News 2000年10月20日 10:13 PM 更新

タイタスとJ-COMの合併が招いたサービスの低下

CATV大手のタイタス・コミュニケーションズとジュピターテレコムの合併に伴い,インターネットサービスはすべてJ-COM@NetHomeに移行することになった。しかし,一部のユーザーはこれに反発,両社に要望書を提出している。

 残念なことにADSLの普及が遅れている日本だが,もう1つのブロードバンド(高速インターネット接続)回線の代表・CATVによるインターネット接続は,提供地域が限定されているとはいうものの,静かなブームを巻き起こしているようだ。従来,テレビ放送のみを提供していた中小CATV局も,続々とインターネット接続サービスを提供し始め,CATVインターネットの利用者数は,3月末で21.6万人,6月末で32.9万人と急上昇している(*1)。

 このように順調に発展しているように見えるCATVインターネットだが,今後の発展にもかかわるような大事件が起きた。

 10月19日,CATV統括運営会社大手のタイタス・コミュニケーションズは,9月1日のジュピターテレコムとの統合(*2)にともない,同社のインターネット接続サービス「ALLNET」の加入者を,12月1日から順次,「J-COM@NetHome」サービスへ移行させることを発表したのである。

 タイタスの親会社となったジュピターテレコムは,全国でCATV事業を展開している。これらのCATV網を用いたインターネット接続サービスについては,近畿地方を除き,アットホームジャパンによって提供されており,J-COM@NetHomeサービスと呼ばれている(*3)。アットホームジャパンは,CATVインターネットサービス世界最大手の米At Homeやジュピターテレコムなどによる合弁会社。At Homeが米国で提供している「@Home」サービスと同様,コンテンツを含めた総合的なインターネット接続サービスを提供する。一方,タイタスは,現在,自社ではコンテンツの提供をしていない。その点では,J-COM@NetHomeへの移行は,サービスの拡充につながるといえる。

 ところが,インターネット接続に関する根本的な部分では,タイタスが提供してきたALLNETと,J-COM@NetHomeとでは,方針が全く異なるのだ。

タイタスとJ-COMのサービス比較
ALLNETJ-COM@NetHome
ルータの使用可ルータの使用不可
サーバの公開可サーバの公開不可
固定IPアドレスのサービスも提供DHCPによるIPアドレス割り当てのみ
法人向けサービスも提供一般家庭向けのみ

 まず,IPアドレスやポート番号の変換機能(NAT)を行なうルータなどの機器が,J-COM@NetHomeでは使用禁止になる。

 ダイヤルアップでインターネットを利用しているユーザーには,ルータが使用禁止となっていることに驚かれるかもしれない。国内では,ごく一般的な機器となったISDN用ルータだが,CATVによるインターネット接続でも,これに似た「ブロードバンド用のルータ」を使用することができ,家庭内の複数台のパソコンからインターネットへ接続できるようになる。

 そればかりか,ダイヤルアップに比べ,外部から侵入される可能性がはるかに高い常時接続では,なんらかのセキュリティ対策が求められるが,「ブロードバンド用ルータ」は,セキュリティを強化する効用も持つ。

 にもかかわらず,このような「ブロードバンド用ルータ」は,J-COM@NetHomeでは禁止されている。その代わり,オプションの追加IPアドレスを申し込むことにより,家庭内の複数台のパソコンから利用できるようになる。ルータを禁止している理由を,アットホームジャパンに尋ねたところ,「ルータを許可すると,ユーザーが何台のパソコンを接続しているか判らなくなる。接続台数を把握することにより,必要な帯域を計算することができ,快適な接続環境を提供できる」と話す。しかし,追加IPアドレスでは,セキュリティは守れないままであるほか,インターネットに接続するパソコンとしないパソコンの混在も難しくなってしまう(*4)。そもそも,ADSLをはじめ,ほかのブロードバンド事業者ではルータが使用できるのに対し,多くのCATVサービスで禁止されている点も不思議である。

 また,ALLNETでは,固定IPアドレスを用いてサーバを公開することができる「プレミアム」という接続サービスが用意されていた。それだけでなく,法人向けのサービスにもタイタスは注力してきた。これらのサービスでは,独自ドメインサイトの運用も可能だったため,地元の企業のみならず,東京都田無市のような地方自治体にも採用されている。過去にも,タイタスは,サービスエリアの教育機関を対象に無料試験サービスを実施し,地域社会に積極的に関わってきていた。

 一方,現行のJ-COM@NetHomeは,一般的な家庭ユーザーのみを対象としており,固定IPアドレスや独自ドメインのためのサービスは,いっさい提供していないだけでなく,法人契約さえ結べない。この点に関して,タイタスは,現行ALLNETの固定IPアドレスの利用者・法人には「当面の間,ALLNETサービスを利用してもらうが,今後のことはまだ決まっていない」と話す。

 タイタスもジュピターテレコムも,NTTと同じく第1種通信事業者である。CATV事業の展開には,多大な設備投資が必要なため,同一地域に複数の事業者がサービスを提供していることは珍しく,事実上,地域独占となっている。このような事業者が,安易に提供サービスの内容を低下させてよいのだろうか?

 もっとも,このJ-COM@NetHomeへの移行問題は,インターネット接続環境を提供するサービスプロバイダが選択できれば解決できるものでもある。例えば,フレッツ・ISDNを思い浮かべていただければよいだろう。固定IPアドレスで利用したいユーザーは,そのようなサービスを提供しているプロバイダと契約するだけでよい(*5)。

 ところが,現在,J-COMのCATVユーザーには,アットホームジャパンの提供するJ-COM@NetHomeしか選択が用意されていない。このため,ユーザーによっては不満が生じているのだ。

 実は,アットホームジャパンの親会社であるAt Homeは,米国で最大規模のCATV事業を展開するAT&Tとの独占的な関係が批判され,その結果,AT&Tは,2002年より,ユーザーが@Homeサービスだけでなく,ほかのサービスプロバイダによるものを選ぶことができるようになる。日本でも,たとえば,ADSLを提供するイーアクセスは,上位プロバイダとして,現在,NECが提供する「BIGLOBE」と富士通の「@nifty」とから選択できるようにしている。

 このように,ユーザーが接続先を自由に選べ,各サービス間に競争が生じたとしても,J-COM@NetHomeは,依然,多くのユーザーに不評なルータの使用禁止を続けるのだろうか。

 ジュピターテレコムとタイタスのグループは,単にCATVインターネット接続業者としてだけでなく,ブロードバンド事業者全体としても,現在,国内最大の利用者を誇る。両社には,日本のブロードバンド事業の先駆者として,自由競争を通じ,より重要な役割を果たしていって欲しいと切に願うばかりである。

 なお,タイタスALLNETユーザー有志は,連名でサービス維持を求めた要望書をタイタス・ジュピターテレコム両社に郵送した(*6)。タイタス広報によれば,10月中にも回答を出す予定だという。今後の両社の動向に注目したい。

*1 郵政省調べ。9月末の数字は現時点で未発表。

*2 ジュピターテレコムの株の30%を,旧タイタスの株主が受け取り,タイタス自体は,ジュピターテレコムの100%子会社となった。統合発表直前の5月末時点のCATVインターネット加入世帯数は,3.5万人(ジュピターテレコム)と2.8万人(タイタス)。CATV統括運営会社の中でも最大手同士の統合だった。

*3 「J-COM」はジュピターテレコムの,「@NetHome」はアットホームジャパンのサービスブランドである。近畿地方では,関西マルチメディアサービスが,ZAQというブランドで提供している。

*4 追加料金を支払うことにより,インターネットに接続しないパソコンにも,CATV局からIPアドレスを割り振るようにすれば,接続するパソコンと通信ができるようにはなる。ただし,余分な費用がかかるほか,接続する必要のないパソコンまで,インターネットから侵入される可能性が生じてしまう。

*5 国内では,アットホームジャパン以外にも,富士通が「Cable@nifty」というブランドでCATV向けのインターネット接続サービスを開始している。

*6 サービス移行の正式発表より前の10月15日に郵送された。詳しくはWebサイト(http://allnet.monyo.com/)を参照。

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関連リンク
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[吉川敦, ITmedia]

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