News 2001年6月19日 08:45 PM 更新

“陽の当たる場所”を求めるBluetooth

日本エリクソンなどが,ホットスポットを利用したBluetooth接続実証実験を行う。ホットスポットといえば,IEEE 802.11bを利用したワイヤレスサービスが主流だが……。

 日本エリクソン,丸紅,ハンドスプリングの3社は7月より,国内初となるホットスポットでのBluetooth接続実証実験を行う。「B.L.T.」(Bluetooth Launch Trial)と呼ばれるこの実験では,Bluetoothの現実的な利用方法を開発・検証することやBluetoothの普及を促進することが目的だという。空港や駅構内などのホットスポットにおけるワイヤレスインターネットは,成長が期待されるビジネスとして大きな注目を集めている。だが,そこにあるのはIEEE 802.11bを使おうというビジネスモデルばかり。Bluetoothが入り込む余地はあるのだろうか?

BluetoothとIEEE 802.11b

 今さらな話ではあるが,両者の通信速度を比較してみると,Bluetoothは最大721Kbps,IEEE 802.11bは最大11Mbps。通信距離では,Bluetoothが半径10メートル,IEEE 802.11bは半径100メートル。速度と距離だけを見れば,IEEE 802.11bが圧勝ということもできるが,当然,それだけでは両者の技術的な違いは見えてこない。

 Bluetoothはもともと,近距離通信の無線技術として登場した。通信距離が10メートルという仕様も,携帯電話とノートPCをワイヤレスで接続したり,プリンタとPCを無線でつないだりという用途には適している。さらに,依然として価格は高いもののBluetoothモジュールには小型・低消費電力という特徴がある(なお,日本エリクソンでは,モジュールの価格は,現在の30ドルからIrDAなみの5ドルまで下がるとしている)。

 今のところ,Bluetooth製品を出荷しているメーカー同士で相互接続性が確保されていないため,アドホック接続などBluetoothのメリットが活かされていない部分はあるが,要するに,BluetoothとIEEE 802.11bでは基本的なコンセプトから異なっている。そのため,“通信速度がIEEE 802.11bよりも遅い”というだけでBluetoothを切り捨ててしまうのには問題がある。ただ,IEEE 802.11bが対応製品の価格が急速に下落したことにより,一気に普及し始めたことで同じワイヤレス通信を掲げるBluetoothの影が薄くなってしまったのは事実だろう。

ホットスポット進出の目論見

 Bluetooth陣営としては,携帯電話への搭載など,Bluetoothの本来のフィールドで勝負をかけたいところだが,エリクソンが選択したのは,IEEE 802.11bがターゲットととするホットスポットへの展開だった。エリクソンは,Bluetoothシステム製品の「Bluetooth Local Infotainment Point」(BLIP)をホットスポットなどに導入し,ワイヤレスのインターネット接続サービスを提供する方針だが,「自らIEEE 802.11bと競合するビジネスを展開してどうするのか」(通信業界関係者)という見方が強い。

 実際,エリクソンのアシスタントプロダクトマネージャである松澤標氏は,「単純なインターネット接続サービスならIEEE 802.11bのほうが優れているのは事実」と認める。だが,“単純な”と断っているのは,B.L.T.で提供するのが,ホットスポットでメールを読んだり動画をダウンロードしたりなどインターネット接続に限ったサービスだけではないからだ。

 もちろん,体面上,B.L.T.でも「動画配信を実現」と謳っている。だが,松澤氏は,Bluetoothとホットスポットという組み合わせについて,「半径10メートル以内にあるBluetooth対応機器を自動的に認識する特徴を活かして,位置情報のプッシュ配信が可能」と強調する。例えば,エリクソンの本社があるスウェーデンでは,スカンナジビア航空が空港内でBluetooth搭載携帯電話に搭乗時刻をプッシュ配信したり,スウェーデン国鉄が駅構内で運行状況を確認できるサービスを提供したりしているという。

 国内でも同様に,JR西日本が山陽新幹線「ひかりレールスター」の車内にコンテンツサーバを設置し,情報配信サービスを提供する予定になっている。山陽新幹線は路線の半分以上がトンネルのため,駅に停車中にコンテンツサーバを更新し,最新の情報を提供できるようにする。また,7月サービス開始予定の「Marunouchi Cafe」やお台場の「So-net Cafe」でも同じくローカル情報を配信する計画だ。

端末の普及ありき

 アクセスポイントがアドレスを認識したBluetooth端末に,ローカルエリア情報を配信する――今回のホットスポット進出はこのビジネスモデルに集約されるが,それでも残る疑問がある。それは,Bluetooth対応機器の普及の遅れだ。

 エリクソンでニューアカウント事業本部長を務める鈴木寛氏は,「当初の予測よりは遅れているものの,2005年までにBluetooth対応機器は7億台になる」と強調するが,現在の状況は苦戦と呼べるほどだ。そして,Bluetooth対応機器が少ないとうことは,ホットスポットを利用するユーザーも少ないということになる。今回の実証実験では,2002年の商用化を目指している。それまでにどれだけのBluetooh対応機器が出荷されるのか。

 B.L.T.では,実験において,運営者側で用意したBluetooth対応のPDA/PCをモニター(100名を募集)に貸し出すほか,Marunouchi CafeやSo-net Cafeには対応端末を常設することになっている。ユーザーが自分のBluetooth機器を持ち込んでも,使うことはできない。

 携帯電話はというと,これはB.L.T.の実験計画には組み込まれていない。J-フォンの「J-スカイ ステーション」のようのに,携帯電話なら地域情報をインターネットから直接ダウンロードすることも可能だが,Bluetoothアクセスポイントから情報を取得できれば,通信料がかからないというメリットがある(ただ,この点についてB.L.T.では本格サービス化の際に有料化することを考えており,無料で利用できるというわけではないが)。

 その携帯電話について,エリクソンの松澤氏は「事業者がなかなか積極的にならない」と漏らす。Bluetoothを携帯電話に搭載すると,利用者が事業者の通信網を使わずにピア・ツー・ピアでチャットすることなども可能になり,「通信料が徴収できなくなる」と敬遠されてしまうという。ホットスポットでの情報提供も,通信事業者のメリットが明確にならない限り,参加の可能性は低い。つまり,「端末メーカーが力を持つ欧米とは異なり,国内では通信事業者が大きな決定権を握っている」(同氏)という事情によるものだ。

 ホットスポットでBluetooth端末にローカルエリア情報を配信するというビジネスは,あまり良いニュースがなかったBluetooth陣営を活気づかせるかもしれない。だが,ホットスポットを展開することでBluetoothが普及するのではなく,Bluetoothが普及した段階でホットスポットというビジネスが成り立つことは間違いないだろう。

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[中村琢磨, ITmedia]

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