News 2000年9月28日 10:36 PM 更新

「PCではなく,TVでもない」ソニーの「エアボード」詳報

ソニーの「エアボード」は,近い将来に到来する家庭内ネットワーク時代を先取りした製品といえる。その分,コンセプトの新しさが普及のネックになるかもしれない。

 ソニーマーケティングが発表した“パーソナルITテレビ”「エアボード」は,「AVとネットワークが融合した初めての商品」という自信作。ネットワークを家庭に浸透させる先兵として大々的なプロモーションを展開していく考えだ。ソニーの考えるホームネットワーク構想がユーザーに受け入れられるのか。エアボードの“離陸”は業界の注目を集めそうだ。

バッテリー容量はやや不安

 エアボードは,一言で言えば“TVも見られるワイヤレスWebPAD”だ。だが動画をリアルタイムでMPEG-2に圧縮して伝送するなど,要所でソニーらしさが見られる製品となっている。

 ワイヤレス通信方式のIEEE 802.11bは,PCで利用されている無線LANと同じ規格。理論的な伝送速度は11Mbpsだが,実効速度は約6Mbpsとなる。通信可能距離は,理想的な環境で約130メートルまで可能だとしており,一般的な木造住宅やマンション内であれば十分だという。PCとの接続は技術的には可能で,将来は同社のバイオシリーズなどとの連携も視野に入れているほか,1台のベースステーションと複数のモニターを接続する技術も既に開発済みだという。


ベースステーションは「AVマウス端子」も装備しており,対応機器と接続すればモニターからCS放送チューナーなどのAV機器を操作可能になる

 TVの画質はさすがに精細さに欠ける感はあるが,至近距離で見ることができるため「体感では32型並み」(同社)の迫力はある。チューナーはVHFとUHFのみの対応だが,MPEG-2方式を利用したBSデジタル放送への対応や,HDDレコーダーの内蔵も図っていくという。


モニターを手で持ったところ。薄さがよく分かる

 OSはウインドリバーシステムズのリアルタイムOS「VxWorks」を採用。Webブラウザはアクセスの「NetFront」で,ソニーがエアボード用にモディファイして搭載している。既存のインターネットアカウントを持っている場合は,PCと同様の設定項目を入力する必要があるが,初めてネットに接続する初心者向けに,ISPへのオンラインサインアップから接続設定まで一発で行ってくれるソフトを搭載する予定という。


WebとTVを同時に表示させることもできる

 “家電感覚”をうたい,液晶パネルはタッチパネル付きとなっている。チャンネル切り替えやWebサーフィンはすべてペンを使って行える。また文字はソフトキーボードで入力するが,同社が開発した「予測入力方式」が文章作成を支援する。この方式では,例えば「あ」を入力すると「明日」「会う」「あそこ」といった単語を使用頻度順にリスト化して表示し,その中から選択することで入力作業を軽減するもの(同方式を活用したUNIX用ソフト「POBox」,Windows CE用の「ComPOBox」というフリーウェアも公開されている)。


「予測入力」を利用したメール文章作成画面

 モニターの電池時間は標準バッテリーで約1時間。映画を見るにはオプションの大容量バッテリー(1万5000円)が必要になるだろう。モニター本体の重量は約1.5キロで,B5サイズのノートPCとほぼ同じ。大容量バッテリーに換装すると約1.8キロとなる。寝ころんでテレビを見たりするにはやや苦しい。

新コンセプトは理解されるか

 同社は「自宅でも携帯電話を利用し,ノートPCを家の中だけで利用しているユーザーも相当数いる」とし,家庭内で移動しながらデジタル機器を利用する“ホームモバイル”分野に新しい市場を見いだしたという。ワイヤレスでテレビ視聴とネット接続が可能な液晶テレビは,家電メーカー各社が掲げるホームネットワーク構想には例外なく含まれる製品だ。同社では「エアボードはTVでもなくPCでもない新カテゴリーの製品。家電製品の操作性の良さを備え,今までPCを使ったことのないお年寄りでも扱える」とし,デジタルデバイドの解消にも役立つとアピールする。

 ただし現時点での問題は価格。店頭での実売価格は13万円前後になると見られるが,これは同社のデスクトップPCの低価格モデル「バイオJシリーズ」とほぼ同程度となる。ただ「リアルタイムMPEG-2変換や動画のワイヤレス伝送など,つぎ込まれている技術を考えればこの値段でも安い」(同社)のは確かで,軽快な操作感とポータビリティは汎用性の高さが売りのPCでもかなわない。

 同社は「エアボードはPCとは違うビジネス」と言い切り,ホームネットワークを実現するコンセプト商品として売り込んでいく考え。“いずれはこうなる”という未来を形にした製品だが,それだけにその新しさとメリットがホームユーザーにどれだけ理解してもらえるかがポイントになりそうだ。

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[小林伸也, ITmedia]

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