News 2001年4月11日 11:11 PM 更新

米経済減速でも売上予測は2倍──Akamai,CEOインタビュー

ソフトバンクと組んで日本に進出する米Akamai。ナローバンドとブロードバンドが混在する今の状況で,他社にくらべて「圧倒的に有利」な同社のビジネスとは?

 ゾナ・リサーチの調査結果によると,Webサイトのパフォーマンスに起因した損失は,1999年の1年間だけで44億米ドルに上ったという。ともすれば「アクセス過多でサーバが落ちた」ことが人気のバロメーターのように語られがちな日本でも,コンテンツ配信を本業とする企業にとっては頭の痛い問題だ。そうした市場のニーズを受け,コンテンツ配信サービス最大手の米Akamai Technologiesがソフトバンク・ブロードメディアと手を組んで日本市場に乗り込むことを明らかにした。Akamaiの技術は,コンテンツをネットワークのエッジ付近に配置したキャッシングサーバ(通称:Akamaiサーバ)から配信することで,トラフィックで混雑したバックボーンを迂回し,配信サーバの負荷を分散させるというもの。Akamaiサーバとネットワークを持つ同社のパートナーは,世界中に存在する。Akamaiの共同設立者でCEOのGeorge Conrades氏,同じく事業企画担当のJonathan Seelig氏,そしてソフトバンク・ブロードメディアの橋本太郎社長に話を聞いた(以下敬称略)。


左から米AkamaiのGeorge Conrades氏,ソフトバンク・ブロードメディアの橋本太郎社長,AkamaiのJonathan Seelig氏

ZDNN まず,国内にあるAkamaiサーバの数と市場の見通しを教えてください。

橋本 日本発のコンテンツは多いので,とても期待しています。新会社設立発表時には,国内に250のAkamaiサーバがあると言いましたが,今日のデータでは既に300を超えました。とりあえず,500〜600まで増やしたいと思っていますが,それも間もなく達成されるでしょう。

 ワールドワイドでは,650のネットワークと9700のAkamaiサーバが接続されています。日本では15のネットワークと接続していますが,こちらも強化します。

Seelig コンテンツ配信には,大きく分けてメディアやアプリケーションの配信と,企業向けの配信の2つがあります。例えば,韓国ではストリーミング需要の大部分を英語の遠隔授業が占めていますが,日本でもエンターテインメントより,ビジネス分野が市場をリードすると考えています。

 われわれの製品に「Forum」というビジネス向けプログラムがあります。ストリーミングによるライブクリップやパワーポイントの資料を,プレゼンターの声と一緒に伝送できるというものですが,これを今四半期の終わりまでにローカライズする予定です。

ZDNN Digital Islandのような競合との違いは何ですか。

Seelig コンテンツ・デリバリーには,大きく分けてホスティング,ネットワーク,デリバリーという3つの要素がありますが,競合のDigital Islandは,ホスティング事業が主なビジネスになっています。ここは大きなポイントでしょう。例えば,われわれがNTTやKDDとパートナーになりたいと考えたとき,彼らはネットワークを持ち,またホスティングのビジネスを既に行っている。デリバリーに特化することで,そうした企業とも組みやすくなるのです。われわれは欧米で6社のホスティングパートナーを持っていますが,彼らのビジネスを取り上げることはしません。

 技術的な優位性という点では,Akamaiの場合,1つのキャッシングサーバには同じストリームが4つ届くようになっていることが挙げられます。これにより,どこかでパケットロスが起きたとしても,完全なコピーをキャッシングサーバ上に持つことができるのです(1999年10月の記事を参照)。

Conrades Akamaiは,全世界のコンテンツ配信市場で推定80%のシェアを持っています。これは,われわれのサービスが他社よりも魅力的であることの証明でしょう。

ZDNN 日本は,ブロードバンドインフラの拡大が遅れ,まだ多くのユーザーはISDNや56Kbpsモデムでダイヤルアップ接続をしています。一方でFTTHやADSLも登場し,インフラが入り交じった状態ですが,その中でAkamaiのサービスは有効に作用するのですか? また,ストリーミングビデオなどのコンテンツは,高速なインフラを提供する通信事業者がクローズドなネットワークで提供しているケースが多いのですが,この市場にどう食い込んでいくのでしょう。

橋本 インフラ自体はエンドユーザーが選ぶものですが,デリバリーの形を1つにしてしまってはのは良くありません。われわれの技術は,全体に対して最適化できるのがメリットです。これは,ナローバンドとブロードバンドが混在する状況で,圧倒的に有利なことです。

 もちろん,Akamaiのサービスでは,コンテンツプロバイダーが自前の配信サーバを設置することもできます。それがAkamaiに繋がってさえいればOKです。先日,ワールドカップサッカーのチケット販売でサーバが落ちましたよね。人気があるのは分かっているのだから,最初からそれなりの対処をすればいいと思いませんか?

Conrades クローズドなネットワークで提供されているコンテンツは,そのほとんどが知的所有権の問題をクリアできないものでしょう。われわれのサービスの1つに「DPS」(Digital Parcel Service)がありますが,これにはデジタルコンテンツの権利保護機能も盛り込まれています。ペイ・パー・ビューにも対応しています。

2003年の黒字化へ

ZDNN 米経済の減速により,ストリーミング市場自体も2000年の予測ほど速い成長を遂げられずにいます。Akamaiの状況を教えてください。

Conrades われわれも,売上予測を下方修正しています。ただ,修正したとはいえ,大幅に伸びています。2000年の売上は約9000万ドルでしたが,2001年は1億7500万ドルから1億9000万ドルの間になるでしょう。下方修正したといっても,昨年の倍ですよ。

 利益は依然赤字ですが,赤字幅は当初予想されたものよりも少なくなっています。それが何故かといえば,われわれは固定費があまりかからないビジネスモデルであること,そしてコスト管理にも力を入れているためです。

ZDNN 黒字転換はいつ頃を予定していますか?

Conrades EBITDA(償却前税引前利益)をプラスにするのが2002年の第2四半期,フリーキャッシュフローが黒字になるのは2003年を予定しています。そして重要なのは,黒字化するまでの資本は調達済み,という点でしょう。

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[聞き手:芹澤隆徳, ITmedia]

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