Mobile:NEWS 2003年7月4日 09:56 PM 更新

高精細液晶が“eBook普及ストーリー”のページを開く

今年後半から来年にかけて登場予定のeBook専用端末によって、電子書籍市場が大きく拡大する可能性が出てきた。イーブックイニシアティブジャパンの鈴木雄介社長が、高精細液晶を搭載した専用端末によるeBook事業の可能性について語った。

 電子書籍(eBook)が出版業界に革命を起こすと言われて久しいが、その市場は2002年で出版市場全体の0.1〜0.2%前後と、ごく小規模に留まっている。だが、今年後半から来年にかけて登場予定のeBook専用端末によって、電子書籍市場が大きく拡大する可能性が出てきた。そのキーワードは“高精細液晶”だ。

 東京ビッグサイトで開催している「フラットパネルディスプレイ製造技術展」の技術セミナーで、電子書籍事業を展開するイーブックイニシアティブジャパンの鈴木雄介社長が、高精細液晶を搭載した専用端末によるeBook事業の可能性について語った。

 今年4月に、松下電器産業が国内初の本格的な電子書籍端末(イーブック端末)「ΣBook」を発表した。液晶パネルを2枚装備して、あたかも単行本を開くようなスタイルで読書が行えるのがΣBookの特徴だ

 。しかし、片面A5サイズの大きめなボディに搭載された液晶は、カラーではなくモノクロ表示。音楽/動画再生などもできない“読書専用端末”という仕様に、近未来の読書スタイルを思い浮かべていたユーザーからは、期待外れといった声も聞かれる。


7月2日から開催している「NETWORLD+INTEROP 2003 TOKYO」の松下ブースで披露されたΣBook。ブルー&ホワイト表示のモノクロ液晶は、週刊の少年誌っぽい雰囲気だが、チープさは否めない

 だが、このような多機能重視の考えに対して鈴木氏は「本は電気掃除機ではない。機能を満載すると、かえって使いにくくすることがある。機械として優れていることが読書に適しているとは限らない」と警鐘を鳴らす。

 専用端末でなくとも、高性能なカラー液晶ディスプレイを装備したノートPCやPDAで十分代用できるのではという意見もある。だが鈴木氏は、現在のPCやPDAで電子書籍を読んでいるユーザーは、多くの我慢を強いられていると述べる。

 ノートPC、特に1キログラム台のモバイルPCの液晶デュスプレイは、解像度がXGA(1024×768ピクセル)のものがほとんどだ。これをppi(pixel per inch)で表すと、10.4インチが123ppi、12.1インチが105ppiとなる。

 「eBookでは、日本の書籍の特徴である“小さなフリガナ(ルビ)”がきちんと読めることが重要。そのためには、180ppi以上の解像度が不可欠。液晶の解像度が低いPCやPDAでは、文字がつぶれてしまうのを防ぐために漢字の横棒を1〜2本間引いて表現する“嘘文字”が蔓延している。漢字を学習中の子供たちに、こんな嘘文字で学ばしていいわけがない」(鈴木氏)


液晶の解像度が低いPCやPDAでは、“嘘文字”で文字つぶれを回避している

 「PCやPDAのフォントは貧弱で、印刷文字が持つ多様性が表現できない。また、1キロ以上あるノートPCでも、画面の大きさは単行本の見開きサイズよりも小さい。手のひらサイズのPDAなどは論外。目と画面との距離も本を読むにしては遠く、長時間の読書には向かない」(鈴木氏)

 日本での電子書籍事業では、新刊の40%を“マンガ”が占めているという日本独特の出版文化も考慮しなければならない。データ量の多いグラフィックが中心で、絵と文字が混在するマンガをいかにキレイに見せるかという難題が、eBookの表示ディスプレイに課せられる。また、世界最高水準を誇る日本の印刷技術も、電子書籍普及には足かせになっている。

 「だからこそ、高精細の液晶ディスプレイを搭載した専用端末が必要となる。180ppi以上で8〜16階調が表現でき、印刷に限りなく近いコントラスト、乱暴に扱える耐久性、徹底した省電力性能を持った液晶ディスプレイ搭載のeBook端末なら、日本の出版市場でも成功できる」(鈴木氏)

 イーブックイニシアティブジャパンと松下電器産業とが、このような議論を重ねた上で開発されたのが、ΣBookなのだ。PCに搭載される液晶の約4倍の画素密度を持つ高精細反射型液晶パネルは、通電していない状態でも表示が消えない「記憶保持型」で、単3形乾電池2本で約100冊の本が読める省電力設計となっている。この高精細液晶を2枚装備して、本のように見開きで読書できる専用端末が、3万円台という低価格で提供される予定だ。

 「ΣBookは今年11月ぐらいに発売すると聞いている。この読書専用端末は、日本から世界に発信するデファクトスタンダードとなると信じている」(鈴木氏)

 現在、日本の出版市場では平均40%の返品があり、ひどいものでは90%が返本されている。普通の企業ならとっくに倒産するような数字だ。一方、書店側は絶版や品切れによって販売チャンスを多く失っている。

 「電子書籍では、デジタル化することで在庫という概念がなくなり、これまで出版業界が抱えてきた紙の問題を一気に解決する。eBookのシステムは、個人用端末だけでなく、図書館用読書モニター、写真立て、医療用カルテ、整備マニュアルと応用範囲は広い。高精細液晶を搭載したeBookには、大きな市場が待っている」(鈴木氏)

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関連リンク
▼ イーブックイニシアティブジャパン

[西坂真人, ITmedia]

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