“スマートフォンではものたりない”という声が「D4」開発を後押し:開発陣に聞く「WILLCOM D4」 後編
「WILLCOM D4」開発インタビュー後編は、開発を後押しした法人ユーザーの声、そしてノートPCとして重要なキーボードの使い勝手やPHSとしてかかせない通話機能、Windows Vistaを採用した理由や他社製品との違いを聞いた。
ノートPCと同等の使い勝手を限りなく小さなサイズで実現しようとしたウィルコムの「WILLCOM D4」。ウィルコム サービス計画部課長の須永康弘氏は、モバイル機器としてのサイズ制限がスライド式のQWERTYキーボードの採用、そして3つのスタイルのキーボード利用につながったと振り返る。
PCと重視したキーボード、PHSとして欠かせない通話機能
WILLCOM D4は、キーを収納したViewスタイル、引き出したInputスタイル、さらに画面をチルトさせたDeskスタイルという3つのスタイルで利用できるが、これは本体を少しでも薄くするために生み出されたアイデアだった。
「ノートPCのような折りたたみ型にすると厚さが増してしまうんですね。厚さを抑えてQWERTYキーボードを搭載するには、どうしてもスライド式になります。さらに机の上で快適に使うには、ディスプレイのチルト機能が必要でした。また、12.2ミリというキーピッチにも、さまざまな議論がありました。5インチディスプレイを搭載したデバイスとしては、よくできていると思います。しかし、PCのキーボードはタッチタイピングができるかできないかで善し悪しが決まる世界です。WILLCOM D4でタッチタイプが難しいことを考えると、理想のキーピッチまではもう一歩だと思います」(須永氏)
モバイル機器である以上、ボディサイズはいくらでも小さくしたいが、PCとして使いやすさを求めるとある程度の大きさは必要になる。その判断に揺れたのが通話機能だ。WILLCOM D4本体にはマイクがないため、単体では通話できない。通話は、付属のイヤフォンマイクや別売りのBluetoothヘッドセットなどが必要になる。
「本音を言えば、WILLCOM D4本体のみで通話できるようにしたかったのですが、社内にそれを望む人は私を含めて3人くらいしかいませんでした(笑)。やはり胸ポケットに入らないと、ケータイとして持ち歩いて使うことができませんから。もっと小さくできるなら、通話機能を搭載したかったのですけどね」(須永氏)
その代わりではないが、WILLCOM D4の純正オプションにはグループセンス製のBluetoothハンドセットが用意されている。須永氏はしっかりした通話を望むのであれば、このハンドセットをお勧めするという。
「仮にWILLCOM D4にBluetoothが搭載できなければ、通話機能をあきらめてデータ通信専用端末にするつもりでした。WILLCOM D4はPCとしてかなり小さいとはいえ、電話として片手で持てるサイズではありません。Bluetoothを搭載した理由は、音声通話を快適に行うためです。BluetoothハンドセットのクレードルもWILLCOM D4のそれとデザインを合わせるなど、ワンセットであることを強く意識しています」(須永氏)
低価格PCと見られるのは心外
WILLCOM D4を買う場合、割賦販売制度のW-VALUE SELECTを利用して、2年間の分割払いをするのが一般的だ。その場合、頭金は3万9800円(ウィルコムストアの場合)で、月々の支払いは2100円。2年間の実質負担金は9万200円だ(2008年9月現在)。
Office 2007を非搭載とした「WILLCOM D4 Ver L」の場合、W-VALU SELECTの分割払いでは頭金が8900円で、月々の支払いは2100円、2年間の実質負担金は5万9300円とさらに安くなる。
購入時の負担が少ないせいか、WILLCOM D4は低価格ノートPCと同列に見られてしまうのが須永氏の悩みだ。しかし、軽量で持ち歩きやすく、片手でも使えるWILLCOM D4は、それらとは別格の良さを持っている。
「WILLCOM D4は意外にコストがかかっているデバイス。メモリが1Gバイトなのは、これ以上コストを上げることができないからです。本来は、ソニーの『VAIO type U』や富士通の『FMV-BIBLO LOOX U』のような、10万円オーバーの小型PCと同じジャンルの製品です。本来は、5~6万円前後の低価格ノートPCとは違うジャンルのものですが、店頭では価格帯が一緒になってしまうんですね。でも今話題の製品と並ぶことで、WILLCOM D4が多くの人に知ってもらえるのですから、ぜひこの機会にその違いを知ってほしいです」(須永氏)
またWILLCOM D4はPCなので、ほかのデータ通信サービスを使うこともできてしまう。現状では、他社のサービスを組み合わせたほうが快適に通信できるのも現実だ。水平分業を掲げるウィルコムだが、ここまでオープンでいいのだろうか。
「端末のロックをきちんとかけようとすると、かなりのコストがかかります。サービスのメンテナンスをかけるとさらに大変になるんです。ユーザーに不便を強いる面もあり、こうした制限にリソースを割くよりも、端末の開発に全力投球したいですね」(須永氏)
「スマートフォンではものたりない」という法人ユーザー
WILLCOM D4はコンシューマ市場に向けた製品だが、須永氏は“スマートフォンではもの足りない”という法人ユーザーの声も開発時に反映したと話す。
「W-ZERO3シリーズを導入した、あるいは検討していただいた法人ユーザーからは、“Windows Mobileよりも、いっそモバイルPCにしてほしい”という声を意外に多くいただきました。インターネット経由で社内インフラに接続するならWindows PCのほうが都合がいいんですね。また通信機能を内蔵するデバイスなら、普通のPCと違ってリモートロックへの対応などセキュリティ面での期待も高くなります」(須永氏)
たとえWindows Mobileであっても、イントラネットに接続するには導入前に検証が必要になる。そのため会社のデスクトップ環境と同等の機能を持つモバイル端末への需要は高く、スマートフォンでは満足してもらえないユーザーも多かったという。また、Webベースで開発された社内システムを外出先でも使えるデバイスへのニーズは日々高くなっている。
「法人向けのWILLCOM D4も準備中ですが、こちらはWindows Vistaというわけにはいきません。2008~2009年にリリースする法人向け小型ノートPCのOSは、Windows XP Professionalでなくてはならないでしょう。我々は現在、Windows Vistaからのダウングレードという形でWindows XPをWILLCOM D4向けに提供できないか、マイクロソフトさんと交渉中です」(須永氏)
Windows XP搭載のWILLCOM D4を望むのは、法人だけでなく一般のユーザーも同じだ。XP版WILLCOM D4は個人向けには提供されないのだろうか。
「今、家庭用としてWindows PCを発売するなら、Windows Vistaを選ぶしかありません。しかし、OSを自分で入れ替えられるのがPCの世界。Windows Mobileではできないことが可能なのが、WILLCOM D4のよさだと思います。まだ検討中ですが、Windows XPやLinux用のドライバ提供も考えています」(須永氏)
また須永氏は、Windows Vistaを搭載するPCとして開発したことは、将来的な法人需要に応えるためにも必要だったと話す。それは、Windows Vista後継である「Windows 7」の存在があるからだ。
「Windows 7は意外に早く登場する可能性があります。法人ユーザーの多くは、Windows XP ProfessionalからWindows Vistaを飛び越して、Windows 7に移行するでしょう。今、Windows Vistaが楽に動作するデバイスを作っておけば、Windows 7の登場で予想される法人向けモバイルPCの需要に応えることができると思います」(須永氏)
WILLCOM D4が実力を発揮するのは来年
次世代の通信インフラとしてスタートするWILLCOM CORE。その登場を前に、新たなモバイルブロードバンドの可能性を訴求するデバイスとして登場したのがWILLCOM D4だ。現状で搭載できる機能はすべて盛り込んだという製品だが、来年になれば“真の実力”を発揮できるようになる。
「標準パッケージでも十分に魅力ある端末ですが、パフォーマンスをさらに高めることができるのがWILLCOM D4の良さです。WILLCOM COREが始まれば、WILLCOM D4を使ってモバイルブロードバンドを徹底的に活用できます。また、スマートフォンよりもカスタマイズの幅があるのが、PCのよさです。スキルのあるユーザーはOSを入れ替えるなど、思う存分手を入れる余地があります」(須永氏)
WILLCOM D4の後継機はいつぐらいに発売されるのだろうか。もう開発は始まっているのだろうか。
「後継機の開発はまだスタートしていません。まずWILLCOM D4のユーザーさんの声をたくさん聞いて、よくない部分、伸ばすべき部分を整理する必要があります。今よりも小さく、軽くすることも考えられますが、PCをスマートフォンと同じ大きさにしていいのか考えなくてはなりません。今から考えても、(後継機の開発は)正直怖いですね」(須永氏)
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