News:レポート 2000年8月18日 11:54 PM 更新

レポート:インターネット対応マンションの現実

マンションなどの集合住宅に入居する際,インターネット接続環境の有無は大きなポイントだ。しかし,デベロッパーによって,その温度差は大きい。今回のレポートでは,集合住宅のインターネット対応状況を取り上げる。

 インターネットに対応するCATV事業者の拡大傾向や,xDSLの全国展開開始といったニュースがインターネットを利用するコンシューマーを刺激する反面,こうしたすぐにでも手が届きそうな広帯域インターネットに対して,ある種の諦めを感じているユーザーも少なくはないはずだ。それは,都市部に集中する既設集合住宅のうち,CATVが敷設されていないところでは,いずれの方法も導入しにくいため。いまでこそ,インターネット対応をうたうマンションデベロッパーも登場してきてはいるが,既に入居済みの集合住宅は,広帯域インターネットに対応するためのインフラが存在しないものがほとんどのようだ。今回のレポートでは,2回に分けて集合住宅(主にマンション)のインターネット対応を取り上げる。

既設集合住宅の難しさ

 もし,あなたの住んでいる集合住宅で,インターネットサービスを受けることが可能なCATVが引かれているならば幸運に感謝した方がいい。集合住宅に新しいCATV回線を引き込むためには,管理組合員の半数または3分の2以上の賛成をとりつけなければならない。また,CATV幹線からの引き込みに際して,コスト高になるようであれば,CATV事業者から引き込みを断られるケースもあるという。

 一部のCATV事業者では,屋内引き込み工事料金を無料にするキャンペーンを張るなどして積極的にユーザー数拡大を図っているが,通常は一戸あたりおよそ5万円(事業者によって異なる)程度の費用がかかってしまう。集合住宅への引き込みでは,利用の有無に関わらず,全住戸への引き込みを工事の条件とするCATV事業者が多いため,100戸の集合住宅なら500万円の費用が発生するわけだ。理事会の承認を得るのは非常に難しい。

 一方,通常の加入者回線を利用できるxDSLも,比較的新しい集合住宅では利用できないケースが多い。NTTの基線点から集合住宅のMDFまでの電話配線が,完全光化されている可能性が高いためである。ご存知のように,xDSLはメタル回線を前提とした技術であり,間に光ファイバーが存在する場合は利用できない。NTTは電話局から基線点までの線も光化を進めているが,光化以前に使われていた銅線は撤去されていないため,基線点から住戸までの間が光ファイバーになっていなければxDSLを利用できる。

 CATVの引き込みも,xDSLの利用も,一戸建て住宅であれば,多くの場合は問題なく利用できる可能性が高い。しかし,家庭でのインターネット利用者が多いと思われる都市部に多い集合住宅では,いずれの方式も利用しにくいのはある種の矛盾を含んでいる。

 このため,集合住宅に住むインターネットのヘビーユーザーは,無線によるインターネット接続サービス(FWA)に大きな期待を寄せていたが,ここ数カ月は少々もたついている。広域かつ個人向けのFWAサービスでは,スピードネットが実験サービスを行っている最中だ。本格サービス開始を遅らせ,広域エリア実験のモニターを募集中のスピードネットは,来年の2月まで広域エリア実験を行い,来年春ごろにサービス開始を行うスケジュールになっている。

 ただし,スピードネットは東京電力の光ファイバーネットワークをインフラとして利用するため,東京電力の営業区域外に住んでいる場合はサービスを受けることはできない。また営業区域内であっても,何時サービス区域になるのかなど,事業規模の拡大スケジュールに関しては,未だ不透明な部分が多いのも事実だ。

マンションデベロッパーの温度差

 既設集合住宅が広帯域インターネットへの対応で閉塞感を生んでいる中,マンションデベロッパーは,現状をどのように捉えているのだろうか。そこで2週間ほど前から,何社かの大手マンションデベロッパーに対して取材の申し入れを行っていたが,三井不動産と大京が積極的に答えを返してきた。ここでは名を伏せるが,“インターネット対応”と聞いただけで「現在,多くのマンション購入者にとって不要なもの」と取材を受け付けなかったデベロッパーもある。

 しかしマンションは数千万円のプライスタグが付く商品だ。しかも,一度購入すれば多くの場合,10年以上利用し続けることになる。今日,必要ではないとしても,明日必要になった時に,何らかの手段で利用可能になる必要性はあるのではないか。販売する時に必須でなければ,将来のためのインフラ作りからは目を背けるデベロッパーとは付き合いたくないものだ。

 大京によると,マンション購入希望者のうち,インターネット対応が行われているか否かを購入条件に含める人は,ほとんどいないのが現状だという。条件に組み入れる購入希望者も,その優先度は低く,立地や価格,間取りなどが満足できれば,インターネット対応でなくても購入に踏み切る人が多い。

 至極妥当な分析だが,大京では「寿命の長い商品だけに,将来のために必要」との判断を下したという。同社は昨年,今年以降に販売する全てのマンションに,HomePNAを用いたマンション内LANを装備し,そこにKDDのインターネット専用線を引き込むことを発表している。50戸以下のマンションでは64K〜128Kbpsと狭帯域だが,100戸以上の規模では1M〜1.5Mbpsの専用線で結ばれる。1戸あたりのランニングコストは月2000円で,管理費に組み込む形で集金を行う。

 また既設のマンションに関しても,新規販売物件と同様にHomePNAを用いてインターネット対応を図る計画だ。既に東京都用賀の物件で2月から実験サービスを行い,良好な結果を得ているという。HomePNAは既存の電話線を用いて1MbpsのLANを構築するための規格。新規工事が不要なため,ローコストにネットワーク化を実現できるはずだが,当初は1戸あたり10万円近い費用がかかるため「管理組合承認の問題は残る」ことも認めている。

 大京が採用する方式では,小規模のマンションでは広帯域のインターネットを利用できないが,将来,インターネットへの接続コストが低下すれば,より高速な専用線,あるいは別のインターネット接続サービスに乗り換えることが可能だ。おそらく現行の性能には不満も出るだろうが,将来性と現行技術のバランスという意味では満足できる手法ではないだろうか。

 一方,三井不動産はこれまで,OCNを用いた初の定額制インターネットマンションや,オラクルのNCTVを全戸に配備したマンション,光ファイバーで全戸をネットワーク化し,月々2000円で広帯域ネットワークを利用可能なマンションなどを手がけてきたが,今後開発するマンションすべてにおいて,イーサネットによるマンション内ネットワークを標準仕様とする。その上で,コーラスコンピュータと共同で設立した無線LANによるインターネット接続サービス会社「bitcat」経由でのインターネット接続を実現させる予定だ。

 bitcatはマンションの屋上同士を長距離型の無線LAN装置(10Mbps)で数珠繋ぎに結び,データセンターをゲートウェイとしてインターネットへと接続するサービス。同社の既設オフィスビルのほか,個人向け住戸もbitcatを用いたインターネット接続ソリューションを展開させる。bitcatでは,三井不動産開発のオフィスビル,マンション以外でも,電波が届く範囲内で既設の他社開発マンションにもインターネット接続サービスを提供していく計画だ。マンション屋上から各戸への接続にも無線LANを利用する。

 インターネットへのゲートウェイは,数多くのユーザーをまとめ,太い回線で接続させる方が,帯域を共有するインターネットの通信では快適性が向上する。つまり,三井不動産は数多くの既設オフィスビル/マンションの開発実績を背景にWANを形成することで,インターネット接続時のスケールメリットを出そうとしているわけだ。

 bitcatでは電波が届く範囲内でしか建物同士を結ぶことはできないが,集合住宅が密集する都市部のインターネットソリューションとしては合理的ではある。bitcatは今年2月から3棟を結んだ実証試験が終了し,この秋には54棟を結んで本格サービスが始動する。その後には,より広範囲なサービスの開始が予定されている。合理的なインターネット対応の手法として,今後の発展を期待したい。

[本田雅一, ITmedia]

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