News 2001年2月8日 10:59 PM 更新

“技術”はGnutellaに対抗できるのか?

Napsterと異なり,完全なP2Pを実現したGnutellaに対抗するには? DTPやプリプレス分野の専門展示会「PAGE 2001」でマックス法律事務所の斎藤浩貴弁護士が講演を行った。

 GnutellaのようなピュアP2Pモデルにどう対抗するか。DTPやプリプレス分野の専門展示会「PAGE 2001」でマックス法律事務所の斎藤浩貴弁護士が著作権者に向けた講演を行った。同氏によると,対抗策は法律よりも技術だという。

 Gnutellaは,MP3再生ソフト「WinAmp」のメーカーとして知られるNullsoftのプログラマーが開発したファイル交換ツール。周知の通り,Gnutellaは,サーバを介在せずにエンドユーザー同士がファイルを交換できるソフトだ。ユーザーがGnutellaを起動して検索をかけると,Gnutellaは,ネットワーク的に近い場所にある仲間を探し出す。同じくGnutellaを起動しているPCが見つかると,目的のファイルがあるか問い合わせ,なければ別のPCへと手を伸ばす。問い合わせを受けたPCも検索に協力し,それが見つかるとリクエストを出したPCをホスト(ファイルを持つPC)に直接繋ぐ。

 仕掛けとしては,良くできたものだ。しかしながら,Gnutellaが登場した当初は,検索が遅く,またソフトウェアとして完成度が低かったため,ユーザーの不評を買っていたのは別記事で触れている通り。実際,音楽業界も当初はGnutellaを相手にはしていなかった。先行したNapster訴訟で,「たとえ自社のサーバに楽曲ファイルを置いていなくても,“個々のユーザーが行う著作権侵害を容易にした”として,間接侵害が認められた」(斎藤氏)ことで安心した面もあったかもしれない。

 しかし,Gnutellaがオープンソース化(4月17日の記事を参照されて状況は一変する。世界中の開発者がGnutellaを改良できるようになり,「Bearshare」のような使いやすいソフトも登場した。同時に音楽業界は「ソフト販売者の責任も追及できなくなってしまった」(斎藤氏)わけだ。もちろん,サーバを置く必要もないGnutellaでは,事業者が存在せず,Napsterのような判例も役には立たない。

「完全に個人による送信を実現したGnutellaは,グーテンベルクの印刷術とともに登場した著作権にとって,もっとも大きな変革だ。著作権者には,来て欲しくなかった時代といえる」(斎藤氏)。

訴訟よりも技術?

 斎藤弁護士は,個人的な意見と前置きした上で,2つの方法を提示している。1つは,ファイルの受け渡しをする個人を抑制すること。つまり,インターネットの匿名性を廃し,IPアドレスを固定にして個人を特定できるようにするというものだ。IPv6が実用化されれば可能にも思えるが,「ITの発展という,別の視点から見れば,ネットワークの管理は望ましくない」(斎藤氏)のも事実。

 もう1つは,技術によってファイル交換を不可能にすること。「ネットワークで(著作物を)配布する際には,まず誰かがパッケージやレコード会社による配信といった合法的な方法で楽曲を入手しなければならない。ここを技術的に抑える」(斎藤氏)。つまり,DVDのCGMS,映画ビデオのSCMSのようなコピープロテクション機能により,著作権を保護するのだという。

 もっとも,音楽CDにもSCMSというコピープロテクション機能がある。SCMSによって,民生用のCD-Rデッキでは1度しかデジタルコピーできないうえ,著作権者への補償金が含まれているため,複製コストも高めだ。しかし,これがパソコンの世界では全く機能していない。ショップで数万円のCD-Rドライブと1枚100円程度のメディアを買ってくれば,誰でもコピーできてしまうのは何故だろうか?

 答えは,著作権法の第120条の2にある,“技術的保護手段の回避に関する規制”を読めば分かる。「技術的保護手段の回避専用装置等の公衆への譲渡等を刑事罰によって規制」。要約すると,コピーガード除去機のような製品を販売すると,刑事罰の対象となってしまうということだ。しかし,「回避専用装置」はコピーガードを回避するための専用機器を表し,汎用品のパソコンはこれに含まれていないのだ。また,刑事罰の対象であり,民事的な請求権は認められていないため,音楽業界にはメリットがない。法律が技術に追いついていない良い例とも言えるが,ここで分かるのは,「(機器ではなく)CDそのものに著作権管理情報を入れるしかない」(斎藤氏)ということのようだ。

 GnutellaのようなピュアP2Pソフトから著作権を守るには,電子透かし技術のような,楽曲データそのものに権利管理情報を組みこむことが必要となる。また,既存の著作権法でも,営利目的で権利管理情報を侵害した場合には,刑事罰が科せられるという。もっとも,新しい技術が投入されれば,それをクラックしようとする人間が出てくるのもPCの世界では常識。イタチごっこの中で,Gnutellaとその子孫はしぶとく生き続けるのだろうか?

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[芹澤隆徳, ITmedia]

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