News 2000年10月13日 06:23 PM 更新

Macユーザー様,OutlookとExchangeを使ってみませんか?

Microsoftは「MEC2000」で次世代のMac版Outlook「Watson」を披露した。Windows版と同じ機能を持ち,Mac OSの独自機能にも対応する,企業ユーザー待望のバージョンだ。しかし……。

 「MacユーザーはMicrosoft嫌いが多いのだ。あなたのようにMicrosoftをネタに稼ぐ人には分からないだろうけど」と,知り合いのMacintoshユーザーが言う。ちなみに私もMacはたまに使っているからMacユーザーとも言えるだろうし,一応はPowerMac G4のオーナーだからアップルの利益にも多少は貢献しているのだが……。

MEC 2000で飛び交ったMacユーザーの不満

 MacユーザーがMicrosoftをどう思っているかは別として,MicrosoftとMacの関係は深い。昔をほじくり出して,「Excel」はMicrosoftがMac用に作ったものだ,なんて言おうとは思わないが,今のところ最新かつもっとも使いやすいWebブラウザは,Mac OS上では「Internet Explorer」だと思っているし,オフィスでWindowsのユーザーとコラボレーションしたいと思えば,Mac Officeを使う必要も出てくるはずだ。

 MacにとってMicrosoftの製品は必要悪であって,できれば排除したいものなのかもしれない。しかし,お気に入りのMacをWindowsであふれる企業の中で使おうと思えば,Microsoftの製品(たとえばOffice)に依存しなければならない部分もある。

 Microsoft Exchange & Collaboration Solution Conference 2000(MEC 2000)には,来場者全員が利用できるExchangeの環境が用意されているが,パブリックフォルダに作られたディスカッションフォルダには「Macintosh Issue」というテーマが作られ,参加社の一部が社内でMacユーザーがいかに疎外された環境にあるかを訴えている。

 オランダから参加したBaan社員のBart Roozendaal氏は「TahoeやExchange 2000には魅力的な機能もある。実際,わが社は導入を進めるだろう。しかし,うちの会社には25%のMacユーザーがいる。社内コミュニティに彼らを参加させることができないのが悩みだ」とマルチプラットフォームの悩みを投稿。

 Starr TechnologiesのBJ Sinder氏は「私は会社の情報にアクセスするため,Virtual PCとWindows 2000 Professionalの上でOutlook 2000を使っている。もちろん,ExchangeがWindowsを作るMicrosoftのサーバだということは良く理解しているが,彼らには優れたMacのソフトを作る力があるはずだ。どうかわれわれをコミュニケーションの輪から外に出さないで欲しい」とユーザーの立場から意見を述べた。

 ほかにもいろいろな意見が飛び出しているが,ともかくExchangeを導入した企業の中で,Macユーザーの孤立が問題になっているケースが多いことは確かなようだ。

有名無実だったMac版Outlook

 Mac版の「Outlook 8.2.2」がリリースされたのは,今年5月のこと。英語版とドイツ語版に加えて日本語版も開発されており,いずれもMicrosoftのホームページから無料でダウンロードが可能だ。

 しかし,以前のMac版Exchangeクライアントがそうであったように,Mac版OutlookはWindows版とは似ても似つかない代物だった。見た目が異なるといった些細なことではなく,機能面から見て全く別のクライアントなのだ。ユーザーインタフェースから機能に至るまで,「Outlook 2000」と同じところの方が少ない。

 たとえば,Mac版OutlookはExchangeのメールボックスにアクセスできるが,POPサーバから受信したメールをExchangeメールボックスに収めることができない。また,利用できるパブリックフォルダはディスカッション機能だけで,カレンダーや連絡先といった機能にアクセスできない。さらにスケジュール機能は,古いファイル共有型メールシステムで使われていたSchedule+のプロトコルしかサポートされない。Schedule+形式のグループスケジュールはExchangeを経由することで,Windows版Outlookともやり取りができるが,相互運用性や機能は格段に落ちてしまう。

 さらに決定的なのは,Mac版Outlookがとても使いにくいこと。もともと,Mac版Exchangeクライアントとして開発されたプログラムに,Outlookと似たアドレス帳とSchedule+クライアントが統合されただけで,本質的にOutlookと呼べるものではない。

Windows版と同じ機能を実現する「Watson」

 米MicrosoftでMac版Outlookのプログラムマネジャーを務めるJensen Harris氏は,「このイベントに参加してくれている人たちの中に,これほどPowerBookユーザーがいるとは思わなかった。今日は僕自身の仕事上の問題でもあったMac版Outlookについて嬉しい話ができる」と切り出し,「この中でMacユーザーは?」と挙手を促すと,8割以上の人が手を挙げた。

 彼によると,MacユーザーがWindowsユーザーと同じようにExchangeにアクセスし,同じアプリケーションが利用できることを目標に「Watson」と呼ばれる新クライアントを開発しているという。

 Watsonを簡単に説明すると,Windows版Outlookとほぼ同じ機能を持つ“偽物ではないMac版Outlook”ということだ。WindowsのMAPI設定と同じように,複数のメールサービスを登録し,プロファイルを切り替えながら利用できる。もちろん,Outlookの中で使われるすべてのメッセージフォームを読み書きすることが可能で,パブリックフォルダ内のフォームも例外ではない。

 さらにWindows版のPSTファイル(Outlookがローカルディスクに作成するメッセージフォルダファイル)と完全な互換性があり,Windows版とMac版で同じPSTファイルをネットワーク共有することもできる。

 これらにより,WindowsユーザーとMacユーザーがExchange上の同じアプリケーションを利用可能になり,「Macユーザーが社内の情報システムで孤立することはない」(Harris氏)。両方のプラットフォームを同時に使っているユーザーは,どちらからでも同じ情報にたどり着くことが可能だ。

Mac OSの機能にも対応。しかし……

 一方,“Mac版ならでは”の部分も存在する。フォルダを表示するツリー表示はFinderライクなものに変更され,キーボードショートカットもWindows互換とMac互換の両方を利用できる。Mac OSのアピアランス設定に対応した256色のビジュアルを持っているのもMac版だけだ。また,Windowsよりも画面の論理解像度が低いMac OSのために,テキストやHTMLメールを96dpi相当にワンタッチで拡大するボタンが取り付けられている。

 Mac OSの独自機能も,いくつかサポートしている。Exchangeへのログオンパスワードは,Mac OSの鍵束に登録でき,シングルログオンでの利用を可能にしている。また,予定やTo-Doのアラームは独自にノーティファイを出すのではなく,Mac OSのNotification Managerを利用。Outlook中で参照するPSTファイルなどのデータは,Alias Manager経由でアクセスするため,ファイルの場所を移動してもきちんと動作する。


Add Keychainで鍵束に登録

 Mac OS 9でマルチユーザー機能を使っているなら,ユーザーごとに別々のメール設定を行うことが可能だし,Outlookのスケジューラ上で変更したタイムゾーンはMac OSシステムの設定を自動的に変更できる。さらに日本語版では,インライン変換にもきちんと対応したとのことだ。


Windows版と同じリッチなフォーム

 Watsonの動作条件は,Mac OS 8.6以上のPower PC搭載機で,システムメモリ32Mバイト,20Mバイトのハードディスクスペース。なお,現在のWatsonはClassic環境対応のアプリケーションであり,Carbon対応はWatsonの後継バージョンで行われる見込みだ。ただし,デモでは高い完成度を見せているWatsonだが,そのリリース時期は,いまだ明らかではないという。その理由について質問されたHarris氏は,何も答えなかった。

 セッションの後,運良く冒頭で紹介したBaanのRoozendaal氏に遭遇できた。彼は「これを待っていた。しかし,目の前で見せておきながら,まだ導入できないなんて!」と切り出した後,落ち着きを取り戻して次のように指摘している。

 まず,WatsonはOutlookの機能をすべて利用できるが,カスタムメイドのExchangeフォームをサポートしない。またHTTP/WebDAV(HTTPを用いたWebサーバへの読み書きを行う標準プロトコル)へのアクセスもできない。Outlook Todayの実装が行われていない。Web Formアプリケーションにアクセスすると,外部のWebブラウザが起動する。といった点を不満として挙げた。しかしそれに続けてこう言う。

 「とはいえ,それらの対応を待つほど気は長くない。今のままでいいから,すぐにリリースしてくれ」(Roozendaal氏)。

[本田雅一, ITmedia]

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