Mobile:NEWS 2003年9月1日 11:29 PM 更新

究極のバイオメトリクス?――日立、“指の静脈”を使った個人認証システム

日立製作所 中央研究所が、「指静脈認証システム」の小型/高速/高精度化技術を新開発。“指の静脈”という外部からほとんど見えない生体内部パターンを個人認証に使った「究極のバイオメトリクス」の仕組みや、新たに開発された技術とは?

 日立製作所 中央研究所は9月1日、指の静脈パターンを使って個人認証を行う「指静脈認証システム」の小型/高速/高精度化技術を新たに開発したと発表した。

 同技術を用いた入退管理システム「SecuaVeinAttestor」を、日立エンジニアリングを通じて9月から発売する。価格はスタンドアロンタイプで1システム63万円(工事費別)からで、大規模なネットワーク構成にも対応する。


指静脈認証技術を用いた入退管理システム「SecuaVeinAttestor」

 個々の人間が持つ固有の身体的特徴をもとに個人認証を行う「バイオメトリクス(生体認証)」は、もっとも確実な本人確認の手段として近年利用が拡大。歴史の古い「指紋認証」以外にも、眼球の「虹彩(アイリス)」や「網膜」、「声紋」、「顔」などさまざまな技術・手法が考え出されている。

 その中でも、ここ2、3年で注目されているバイオメトリクスが、静脈のパターンをもとに個人認証を行う「静脈認証」だ。人間の体内に張り巡らされた静脈は、指紋と同様に個人によってそのパターンが異なり、成長によってその大きさは変化してもパターン自体は一生変化しないといわれている。見分けが付かないような同じ容姿の双子でも、その静脈パターンは異なるのだ。

 静脈は、外部から近赤外線を照射すると黒く映るという特性を持っている。これを利用して、撮影画像から静脈パターンを抽出し、あらかじめ登録したパターンと照合することで認証を行うのが静脈認証の仕組みだ。


富士通研究所が開発した非接触型の手のひら静脈パターン認証技術

 静脈認証はすでに実用化されており、手の甲の静脈を調べるタイプが韓国/イギリスメーカーから、手のひらをスキャンする製品が米国メーカーから製品化され、それらのOEM製品が数社の日本メーカーから国内向けに発売されている。 また、富士通研究所では、“非接触型”の手のひら静脈パターン認証技術も開発している(今年3月31日付け記事インタビュー記事を参照)

世界初!指を使って静脈パターンを検出

 同研究所では1997年から静脈パターンを使ったバイオメトリクスの研究に着手。他社が手のひらや甲などを調べる方式なのに対して、同研究所では世界初となる指の静脈を使った認証システムの基本技術を2000年に論文発表し、学会などで注目を集めていた。


世界初の指静脈を使った認証システム

 指を使えば、手のひらや甲を調べる方式に比べてシステムサイズの大幅な小型化が図れる。だが、その小ささゆえに認証の精度/スピードなどで課題も多かった。

 「指の場合は静脈のパターンが小さくなり、太さの違いなど、手のひら/甲に比べて個人差も大きい。また、温度変化による血管の膨張や収縮も、指の場合は顕著。細長く丸みを帯びた指のカタチは、置き方によるパターン変形も手のひら/甲に比べて大きくなってしまう」(同社)

 同じ指でも指先と根元では太さが異なるため、単純に照射光量を調節するだけでは、指全体の静脈パターンを適切に撮影できない。今回開発した高性能化技術では、近赤外線照射用LEDを7個使って指の部位ごとにきめ細かく透過光量を調節。さらに、血管の局所的な変動があっても安定して静脈パターンを抽出する新画像処理技術を開発し、より鮮明な指静脈のパターン抽出が可能になった。


同研究所が開発した指静脈認証システムの高性能化技術

 また、ユーザの指の置き方によるマッチング精度の低下には、指の置き方の違いを自動認識して指画像を補正・照合することで、ラフな指の置き方にも耐えられる仕様にしている。

 同社社員539人をテスターにした実証実験では、従来の指認証方式では0.3%だった等価エラー率(登録者本人を本人ではないと誤認識する本人拒否率と、他人を登録者本人と誤る他人受入率が等しくなる率)が0%になるなど認証精度が大幅に向上したほか、PC用CPU(Pentium 4/2.8GHz)で、1万人/秒(従来1000人/秒)の個人認証ができる高速処理を達成。同社組込機器用CPU「Super H」を使ったシステムでは、従来比約1/3の容積小型化を実現した。

 指紋認証システムでは、手のひらサイズの超小型タイプやPC内蔵型、そして携帯電話への搭載も始まっている。だが、犯罪捜査で利用されてきたという歴史や、拇印という文化がある日本では、指紋認証に抵抗を感じる人も多い。その他のバイオメトリクスもコスト面/安全性/心理的影響/精度などで一長一短があり、これといった決め手に欠けるのが現状だ。

 「指を使った静脈認証は、手のひらや甲に比べて装置を大幅に小型化でき、ユーザーにとっての使い勝手も指紋認証に近い手軽さになっている。さすがに携帯電話への内蔵はまだ考えていないが、センサー部のさらなる小型化でPC内蔵は十分射程範囲内。また、指紋では切断した指で認証してしまうことも考えられるが、静脈認証は血液が流れていないとダメなのでセキュリティレベルも高い。他のバイオメトリクスと根本的に違う点は、“指の静脈”という外部からほとんど見えない生体内部のパターンを使っているところ。究極のバイオメトリクスとして広くアピールしていきたい」(同社)

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関連リンク
▼ 日立製作所
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▼ 日立エンジニアリング

[西坂真人, ITmedia]

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