本当にモバイルWiMAXでいいのか──IEEE802.20とモバイルWiMAXの大きな違い(2/3 ページ)

» 2006年10月30日 00時00分 公開
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802.20を商用化できる時期はモバイルWiMAXと変わらない

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 KDDIを初めとする携帯キャリアが、802.20ではなくモバイルWiMAXに傾いているのには言い分がある。彼らは802.20の優位性を認めた上で、802.20技術の標準化の遅れがビジネス上の問題であると指摘する(2月10日の記事参照)

 確かにモバイルWiMAXの土台となっているIEEE802.16eは、2005年12月に規格策定が一段落している。これに対して802.20は、まだ仕様が固まっておらず、最終的な規格策定は来春の予定だ。KDDIはこの「2年の遅れ」をモバイルWiMAX選択の大きな理由として挙げている。

 しかし川端氏からは「我々は遅れているとは思っていない」という答えが返ってきた。

 「IEEEなどで標準化を行っている技術は、低いレイヤーの部分の仕様に過ぎません。これがWi-Fiの無線LANのような規格であれば、この部分の標準化だけで規格が完成してしまうかもしれません。でも、モバイルのシステムはそう簡単ではありません。モバイルシステムをうまく運用するには、実は上位のレイヤーこそが重要なんです。例えば複数のセルでのハンドオーバーには、上位レイヤーの完成度が非常に重要になってきます」(川端氏)

 モバイルWiMAX陣営では802.16eという土台の部分は決まったが、それはまだ“つながる”というだけの話に過ぎない。これを実際に「モバイル」のシステムとして運用するには、さらに上位レイヤーの仕様を詰めなければならない。

 「ハンドオーバーのスペックをつくるにしても、それをメッセージでやりとりするのか否か。例えメッセージでやると決まっても、そのメッセージはどのようにして送るのか、といった具合に、決めることはまだまだ山ほどあります。そういった部分まで、キッチリ決めないとモバイルの仕様というのはつくれない。あるいはつくれたとしてもメーカーごとの独自仕様が入ってしまうので、うまくつながらない、ということになってしまいかねません」(川端氏)

 では802.20はどうなのだろう。上位レイヤーの調整が必要なのは802.20も同じなのではないか。しかし川端氏の答えは違った。

 「実は802.20は、3GPP2と同様に、例えば1つの基地局から別の基地局への切り替えを行うハンドオーバーの処理に、実績のあるCDMA2000 1x EV-DOのメカニズムを利用するなど、既にすべてのレイヤーで仕様が決まっているんです」

 川端氏はこうしたことを踏まえ、実際に技術を「商売ができる」というレベルにまでブラシュアップするとなると、モバイルWiMAXも802.20も、それほど完成時期は変わらない、との見通しを話す。

 「802.20は、2年後には商用化レベルに達していると見ています。モバイルWiMAXも商用化はおそらく同じくらいの時期になるでしょう」

大事なのは実証実験

 とはいえ、現在はモバイルWiMAXも802.20も理論値やシミュレーションでの議論が中心だ。実際のつながりやすさや通信速度、移動中の使い心地や商用化への道のりで、最終的にものをいうのはリアルワールドでの実証実験であることは間違いない。

 遅れていると言われ続けている802.20だが、実は2006年8月4日に仙台駅西側のエリアに3つの基地局を用意して、本格的なモバイルブロードバンド環境の実証実験を行っている。正確にはPre 802.20と呼ばれている、米Flarion Technologies(後に米QUALCOMMが買収)が開発したFlash OFDMという通信技術を使った実験だ。

8月4日に東北大学が行った実証実験

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8月4日に東北大学が行ったFlash OFDMの実証実験は、東北大学、ソフトバンクテレコム(旧日本テレコム)宮城センター、それに宮城県庁の3カ所にある基地局を利用した、仙台市の中心部をカバーするネットワークで行われた。上りと下りでそれぞれ1.25MHzずつの帯域を使用している。理論上の下りの最大スループットは3.2Mbps。



 この実験は、1.25MHzという限られた帯域を使って行われたが、静止状態で2.6Mbps、市内をバスで移動しながらでも2.1Mbpsの通信が行えることを実証した。ここで記録された数値は、ネットワーク接続の物理レイヤーではなく、ちゃんとしたアプリケーションレベルでの通信速度であり、かなり“リアル”な数字だ。実験ではバスで移動中のハンドオーバーなども、問題なく行えた。

固定環境(静止状態)でのダウンリンクスピード計測
3MB程度のファイルを3回ダウンロードし、その結果平均「2.64Mbps」の数値がはじき出された。 基地局間ハンドオーバー
実際にバスで基地局間を移動した際、スムーズにハンドオーバーできていることがわかる。 移動環境(バス内)でのダウンリンクスピード計測
バス内で一番上の動画と同じ計測をしたところ、「2.19Mbps」という結果となった。
移動環境でも固定に遜色ないスピードを保っている。


 一方KDDIも、モバイルWiMAXを使った公開実験を何度か行っている。2006年2月には大阪でバス走行中のハンドオーバーを含めた公開実験を行っているが、この実験では20MHzの帯域を使い、平均実効速度は6〜7Mbpsだった(2月16日の記事参照)。また、先日CEATEC JAPAN 2006のKDDIブースでもデモを行っていたが、これは展示会場内で静止状態で行われた。20MHzの帯域幅を使っていたが、最大伝送速度は8Mbps前後だった。

 こうした結果を比較すると、Flash OFDMの周波数利用効率が、モバイルWiMAXと比べて非常に高いことが分かるだろう。802.20は、このFlash OFDMを10〜20MHzという帯域幅で効率的に動くように発展させた技術であり、平均実効速度はさらに高速になると目される。米QUALCOMMでは、2007年の早い時期には802.20のスペックでの実証実験を行う予定でいる。

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提供:クアルコムジャパン 株式会社
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2006年12月11日