Mobile:NEWS 2002年6月18日 03:55 PM 更新

無線LAN IPケータイの可能性

IP電話サービスと公衆無線LANサービスを組み合わせれば、“IPケータイ電話”が誕生する。将来のサービスとして注目を集めるIPケータイだが、実際はどこまで進んでいるのだろうか?

 ブロードバンドの普及で一躍主役に踊り出たアプリケーションに、IP電話サービスがある。音質や安定性に懸念はあるものの、電話料金を無料もしくは格安にしてくれるのは大きな魅力だ。また、最近の注目の1つに公衆無線LANサービス(いわゆるホットスポット)があるが、この2つの動きをながめていると、1つのアイデアが頭をもたげる。もし、公衆無線LANのエリアがもっと広がればIP電話の技術を応用して、IPによる携帯電話が可能になるのではないだろうか?……そう考えたあなたは鋭い。

PDAとソフトフォンの組み合わせによる可能性

 これが技術的に可能かといわれれば、答えはもちろんイエスだ。無線LANの帯域は11Mbps。最大で64Kbpsという音声通信を載せてしまう余地は十分にある。

 考えられる機器構成としては、PDAに電話機能をつけてしまうことだろう。この場合、電話機能はソフトウェアで組み込まれる形になる。PCの場合、ソフトとヘッドセットの組み合わせでIP電話を利用する形は既にある。それをPDAに載せ替えると考えればいいだろう。

 コンパクトフラッシュ型の無線LANカードも各社から発売されており、PDAを無線でインターネットに接続させることは簡単だ。ソフトフォンとCF型無線LANカードの組み合わせでPDAによる無線LAN IP携帯電話は実現できる。

 この場合の難点はインタフェースだ。実際に街中でPDAを取り出し電話をかけられるだろうか。それはかなりオタクな風景のように私には思える。電話はやはり電話の形で普通にかけたい。こう思うのは多くの利用者の自然な感情だろう(そういえばむかしPDAと一体化したPHS端末があったが、普及しなかった)。実際、固定通信でのIP電話サービスも、PCを端末とするのではなく従来の家庭の電話機を使える形にしたことで、多くの利用者を獲得することに成功している。

既に登場しているワイヤレスIP電話

 となると、次に考えることは、無線LANを載せた携帯電話端末が作れないかということだろう。


米Symbol Technologiesの「NetVision」

 結論を言ってしまうと、実は無線LANを使った携帯電話端末は既にある。知る人ぞ知る電話端末だが、それが米Symbol Technologiesの「NetVision」だ(同社サイトを参照)。形を見るとちょっとごっつい、ひとむかし前の携帯電話を彷彿とさせる(もっとも米国ではこれが携帯電話の普通の形なのだろう)。この端末は無線LANの標準規格IEEE 802.11bに対応。無線LANアクセスポイントに接続すれば、すぐにでも無線LANによるIPケータイが実現になるわけだ。これこそ求められている製品ではないのか?

 この製品、実は日本でもこれまでにいくつかの展示会において片隅に出展され、無線LANと組み合わせた実演が行われている。想定される利用シーンは、まずは企業。無線LANを社内ネットワークに採用した企業が、構内コードレスとして使う形だ。

 だが、実際にこの電話端末を利用しているという事例は国内ではほとんど聞かない。それは無線LAN IP携帯電話を導入しようにも、日本では強力なライバルがいるからだ。

ライバルはPHS

 そのライバルとは、PHSだ。

 日本が開発した世界に誇る(ことになるはずだった)独自の通信技術。公衆網の世界では携帯電話との競争に敗れてしまったが、PHSが電話として利用される環境はまだ残っている。企業の内線電話の分野である。

 工場やオフィスビルで内線用の基地局を設置し、PHS端末を社員にもたせて、作業中・離席中の連絡手段としている例は多い。構内コードレスとしてはPHSは主流だ。

 米国などでは無線LAN IP携帯電話の需要もあるかもしれないが、PHSという完成度の高い移動電話技術が存在する日本では、あえて無線LANを構築してその上でのIP電話を採用しようという企業は少ない。PHSは数年前から公衆網でサービスが提供されてきたためかなりの実績があり、端末価格も低廉だし、デザインも使い勝手も洗練されている。

 もっとも公衆サービスとしては事業の売却が相次いだり、データ通信へのシフトが進むPHSなので、その影響を受けて企業内利用にも変化をもたらす可能性がないともいえない。それがPHSのリスクではある。しかし現実の選択肢としてまだPHSがあるなかで、無線LAN IP携帯電話の普及する余地は広くない。

PHSがIPケータイになる?

 むしろ可能性があるのは、PHSをIP電話にしてしまうことかもしれない。そんな構成も可能になりつつある。

 どういう形をとるのか? PHSの無線区間は移動電話技術として既に完成され、端末としてPHS電話機も普及している。ここに手を入れあえて無線LANを採用する必然性は薄い。そこでPHSではなく、基地局に手を入れてIP化するのだ。

 現在のPHS基地局は、ISDN回線に接続される。ISDNを使うのはPHSがISDNのモバイル版として開発された移動電話技術だからだ。しかし固定通信の主流がADSLやFTTHにシフトしつつある現在では、やや時代遅れの観がある。

 この設計を変更し、イーサネットに直接接続できる基地局を作ってはどうだろう。VoIP機能を搭載し、イーサネットのインタフェースを設ける。そうすればADSLやFTTHの回線に接続することが可能になる。つまり、無線区間や端末は現行のPHSの技術をそのまま使い、基地局から先をIP電話にするという構成である(下図を参照)。実際こうした基地局製品は既にあり、構内コードレス用に企業などで利用されている。また、既存の基地局で、交換機までのアクセス回線はISDNを使うが、交換機にVoIPゲートウェイを搭載し、そこからIP網に接続する構成も考えられる。


無線区間や端末は現行のPHSの技術をそのまま使い、基地局から先をIP電話化した場合の構成

 PHSでIP電話のサービスの検討をする事業者も現実に登場してきているようだ。アステルのPHS事業を買収した鷹山が、「基地局まではPHSのOSモードで、基地局から先はVoIPを用いてつなぎ放題の音声通話を可能にする」IP電話のサービスを検討していることを明らかにしている(5月14日の記事を参照)。

 一方で、先述の無線LAN IP携帯電話製品には、公衆無線LANサービスの事業者からの問い合わせが相次いでいるという。ブロードバンド競争の進展で、なんでもありの観がある最近の通信業界。ワイヤレスのIP電話を制するのはPHSか、無線LANか。ちょっとした注目なのかもしれない。

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[大水祐一, ITmedia]

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