りかけていたフェラーリのモンテゼーモロ会長に見せたのがこの絵だったんです。ですから、「人生というのは15分のためにどれだけ準備できるかだな」と思っているのです。

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