News 2001年3月9日 11:12 PM 更新

“紙面そのまま電子配達”は電子ペーパー時代のコンセプト

新聞の紙面がそのままのデザインで配信されてきたら読みたいと思いますか?

 以前,出版社のWebサイトを見ていると,スキャンした雑誌の誌面がそのまま掲載されていることがあった。リソースを使い回そうと考えるのも分からないではないが,低解像度でスキャンされた文字を読むのはなかなかつらいものだ。さらには,スライスも使われていない1枚の画像データだったりすると,表示されるまでに非常に時間がかかる。やめてくれとまでは言わないが,あまり歓迎されるやり方ではないのは確かだろう。

 ただ,そうした状況は2〜3年前のことで,さすがに最近は“丸ごとスキャンコンテンツ”を見かけなくなったと思っていたら,今度は,新聞紙面をそのままのデザインで配信するサービスが登場した。これは,産経新聞社が“新聞そのものを電子配達”と打ち上げたものだが,正直,「なぜ今さら」と首をひねってしまう。

豊富なマルチメディア機能

 産経新聞のニュースリリースを見てみると,これは単に新聞紙をスキャンしたものではないことが分かった。産経新聞では,ドキュメントサーバを手がけるサピエンスと新聞を配信するシステムを共同で開発。このシステムでは,専用ソフトの「ニュースビュウ」を使うことで,文字を最大64倍まで拡大できるほか,範囲を指定して印刷することもできる。さらに,輪転機で新聞を印刷するのと同じ時間帯にデータ化して配信するというから,まさに配達といったところだ。


“紙面そのまま配信”サービス(画像:産経新聞社提供)

 また,記事内にリンクや動画を埋め込んだりすることも可能なマルチメディア新聞でもある。しかも,見た目は普段読んでいる新聞と全く同じなので,「パソコンアレルギーのおじさんたちにもフレンドリー」とアピールするつもりかもしれない。

 とはいうものの,やはり新聞紙面をそのまま配信するには,やはり無理があるのではないだろうか。雑誌の内容をそのままスキャンして掲載するのが減ってきたのは,紙のデザインとディスプレイで見せるデザインは異なるという考えが浸透したためである。“新聞紙”と“ディスプレイの中の新聞”はデザインは同じでも,実際には全く別のもの。紙で読みやすいようにレイアウトされた新聞を,そのままディスプレイ上に持ってきても読みやすくなるとは考えにくい。

 また,PDFファイルをディスプレイ上で読む人が少ないように,いくら拡大できるとはいえ,拡大しすぎれば読みにくいのも事実。それなら,プリントしたほうがいい。ところが,プリントしてしまえば,マルチメディア機能は使えなくなってしまうというジレンマに陥る。

電子ペーパーに期待

 だからといって,産経新聞の“慣れ親しんだデザインを残そう”というコンセプトが全く間違っているというわけでもない。実際,米Xeroxのパロアルト研究所(PARC)や Lucent/E Ink,国内ではキヤノンなどが開発に取り組んでいる電子ペーパーでは,実用化に際して新聞紙を代替しようというアイデアが打ち出されている。例えばキヤノンでは,1枚1000円程度の電子ペーパを開発し,気軽に持ち運べるディスプレイとして普及させたいという。

キャノンの電子ペーパーのモックアップ。2007年に1000円程度で販売できるよう開発中だという

 電子ペーパーのポイントは,単にレイアウトを継承するということではなく,紙のような使い勝手まで再現しようというところにある。そうした時代になって,はじめて紙のデザインを使う意味があるのではないだろうか。

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[中村琢磨, ITmedia]

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