ケータイカメラ“手ブレ補正”が生まれるまで:第7回
高画素化するほど手ブレの影響は大きくなる。そこに真っ正面から取り組んだN902i。どんな考えから手ブレ補正に取り組んだのか。またデジタル方式ならではの難しさとは何だったのか。NECに聞いた。
高画素化が進む携帯電話の中でも「N902i」はカメラを重視。記録画素で400万画素という携帯最高峰のセンサーを搭載した。しかしデジタルカメラに近づくにつれて、携帯電話ならではの問題も発生する。「高機能になると品質を今まで以上に問われる。例えば携帯は片手で撮るし手を伸ばすため、手ブレが起きやすい」。そう話すのはN902iの企画に携わった商品企画部の高梨博主任だ。
“写真画質”──そのキーワードに向けて企画側がカメラの強化に力を入れるのに対し、技術側もそれに応えた。国内携帯電話初となる手ブレ補正の実現に向けて、「要素開発はこれまでも行っていたが、まず“手ブレとは何か”というところから入った」と、先行デバイス開発グループの白川泰嗣主任は振り返る。
光学手ブレ補正を上回る、補正性能
実際に携帯カメラで撮影するとどのくらい手ブレが起きるのか。被験者を集めて実機でテストするところから開発は始まった。その結果、安全性を含めて「振幅が10ミリ、秒間10回のブレ」まで対応できれば十分だという結論が出たのだという。実はこの手ブレ幅はかなり大きな値だ。デジタルカメラで主流の光学式手ブレ補正では、追随が難しいほどの値である。
そもそもN902iに手ブレ補正を入れるに当たっては、デジタル方式に決めていたと白川氏は話す。「光学式のようなメカ駆動は電力を食うので携帯には向かない。補正手段だけはデジタルでいこうと決めていた」
方式にはメリット、デメリットがそれぞれあるが、デジタル方式のメリットの1つは対応できるブレ幅の大きさだ。「光学手ブレ補正は、レンズかCCDを物理的に動かすので、アクチュエータの作動限界がある。デジタル方式のほうが処理は速く、未知なる可能性を秘めている」(白川氏)。実際にできあがったものは、ブレ幅への対応では光学式をしのぐ。
静止画デジタル手ブレ補正が難しかった理由
デジタル手ブレ補正という技術自体は、実は珍しいものではない。ビデオカメラでは広く採用されており、N902iの手ブレ補正原理も基本的には同じものだ。しかし、静止画ならではの問題もあった。
「動画では、たとえ補正に失敗しても次のフレームで成功すればいい。しかし静止画は必ず成功しなくてはならない」(白川氏)
さらに連写して撮影したデータをいったん保存して、そこから処理を行うため、大容量のメモリが必要となる。400万画素という大サイズでも手ブレ補正を可能にしたあたり、この技術にかけるNECの意気込みが感じられる。
常時手ブレ補正をかけるのではなく、必要なときだけ手ブレ補正をかけるのも、NECの思想が反映された部分だ。「必要ないときは(補正を)やらないほうが、処理時間や画質にプラスになる。また明るい場所ではシャッタースピードが速くなりすぎるという問題もある」(白川氏)。
実は単に手ブレを減らすだけなら方法はいろいろとある。CCDの感度を上げて(ゲインアップ)“とにかく明るく”するのも方法の1つ。ただしこのやり方では彩度が落ちノイズも多くなる。「人肌にノイズが乗るのは許容できないという思想でやっている。撮影モードによってゲインアップの上限を決めている」(白川氏)。撮影した写真をさらに補正し、記憶色に近づける「PictMagic」技術を搭載しているのも、こうした思想が形になったものだ。
「NECはカメラに弱い面があったが、N902iは十分お店プリント向けの“写真画質”に仕上がっている」(高梨氏)。これまでの課題を認めた上でのカメラ強化。N902iは、NECのカメラへの“本気”が感じられるものに仕上がっている。
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提供:日本電気株式会社
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2005年12月31日
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