―― 思わずレンズの話に聞き入ってしまいましたが、そもそもの「GR certified」についてお聞きしたいと思います。リコーは、なぜこの認証プログラムを始めようと思われたのでしょうか。
リコー遠藤氏 カメラ市場は今、非常に厳しい状況です。その原因の1つに、モバイルの世界にデジタルイメージング機器が持っていかれたから――という声があります。ですが、実はモバイルから新しいユーザーが育っている傾向も出ているんです。
かつて、カメラはコンパクトカメラから入って、エントリー系の一眼レフにいき、その後、高級な上位機種を買うという流れがありました。最近はこれが、スマホでデジタルイメージングの楽しさに触れ、SNSで撮った写真を褒められて、趣味にしようといきなり10万円クラスの一眼レフやGRのようなハイエンドコンデジを買ったりする人が増えています。
写真の世界に入ってくる人たちはもっと増える可能性がある。だからその人たちをもっと増やすためのアプローチはカメラ業界から行うべきだと思うようになりました。
もう一方の観点では、フィーチャーフォンの時代は、ユーザーが端末を選ぶときにカメラ機能の優秀さを求めていました。それがスマホの時代になると、全体的にカメラの機能が上がって、端末を選ぶ際にカメラのプライオリティが低くなった。スマホのカメラはどれも同じだと思っている人たちが、スマホでもカメラによって写真の出来が違うということ気づくと写真の面白さが広がると思っていたので、我々が関わる形で1つ突き抜けたカメラを出したいと思っていたのです。
社内を見回すと、昔からGRの評価基準を作ってきたエンジニアがいます。我々としてもいろんな基準を持っていましたので、その基準をある程度スマホに当てはめて、どこまでがんばれるのかを見てみようということになりました。
この認証プログラムのハードルは決して低くはありません。制度ができるのとほぼ同じタイミングでシャープさんがチャレンジされるということになりましたが、最初にシャープスマホのカメラ性能を見たときに、みんな青い顔していたんですよ。
―― どういう意味で青くなったんでしょう。
リコー遠藤氏 最初は「これは無理だろう。ハードルが高すぎたか」と思って青くなりましたが、何度かやりとりしていると「モバイルはここまでできるのか……」とまた青くなりました。これが1年くらい前のことです。
その分可能性を感じ始めましたから、お互いにやる気になってきて、うまいカップリングになったと思います。
―― その「GR certified」ですが、具体的にどういった項目をクリアすると認定を受けられるのですか?
リコー岩崎氏 「GR certified」とは、リコーイメージングが決めた「GR Quality Regulation for Mobile」という規格を満たしたカメラに対する認定プログラムです。シャープさんのスマホが認定第1号ですが、もちろんほかのメーカーさんでもお取り組みは可能です。
認定は、カメラモジュールの試作時から量産まで画質検証を行って、同類カテゴリーにおける最高クラスの画質を求めています。GRと同じ画質を求めているわけではなくて、そのクラスの最高品質を満たしているか、満たしていないかを認証します。認証した場合は、認証書を発行し、トロフィーを授与します。また、取得した製品は「GR certified」ロゴをプロモーションに使えます。
プログラムの流れのひとつの例としては、仕様がフィックスされる前から我々がコンサルタントとして入り、規格値を提示させていただき、仕様に反映します。試作品を作ったらその都度評価し、フィードバックしてアウトプットを出していただく、というサイクルを何回か繰り返し、最後に審査を行うという形です。
メーカーさんによって、この流れの途中から関わったり期間が短くなるということもあります。
―― SH-01Gはレンズと画像処理を向上させて「GR certified」を取得しています。レンズについてはMTFで評価されてましたが、そのほかにはどんなレギュレーション(規格)があるのでしょうか。
リコー岩崎氏 レンズについてはまずMTFを見ます。中心から周辺まで均質で、高いコントラストと解像力を維持していることが必要です。中心だけよくて周辺がダメなものはいけません。また、歪曲収差と色収差が少ないことも重要です。いくらMTFがよくても、歪曲収差や色収差が多いものは高画質とはいえません。
よく小型カメラでは画像補正処理で歪曲収差を補正してきれいに見せるという方法がとられますが、コントラストが落ちてしまいます。とにかくレンズの性能を上げて高画質を達成しようというのが「GR certified」の根本的な考え方です。
画像処理は、高いレベルに持っていったレンズの性能を最大限に生かし、無理な画像処理をしない自然で鮮鋭度の高い画像処理であることをポイントとしています。ノイズを消すためにベタ塗るのではなく、自然な処理を重視します。
繰り返しになりますが、レンズ補正は、レンズ収差を補正するようなデジタル処理は行わないことが前提になっています。一言でいうと、レンズに高性能を求め、画像処理はそれを最大限引き出す、という考えです。
最終的なレギュレーションは、レンズについて6項目、画質について6項目で、計12項目が設定されています。それら12項目に対して、それぞれクリアすべき規格値があります。
リコー遠藤氏 MTFは数値化できるのですが、ゴーストやフレアなどの評価は数値化できないんです。ですので、他社との相対的な比較を組み合わせて基準にしています。
―― これらの評価は、レンズのような部品単体ではなく、カメラになった状態で撮った映像を見て、規格値をクリアしているかチェックしているんですね。
リコー岩崎氏 レンズ自体の評価も行いますが、多くはスマホの状態で評価しています。これらを1年間、設計、試作、量産の各段階で評価とアウトプットを繰り返し、ちょうど2カ月ほど前に最終認証のチェックをしました、その結果、すべての項目で合格となりました。
「GR certified」の名前を使っていただく以上、認証した端末についてちゃんと説明できるレベルのものであることが絶対条件です。最初にシャープさんからお話を受けたときには、正直、このレベルにもっていけないだろうと思いました。打ち合わせで提示されたデータもやっぱりダメでした。
でも途中から、もしかしたらいけるかも、とも思いました。というのも、レンズ構成がコンパクトデジカメや一眼レフと少し違う構成をしている。つまり、シャープさんは我々とは違うアプローチでスマホにふさわしいカメラを作ってきて、経験も実績もある。これなら非常に精度がいいレンズになると納得できました。
リコー遠藤氏 シャープさんはカメラモジュールから作っていて実力があるので最終的に認証を取られましたが、我々が入っていっても実力を上げきれないメーカーさんもあるかと思います。もし規定したレベルまで行かない場合は、残念ですが「GR certified」のロゴは使用できません、という結果になることもあります。
―― レンズの名前やブランドを他社に使ってもらう動きはカメラ業界にありますが、そういうものではないんですね。
リコー遠藤氏 ウチは人間がウェットな関係で品質向上のための努力を一緒にさせていただくというスタンスです。
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提供:シャープ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia Mobile 編集部/掲載内容有効期限:2014年11月30日