第4回 ノンウェアラブルモバイルスタイル?!

ウェアラブルコンピュータというと,“こんな小さくなりました”といった,技術的な側面から語られることが多かった。しかし,そろそろ“現実に受け入れられるにはどうしたらよいか”を考え始める時期ではないだろうか。

【国内記事】 2001年3月22日 更新

 どんなにファッション性が高く高機能であっても,不便なものは誰も使いたがらない。パソコンを極小化するためだけのウェアラブルは,実装技術の高度化を茶化した小さなムーブメントに過ぎないように思えてならない。現実はどうだろう? 利用者は,身につけられるものと,付けられないものを見分け,道具としてモバイルガジェットを使いこなしている。

現実味を帯びてきたウェアラブルPC

 これまでたくさんのウェアラブルコンピュータが誕生したが,未だ商品として確固たる地位を確立したものはない。

 代表的なのがHMD(ヘッドマウントディスプレイ)やFMD(フェイスマウントディスプレイ)搭載のウェアラブルコンピュータだ。外見はロボットアニメなどで登場しそうな未来を彷彿とさせるゴーグルのようなもの。時計に埋め込まれたウェアラブルコンピュータというものもあった。

 オリンパスと日本アイ・ビー・エムが共同で開発したウェアラブルコンピュータも片目にFMDを装着するゴーグルタイプだが,実際の使用に耐えるほどの完成度を誇る(1999年11月の記事参照)。

 このウェアラブルコンピュータ本体にはCPUやメモリ,ハードディスクだけでなく,各種コントローラーやI/O拡張ボックスなど,普通のパソコンと同等の機能が実装されており,オリンパスが開発した単眼式FMDと組み合わせることでSVGA (800×600ピクセル)表示まで可能にしている。

 たった382グラムという,たばこの箱よりも小さなこのボックスの中では「Windows」が起動しており,FMDを覗き込むと“デスクトップ”が表示されているのが分かる。専用の入力機器を使えばカーソル操作はもちろん,テキストの入力も可能だ。試作機といえども,立派なパソコンとして完成されている。

パソコンを身につける必要はあるのか?

 筆者は以前,日本アイ・ビー・エムが開発した同等のウェアラブルコンピュータに触れたことがあるのだが,お世辞にも使いやすいとはいえなかった。インタフェースやディスプレイの性能に問題があるというわけではない。歩きながらWindowsを使う気にはなれなかったのだ。

 FMDは片目に装着するので,実際目前に拡がる光景を見ながら,ウェアラブルコンピュータの画面も見ることができる。

 しかしウェアラブルコンピュータを真剣に使おうとすると,立ち止まってかなり神経を集中しなければ操作することもままならない。また,ウェアラブルコンピュータは,目の前に拡がる光景に関する情報を与えてくれたり,何かを支援してくれるわけではない。

 “使う気になれない”というよりは,“移動”という行為とはまったくかけ離れた“パソコンを使う”という行為を同時に行うこと,つまり移動中にディスプレイを見続ける必要性に疑問すら感じたのである。

“ウェアラブル”の一つの解答

 “パソコン”そのものを体に据え付ける発想から離れた,こんな製品が先日発表されて話題となった。

 オンワード樫山 の「ICBスーツ//Palm Computing」は,Palm Computing m100と,それがスマートに収容できる専用ポケットを備えたスーツだ(1月16日の記事参照)。

 価格は5万9000円,普通のスーツと同額で購入できるらしい。オンワード樫山の直営店で3月10日から販売を開始している。なお販売個数は,1店舗20着の限定販売になるという。

 筆者が目を付けたポイントは,「専用ポケットにm100を収容しても型崩れを起こさない」というところだ。

 いくらPDAは小さいといっても,Palmなら150グラムくらいの重さはあり,厚みもある。シャツのポケットには入らないし,スーツやジャケットのポケットでは形が崩れてカッコが悪い。しっくり身につけられないPDAを“デザインの1つ”としてとらえた服を開発したことは評価できる。

 これらは単に洋服のアイディアであるが,モバイルガジェットを生活の一部に浸透させようとするための大きな役割を持っている。ウェアラブルコンピュータのような技術的挑戦とは一線を画した存在だが,“便利さ”という意味では劣らないのではないだろうか。

人間の発想を拡張する道具へ!?

 一体ウェアラブルコンピュータはどこに向かうのだろうか?

 新しい可能性を開く鍵となりそうな「Perceptual User Interface」(以下,PUI)という言葉がある。直訳すると“知覚ユーザーインタフェース”という意味で,人間の自然な動きに対応したコンピュータ用インタフェースのことをいう。

 一般にいうGUIでは,人間とパソコンは,あくまで「使う側」=人間,「使われる側」=コンピュータという関係に固定されていた。しかしPUIでは,コンピュータはあくまで人間を支援するために動作するものと考えられる。

 3年ほど前,米国アイ・ビー・エムが「PAN」(パーソナル・エリア・ネットワーク)という技術を研究し,COMDEXなどで発表していた。この技術を使うと,握手をするだけで,名刺などの個人情報を開いて交換できる。

 このサービスを利用するには個人情報が入った専用のボックスを体に装着する必要があるものの,握手をするだけで,人体を媒介としてデータが相手のボックスに自動的に送信されるので,利用者はコンピュータの存在を気にすることなく利用できる。

 またその発想をさらに発展させた技術を,ソニーが「ウェアラブル・キー」として開発している。このシステムは,自分の情報とパスワードを登録したリストバンドを身につけていれば,携帯端末などに手に触れるだけで,端末を自分ものとして使うことができる。

 FOMAで導入されるUIMが,よりフレキシブルになったものと考えればいい。

 従来のウェアラブルコンピュータは,“コンピュータとそれを使う人間”という関係から離れられなかったように思える。結果,高スペック,先端技術だけを追求する形になってしまった。

 今こそ新しいモバイルコンピューティングのスタイルが必要ではないだろうか。今後,人間がコンピュータの存在を気にしなくても使えるウェアラブルコンピュータの登場が期待される。

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[増田(Maskin)真樹,ITmedia]

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