News 2001年3月23日 07:47 PM 更新

ノートPCが地球温暖化を防ぐ?

 以前,別の媒体で,「PCがスタンバイ状態の時の電力はわずかなので,その電気代を惜しむよりは,すぐに使える便利さをとった方が結果的に機器を有効に活かせて,豊かな生活ができる。だから,PCの電源を完全に切るのはよそう」といった話を書いた。読者からは,多少の反響があり,決して馬鹿にならない待機時電力があるのに,それを無視するのはどうかという意見をいただいた。でも,基本的なぼくの考え方は,その後も大きくは変わらない。ただ,地球に優しい情報機器の使い方を探さなくてはならないなという気持ちは,強くなった。

 現在,平均的なPCのスタンバイ時電力は,3ワット程度。これに対し,テレビなどの家電製品の待機時電力は1ワットを切っている。地球に優しいユーザーは,それさえ惜しみ,テレビを見ないときにはメインスイッチを切る。そういう人からすれば,PCの電源を入れっぱなしで放置したり,スタンバイとはいえ,ある程度の電力を消費するのに,それを推奨するのは何事かということになるわけだ。まして,ちょっと古いPCでは,スタンバイ時に数十ワットなどというものもある。

 ちなみに,1キロワットあたり20円で換算すると,3ワットで1カ月間スタンバイを続けた場合,電気代は45円程度。でも,金額の問題ではないのだろう。

午後1時に電源供給をストップ

 日本アイ・ビー・エム(IBM)が,PCの電源管理共同研究プロジェクトを開始し,関西電力,東京電力,三洋電機ソフトエナジーカンパニー,松下電池工業とともに,地球温暖化防止に向けた取り組みを開始した。

 現在,電力会社が抱える最大の悩みは,ピーク時に求められる電力に応じて設備を作らなければならないということ。例えば,みんなが冷房を使う夏の午後は,1年の中で消費電力がピークに達する。もし,電力会社がこのピーク時電力に応えることができなければ,必ず,どこかで停電が起こる。電気は,作った次の瞬間には消えてなくなるものなので,ためておくというわけにもいかない。

 そこで,このプロジェクトでは「ピークシフトコントロール・プログラム」(使用電力負荷平準化)と呼ばれる手法により,企業で使われているPCの電源供給をコントロールすることで,どのような効果が出るかを研究するという。

 早い話が,最も電力が要求される時間帯に,ノートPCがいっせいにバッテリー駆動に移行し,ACの消費を抑制することで,ピーク時の電力消費量を低減させようというのだ。具体的には,ノートPCの充電式バッテリーーを有効に生かすために,昼間の1時にAC電源による電力供給を止め,バッテリー 駆動に移行させる。そして,午後4時にAC供給を再開するような仕掛けを作ってみる。

 これによって,ノートPCのバッテリーは今まで以上に過酷な充放電の繰り返しを求められることになる。そんな負荷に強いバッテリーーの研究も,このプロジェクトの一環だ。

 日本IBMの本社ビルで試算した例も挙げられている。現在,同社の本社ビルでは,デスクトップPCとノートPCが600台ずつ,合計1200台が使用されているそうだが,これがすべてピークシフト・コントロールされたノートPCになれば,25万9200キロワットの削減効果が期待できるという。

持ち出そうとしたら電池切れ?

 理想的なバッテリーと消費電力の少ないノートPCを使うことで,将来的には深夜電力でバッテリーを充電し,昼間はバッテリーで駆動するような使い方まで想定されている。だが,現時点でのこのプロジェクトのミソは,現行のPCに何の加工も加えず,BIOSやユーティリティソフトウェアだけで電力削減の実現が可能な点にある。ユーザーに意識させない形で,午後1時になればバッテリー駆動に切り替えることで,ピーク時電力を抑制するというのだ。

 ただ,問題も少なくない。例えば,この方法では,ほとんどのPCが午後4時の時点でバッテリーが空になるわけであり,夕方になって営業マンが客先から緊急の呼び出しを受け,いざノートPCを持って出かけようとしたら,電池切れという状況は容易に想像できる。

 こうした悲劇を回避するために,バッテリー は必ず50%は残すなど,ソフトウェア側で詳細な設定ができるようにする案もある。また日本IBMの場合,営業セクションのないビルで使われているノートPCの約90%は,持ち出されることがない。こうしたノートPCにはプログラムを適用し,反対に,持ち出す可能性のあるノートPCは,プログラムの適用を外すような対処をすればいい。

 ピーク時の電力を情報機器側の工夫で低減させることができれば,建設しなければならなかった発電所を作らなくてすむかもしれない。あるいは,温暖化の原因になるような燃料を使わずに,地球に優しい燃料だけで電力を供給できるようになるかもしれない。今回のプロジェクトは,それが,本当に実現可能なのかどうかを確かめるための実験なのだ。

心がけだけでも効果が

 一般のコンシューマーレベルにも,今後,ブロードバンド常時接続の時代がやってくる。そして,家庭で使われている情報機器も,常に電源がオンのままで,稼働していることが当たり前になるはずだ。だが,2005年には関東地方だけで,178万キロワットの電力需要増が見込まれている。大型発電所の発電機1基が供給できる電力は100万キロワット程度なので,2基分弱だ。この建設を回避するには,早め早めの改善策の実施が必要になる。

 また,今回のプロジェクトは何もノートPCに限った話ではない。ノートPC市場の拡大によりデスクトップPCの割合は減少しつつあるが,同プロジェクトには,デスクトップPCの自然減を待たずに,電力消費を抑制したデスクトップPCを研究し,積極的にリプレースを促進していこうという目論見もある。

 スタンバイ状態であれば便利な上に,仕事の効率も上がる。楽しい生活を送るためには,わずかな電気代は仕方がないというのも事実。だが,それをずっと享受していくためには,昼間はノートPCをバッテリーで使うという簡単な心がけを持つだけでも大きな効果があるらしい。そういえば,携帯電話だって,みんな,バッテリー で使っている。問題は,昼間半日を安心してバッテリー運用できるノートPCが,なかなか見あたらないことだ……。

 90%のノートPCが持ち出されることなく机上で使われているのも,ただ単に,電池が持たないからではないだろうか。もし,バッテリー さえ持つなら,社内でもコードレスでいたい。まして,それが地球に優しいのなら。

[山田祥平, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.