News 2000年7月12日  0:15 AM 更新

松下の描く近未来の家庭内IPネットワーク

 7月10日に開幕した松下電器産業のプライベートショウ「IT&SOLUTION 2000」では,IPをベースとした家庭内ネットワークの未来像を垣間見ることができる。製品化を前提とした,3つの参考出展から,同社の構想を探ってみたい。

VoIP/IP FAX端末「IP-BOX」

 家電製品の中で,最も早くIP化が進むのは電話とFAXだ。IP網を利用して通話料を下げることができるVoIP(Voice over IP)とIP FAX(FAX over IP)には,既にケーブルTV各社などが積極的に取り組む姿勢を見せており,早ければ年末にも一般家庭向けのサービスが本格化する。また,企業で導入する場合も,個々の端末にIPアドレスを与えるために社内交換機が不要となり,コストを抑えられるというメリットもある。「これまでは,まず電話線を引いて,その後でコンピュータネットワークを敷設していたが,これからは違う。PCのネットワークをしっかりと構築し,その中に電話も含むことになるだろう」(松下電器産業)。

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 しかし,既存のアナログ電話やFAXをリプレースするのはコストがかかる。そこで登場するのが「IP BOX」だ。アナログ電話とイーサネットの間にアドオンするだけで,IP電話にすることができる。

 IP BOXは,回線のインタフェースとして10BASE-Tを,また背面には電話機接続用のアナログポートを2つ搭載している。内部はほぼPCのアーキテクチャで,CPU(試作機は日立製作所のSH3を使用)とDSPによってアナログ信号をソフトウェア変換し,デジタルデータとして回線に流すのが役目だ。従来のモデムやTAを思わせる外観をしているが,その機能は全く逆といえる。

 例えば,FAXを送信する場合,ユーザーは従来通りの操作で良い。IP BOXが内部で画像をTIFFイメージに変換し,SMTPメールとして相手先に送信してくれる。もちろん,相手がアナログFAXでは受信できないが(専用サービスを使えば可能),IP FAXのほかにPCなどの端末でも受け取れるというメリットがある。「将来的には,IP電話機に液晶画面を搭載し,内容を確認してから必要なものだけをプリントアウトする形になるだろう」(松下電器)。

 同社は,年末に間に合わせる形で,IP-BOXの量産出荷を開始する構えだ。既にいくつかの事業者にはサンプルを提供しており,生産ラインも確保したという。価格は未定だが,松下では「5万円程度が目標」と話していた。

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 なお,今回出展されたのはプロトタイプであり,製品化される際には上部のSDカードスロットはなくなる見込みだ。SDカードスロットは,将来的にコンテンツを受信しておくストレージとして利用するために装備されたものだという。

ホームルータ「SJ6」

 家庭内にIPネットワークを敷設する際,その道筋を整理してくれるのがホームルータだ。電話やPC,携帯端末はもちろん,ビデオ/テレビ,そのほかの家電をIP網に引き込み,連携によって利便性を高めるのが目的。それぞれの家電製品がIPでつながっていれば,「例えば,外からiモード携帯電話でビデオの録画予約をしたり,帰宅前にエアコンを動かしておいたり,といったことが可能になる」という。ただし,こうした機能はIPv6が一般化してからの話であり,SJ6もIPv4をサポートしてはいるものの,あくまでIPv6が前提だ。よって「製品化を前提として開発しているが,発売時期は未定だ」(松下)という。

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 SJ6には,宅内向けに3つのインタフェースが用意されている。TV動画などを伝送するためのIEEE 1394,近距離の家電やPCを接続するIEEE802.11b無線ネットワーク,そして電話機やPC向けの100BASE-Tだ。

 しかし松下電器によると,こうしたホームネットワーキングを実現するには,IPv6以外にも越えなければならないハードルがいくつか残されているという。まず,家庭内ネットワークの標準インフラが絞り切れていないため,SJ6のようにすべてを網羅しようとするとルータがコスト高になること。実際,SJ6も「発売当初は10万円を切ることは難しいだろう」(松下)という。

 また,映像や音声といったデータが混在する家庭内ネットワークの中で,いかにして帯域を制御するかも問題だ。例えば,SJ6ではシスコのRSVP技術を用いており,IP-BOXではITU-TのT.37(IP FAX標準,帯域制御仕様を含む)とRSVPをサポートしているが,こうした技術はルータ間の帯域を制御するもの。つまり,ホームルータより末端の家庭内端末間で帯域を取り合った場合は,「IP電話の音声遅延や動画のコマ落ちを引き起こす可能性が高い」(松下)という。

ホームゲートウェイ「KX-HGW200」

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 KX-HGW200は,家庭内ネットワークのゲートウェイ。ADSLやCATVの広帯域インフラとホームネットワークを接続し,家庭内から複数のユーザーがインターネットに接続できる。北米市場向けに開発されたこともあり,米国で普及が進んでいるHome PNAをはじめ,IEEE 802.11bの無線LAN,10BASE-Tのインタフェースを搭載。環境設定はWebブラウザで行い,ソフトウェアアップグレードも可能だ。松下によると,国内でも販売する予定だという。価格は未定。

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松下電器産業

[芹澤隆徳,ITmedia]

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