News 2000年12月13日 10:26 PM 更新

見えてきたデジタル地上波放送への課題

2003年に開始されるといわれるデジタル地上波放送では,携帯端末でもテレビが見られるなど期待は高い。しかし立ちはだかる課題も多い。

 12月13日,都内でハイパーメディアコンソーシアム主催のデジタル衛星放送セミナーが開かれた。講演に立ったNHK技術局の技術主幹である榎並和雅氏は,2003年といわれているデジタル地上波放送開始へのさまざまな課題を語った。

 放送のデジタル化は,着々と進んでいる。今年の12月からデジタルBS放送が開始され,2001年9月には110度CS放送が始まる見通し。そのあと,2003年に開始が予定されているのが,デジタル地上波放送だ。

デジタル地上波放送の特徴

  • HDTVサービスが可能
  • 移動体向けサービスが可能
  • 周波数有効利用への寄与
  • ベースバンド信号でのBSとの共通性を確保
  • 国際規格の採用

移動体ではハイビジョンは見られない

 榎並氏は,よくある誤解として「(デジタル地上波放送でも)ハイビジョンを移動体で見られるわけではない」ことを挙げる。日米欧で共通の方式となる「固定受信」形態では,HDTV(ハイビジョン)またはSDTV(標準テレビ)3番組を送信できる。しかし移動受信となると,SDTVと独立音声放送,データ放送が送信できるにすぎない。

 これは移動体の場合,強力な誤り訂正の必要があるためだという。しかし,従来のアナログ地上波放送と違い,「(受信は)ロッドアンテナで可能」(榎並氏)であるし,画質ははるかに鮮明になる。

またしても国によって異なる方式

 “デジタル地上波放送は国際規格を採用する”といっても,やはり国ごとの違いは大きい。国産の技術である「ISDB-T」の採用を予定しているのは,今のところ日本だけだ。

地上デジタル放送の比較(表:NHK)

方式名 ISDB-T DVB-T DTV DAB
採用国 日本 ヨーロッパ 米国 -
主サービス HDTV 音声 複数SDTV HDTV 音声
最大伝送容量 23.4Mbps 1.8Mbps 23.5Mbps 19.4Mbps 1.8Mbps
マルチメディア(多重)
移動受信 ×
周波数効率(SFNの実現) ×

膨大な費用に見合うサービスは?

 デジタル地上波放送を開始するためには,膨大な費用が必要だ。デジタル地上波を送信する基地局の整備だけでも「NHKだけで3500億円かかる」(榎並氏)と言う。

 見落としがちなのが,デジタル地上波用のチャンネル割り当てだ。しかし,現在周波数帯域に空きなどはなく,既存のアナログ放送のチャンネルを動かして,帯域を空けて使うことになる。

 この「アナアナ変更」と呼ばれる作業には,852億円が必要だと見積もられている。UHFのローチャネルを中心に13〜32チャンネルがデジタル地上波放送に使われ,従来このチャンネルを使っていたアナログ放送局は別のチャンネルに移行させられる。


アナアナ変更にかかる費用は,日本のデジタル化を推進するための費用として,国が負担することも検討されているという

 費用以外にも課題は多い。BSデジタルが実現している時代に,デジタル地上波に相応しいサービスを提供できるのだろうか? 現時点で期待されるのは移動体だ。“移動体でテレビを見られるようになる”として,多くの家電メーカーはデジタル地上波放送に向けて準備している。

 デジタル地上波放送は,既にチャンネルプラン策定に向けた共同検討作業が始まっており,2003年には東名阪地区での放送が期待されている。そのほかの地区での開始は2006年からの見通しだ。

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[斎藤健二, ITmedia]

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