ドコモはテレビの幻想を追い求めるのはやめるべきだ

NTTドコモのモバイル動画は,放送内容,構成の面でテレビ寄りの姿勢をとっている。しかしモバイル動画で配信されるコンテンツにはほかの可能性もあるのではないだろうか?

【国内記事】 2001年8月6日更新

 モバイル動画配信はどこに向かおうとしているのだろうか? 現在FOMA試験サービスでは「M-stage visual」の配信が行われている。今後FOMA本サービスで本格的に動画配信サービスが開始された時,動画コンテンツは本当に世間に受け入れられるのだろうか?

ドコモの動画は「小型テレビ放送」?

 まず初めに押さえておかなければならないのは,M-stage visualのコンテンツが今後,どのようなものになるのかということ。

 先日のZDNetのインタビューに答えて,NTTドコモは「M-stage visualはテレビとは違う」と明言した(8月3日の記事参照)。

 この発言の意味するところは,「マスに向けた番組でなく,ニッチなコンテンツを揃える」こと。例として挙げられたのは,ブレイク前のアイドル紹介や特定プロレスラーの試合の放送,宝塚の“トップスターでなく2番手”に焦点を当てた番組など。

 通信料など,なにかと料金がかさむモバイル動画配信では,大勢にそこそこ気にいられる番組より,一握りのユーザーに強烈に支持される(つまり,その人にとって多少の料金を払っても見たい)番組のほうが有効という考えのようだ。これは多チャンネルでニッチコンテンツを揃えるCS放送のような路線だといえる。

 確かにこのようなニッチ路線を取ることで,テレビとの差別化を図るというのは理解できる。しかし,M-stage visualは本当に「テレビとは違う」といえるのだろうか。筆者は逆に,M-stage visualは大きい意味で,まさに“テレビ的”なコンテンツだと考える。

 CS的であれ,地上波テレビ的であれ,これらは基本的に,“大衆に向けたコンテンツとしてのエンターテイメントや各種の情報を,編集,加工し,電波に乗せて広く提供する”という方式を取っている。それがニッチを対象にしているか,マスを対象にしているかの点で多少の差はあるかもしれないが,大きな意味ではテレビ的だと筆者は理解しているのだ。

 確かに「マスに向けたコンテンツを提供していない」という点で,M-stage visualはテレビとは違う。しかし「放送している番組の内容,構成」で見ると,実は小型のテレビだといえないだろうか。そしてそれは地上波放送などの使いまわしなどの,マニア受けする番組を,低速な通信速度や小さな画面で提供したもの。ドコモの動画は本来テレビで見るべきものを携帯電話に詰め込んだ,いわば“携帯電話に背伸びさせた”コンテンツに見える。

 しかし,そうしたエンターテイメントは特に提供せず,編集,加工も施さない動画というものも存在する。次はそれについて見てみよう。

どうなる“非公式動画サイト”市場

 M-stage visualのサービスにおいて,もう1つ注意を払わなければならないのが“非公式動画サイト”の方向性だ。ドコモは現在開催されているモバイル動画コンテスト「mobile Visual 2001」に協賛するなど,一般の動画市場にはかなりの期待をもってその動向を注視している(8月2日の記事参照)。

 この一般動画サイトはどのようなコンテンツが考えられるのだろうか。現在iモードで非公式アプリのポータルサイトを運営しているギガフロップスの,井島剛志次世代戦略室室長に話を聞いた。

 「非公式のモバイル動画で今後ヒットする可能性のあるのは,1つには自分の子供に関連したコンテンツではないか」

 「たとえば託児所に子供を預けるような風潮は今後高まると予測される。その時,託児所にいる我が子が無事かどうか,定点観測のカメラで動画で見たいというニーズはきっとあるだろう。これは仕事の合間にちょっと見たいというモバイル性とも合致する」

 「ほかにもビジネス向けのコンテンツが考えられる。たとえば無人工場の機器が正常に動作しているかどうか,据え付けのカメラでチェックするようなコンテンツだ。もし異常が発生したときも,直接出向く前に出先から,あらかじめどこが壊れたか映像でチェックできるという利点がある」

 井島室長が指摘するのは,1つには自分の子供の動画のように,個人的,まさにニッチの最たるコンテンツ。そしてもう1つはビジネス向け,システムとしての動画という,いわば個人レベルよりも大きな金額の動きやすいところでのコンテンツだ。

 これらの番組内容はどちらも,ドコモの考えるような“テレビ的”なものからかけ離れている。番組の放送というより,生活や仕事に必要なツールとしての意味合いが強いといえる。

テレビの影を歩くよりも,光の射すほうへ

 M-stage visualのような公式な動画サイトがよいか,ギガフロップスが予想するような一般サイトがよいか? それはユーザーの審判を待たねばならない。しかし1つだけいえるのは,ドコモが“テレビ的内容”のコンテンツにこだわり続ける限り,既に世間に普及して十分な力を持っているテレビ放送や,多チャンネルでニッチコンテンツを揃えるCS放送などがライバルであり続けるということだ。テレビ的なコンテンツに対しては,ユーザーはどうしてもテレビと同等の携帯電話画像を求めるだろう。それにドコモのネットワークが応えられるのはまだ先の話だ。

 その点,初めからモバイルであることを武器にしたコンテンツは強い。テレビに真似できない携帯電話の武器は,間違いなく移動に密着した“携帯性”であるからだ。

 確かに,携帯電話の画面でテレビのようなコンテンツが見られるなら,こんな魅力的なサービスはない。モバイル動画の最終目標はそこなのかもしれない。しかし現状では,それは先の話と割り切るべきだ。いま,モバイル動画配信サービスはテレビの幻想を追い求めるよりも,携帯電話ならではの独自性あるコンテンツを追求したほうがいいのではないだろうか。

[杉浦正武,ITmedia]

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