スマホを使う上で欠かせないクラウド技術。アプリの多くが、クラウドを使った機能を備え、便利さや楽しさを提供している。それを正しく、安心して使うために、ユーザーはどうすれば良いのだろうか。
クラウドという言葉が普及し、さまざまなクラウドサービスが身近な存在になってきた。PCはもちろん、スマートフォンで何気なく行っているサービスやアプリも、クラウドによってさらに便利さが増している。
そんなクラウドサービスを使う上で欠かせないのが、ユーザーの正しい知識だ。クラウドサービスはユーザーが持つデータや情報を提供側のサーバに送り、それを保存したり分析したりして、今までにない便利さを提供している。まずはその仕組みを理解してから利用するようにしたい。
例えばクラウドサービスで最もポピュラーといえるのが、ユーザーのファイルをサーバに保管するストレージサービスだろう。デジカメで撮影した写真をクラウドにアップロードしておけば、複数のPCやスマートフォン、タブレットからその写真を見ることができて、非常に便利だ。自分のPCやスマートフォンから外部のサーバにデータを保存しなければ、そのメリットを生かすことはできない。
またECサイトなどには、1度買った商品をもとにお勧めの新商品を紹介してくれるレコメンド機能がある。これも、サーバ側にあるユーザーの購入履歴を分析して、お勧めの商品を教えてくれるクラウドサービスと言っても良いだろう。過去にどんな買い物をしたのかをサービス側に分析してもらうことで、次に欲しくなる商品を先読みして、次回の買い物での余計な手間を省いてくれる。
今では当たり前になったこういったネットの便利さは、ユーザーの情報を上手に活用するクラウド技術があって実現していると言えるだろう。もちろん、クラウドが使われているのはこれだけではない。
例えば、Androidスマートフォンの場合、自分に合った日本語入力システム(IME)をインストールすることで文字入力が便利で快適になり、そして楽しさも増すことが多い。その日本語入力システムにクラウドを活用しているのが、バイドゥが提供している「Simeji」というアプリだ。
Simejiはエンジニアの足立昌彦氏とデザイナーの矢野りん氏らが開発した国産アプリとして長い歴史を持ち、また日本語入力システムと別のアプリを連携させる「マッシュルーム」やキーボードのデザインをカスタマイズできる「スキン」など、新しい機能をいち早く取り入れてきた。ユーザー視点の改良と機能追加、独創性と革新性から高い評価を受け、現在の総ダウンロード数は900万超。4月7日に公開された最新版の「Simeji 7」では、従来から提供していた「クラウド変換」が「クラウド超変換」にパワーアップしている。
今回は、Simeji開発陣の1人であるバイドゥ モバイルプロダクト事業部マネージャーの矢野りん氏に、Simeji 7がクラウドをどう活用しているのか、また便利さと同時に気になる安全性の向上にもどう力を入れているのか? について話をうかがった。
さっそくだが、Simejiのクラウド変換とはどんな機能なのだろうか。矢野氏は「一言で言えば、クラウド変換とは日本語入力の辞書を拡張する機能です」と解説する。一般的な日本語入力の変換は、スマートフォンにインストールされた辞書から、入力された“読み”にマッチする変更候補を探している。しかし、ユーザーが使いたい言葉が必ずしも用意されているわけではない。スマートフォン内の変換辞書に無い言葉は、スマートフォンの外から入手する必要がある。
そこで、インターネット上にあるサーバ(クラウド)から、新しい変換候補をリアルタイムに送信するのがSimejiのクラウド変換だ。クラウドを利用することで新しい言葉を常に用意できるだけでなく、スマートフォン内の辞書ファイルの容量を少なくできるメリットもある。Simejiの場合、クラウド変換を使うことで約200万語の語彙(ごい)が増えるという。
新しいSimeji 7では、このクラウド変換がさらに「クラウド超変換」に進化した。「これまでの“クラウド”はネット上のデータの置き場所という意味が強かったと思います。Simejiではこれを積極的に運用していくことで、従来のクラウド変換を超えられるのではないかと。例えばですが、あるイベントが何月何日にあるとして、そのイベント名を入力すると関連する言葉を期間限定で変換候補に表示する。テレビドラマのセリフが流行したら、その関連ワードを入力するだけで流行中のセリフを表示する。こうした使い方ができれば、すごく便利で楽しいですよね」(矢野氏)
このほかにも、SNSや掲示板などのネットコミュニティで突発的に流行するキーワードや顔文字などにも「できるだけ早く追従していくつもりです」(矢野氏)とのこと。メールやLINE、TwitterやFacebookなど、コミュニケーションにおける文字入力の機会はますます増え、新しい言葉への対応も早さが重要になってきている。Simejiは世の中の流行を見据えながら、ユーザーのニーズを先取りするようなクラウドの積極利用を進めているわけだ。
クラウド変換に“超”が付けられた理由について矢野氏は、「ユーザーから『クラウド変換と普通の変換と何が違うの?』という声がありました。Simejiはクラウドを使って新しい言葉やその時々で話題になるキーワードを変換候補に追加していますが、ユーザーから見ればあまり違いは感じられないみたいなんですね。そこで普通の変換を超える変換という意味を込めて、思い切って“超”って付けてみました」と説明する。
Simejiのカジュアルな新機能は、特に若年層の女性ユーザーに好評だという。「Simejiは女子高校生の間で口コミで広まっていて、『Simeji先輩』なんて呼ばれているんです。クラウド超変換では話題の言葉だけでなく、はやりそうなワードを遊び心で追加したりするのでが、『またSimeji先輩がヘンなことつぶやいている!』とツイートしてくれたりします。こんな日本語入力システムはほかにはないですよね」(矢野氏)
Simejiはクラウド超変換だけでなく、スキンのカスタマイズや顔文字や、AA(アスキーアート)などのカジュアルな日本語入力のしやすさなども評価されている。こうしたユーザー視点の開発・運営姿勢は、もともとSimejiが個人的なアプリ開発から始まったことと強く関係している。
「開発のきっかけは自分たちが使いたいものを作ることでした。アイデアを集めるうち、もっとたくさんのユーザーの声を取り入れてみよう、どうせなら楽しく使える機能を追加しようと。現在もユーザーの意見を気軽に取り入れています。日本語入力システムは地味な存在なのですが、スマートフォンには欠かせないもの。ユーザー視点で開発を続けてきたことが、幅広い支持を受けている理由かもしれませんね」と矢野氏は明かす。作り手と使い手の垣根が低いSimejiだからこそ、ほかにはない機能やサービスが次々生まれてくるのだろう。
特にクラウドを使った新機能については、バイドゥの技術力や開発力による部分も大きいという。「クラウド利用については帯域の確保など、ある程度の規模と運用ノウハウが必要です。Simejiのクラウド機能がここまで強化されたのも、バイドゥのネットワーク技術という底力があったからですね。また、直接的にも間接的にも関わる人数が増えて、いろいろなアイデアが集まるようになりました。バイドゥは海外の企業ですが、彼らの“文字”に対する情熱は非常に熱いものがあります。こうした開発環境はとても刺激的です」(矢野氏)
クラウド利用で気になるのがその安全性だ。特に文字入力に関しては、個人情報やパスワードなど、あらゆるプライベートなデータを扱うことになる。Simejiに関わらず、クラウド対応サービスを使う上では、どんなデータが送受信されているのか、正しく知っておく必要がある。
矢野氏によるとSimejiのクラウド変換/超変換では、入力された“ひらがな”の読みを暗号化してバイドゥの国内サーバに送信し、それにふさわしい変換候補をスマートフォンに返している。送信されたひらがなは文字変換の精度を上げたり、ユーザーの利用傾向を調べる統計データとして使われたりする以外は使用されず、一定期間(60日間)が過ぎるとサーバ上から削除されるという。
Simeji 7は初期状態、つまりインストールした直後はクラウド超変換がオフになっている。より便利に使いたいのであれば、入力した文字をサーバに送信するのを条件に、ユーザーが自分の意思でクラウド超変換をオンにしなくてはならない。
「一部では、Simejiは入力した文字を全てどこかのサーバに送る『キーロガー』として作られている――という声がありますが、それは誤解です。Simeji 7のクラウド超変換は入力された“ひらがな”を送信しています。つまり、半角英数字をサーバに送信しない仕様になっているので、電話番号やパスワード、クレジットカード情報のような情報を入力してもサーバには送られないしくみになっています。また入力された文字は途切れ途切れに送信していますから、特定のユーザーを指定して文章を復元することも技術的には不可能です」(矢野氏)
そもそもSimejiには、個々のユーザーを特定するための仕組みが備わっていない。特定ユーザーの入力情報を追跡するのは技術的に難しいのが現状だという。
それでもクラウド利用に不安が残る場合は、この機能をオフにすればよい。また「ないしょモード」をオンにすると、ユーザーごとによく入力する文字を記録する学習機能もオフになる。Simejiの持つ使いやすさは低くなるが、バイドゥが提供する“安全性”以上の“安心感”を得たいのであれば、こうした選択肢もあることを覚えておきたい。
Simejiのクラウド機能にまつわるニュースで記憶に新しいのが、2013年12月に明らかになった、入力データの無断送信バグだ。
先に説明した通り、Simejiのクラウド変換(当時)はユーザーの許諾を得てオンになる仕様で、オフのままであればデータが送信されることはない――はずだったが、2013年3月にリリースしたバージョンでは、プログラムの実装バグにより、データが送信されてしまっていた。バイドゥではこのバグを解消した改善版を12月26日にリリース。またバイドゥとして、Simejiの安全性確保のために取り組みを強化している。
その1つが、第三者の検証機関である「Intertek」によるSimejiの安全性検証だ。その結果、Simejiが仕様通りに正しく動作していること、データの送受信が安全に行われていること、不必要なファイル改ざんやデータ改変などが行われていないことが確認された。Intertekによる検証は今後も継続的に行われ、アップデートで新機能が追加されても、安全を厳しくチェックされることになる。
また、プライバシー情報を扱う企業や開発者が参加する非営利団体「The International Association of Privacy Professionals」(IAPP)に加盟したほか、一般社団法人日本スマートフォンセキュリティ協会にも正式参加。ユーザーのプライバシーと製品のセキュリティをさらに強化するため、さまざまな活動を本格化させている。
こうした取り組みはまだ始まったばかりだが、Simejiの開発陣にはどんな変化があったのだろうか。矢野氏は、「Simejiのバグをきっかけに、あらぬ誤解が広がりました。仕様上はあり得ない危険性を心配して、Simejiの利用をやめるユーザーも見受けられました。開発者として、機能や便利さに対する、分かりやすい表現ができていなかったなと感じています」と話す。Simejiは開発者とユーザーの関係が近く、矢野氏らも「Simejiのユーザーなら“クラウド”と書くだけで、その特性を分かってくれているのでは? と思っていた」と振り返る。
しかしネットやスマートフォンの存在が当たり前という若年層のユーザーが増えるなど、Simejiの使い手はその裾野を日々広げている。便利さを実現するために欠かせない技術への正しい理解と、そのための丁寧で詳しい説明もますます重要になってきた。Simejiについては、
という点を覚えておこう。
矢野氏は、「特にIAPPへの参加で、プライバシーやセキュリティに対する分かりやすい表現と説明の重要性を改めて認識しました。Simejiを安全に使ってもらうのはもちろん、ユーザーが安心感を得るためには、今まで以上の取り組みが必要と感じており、安全性に対するより一層の取り組みを進めています」と意気込みを語ってくれた。
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提供:バイドゥ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia Mobile 編集部/掲載内容有効期限:2014年7月31日