News 2001年7月4日 11:59 PM 更新

NTTサイバー研,無線サンダルを開発中!?

サンダルで位置情報を取得──NTTサイバー研究所が謎の“バーチャルリアリティサンダル”を開発中だ。

 東京ビッグサイトで7月4日,「産業用バーチャルリアリティ展」(IVR)が開幕した。今回で9回目となるIVRだが,毎年出展しているというあるブースの担当者は,「近年のバーチャルリアリティの流れは,精度向上とダウンサイジングがメインで,技術的なブレイクスルーはあまりない」と話す。実際,会場でも偏光眼鏡を使った3D映像のシミュレーションや,モーションキャプチャーなど見慣れた出展が目立つ。そんな中,NTTサイバースペース研究所は一味違う雰囲気を放っている。

 つっかけサンダルを履いた研究員らしき人物が,何やらうろうろしている怪しげなNTTサイバースペース研のブース。「info Floor」と呼ばれる無線位置情報計測システムの実演中だ。


NTTサイバー研究所のブース。サンダル姿がアットホームな雰囲気

 info Floorの仕組みは次の通り。サンダルには,「RFID」(Radio Frequency Identification)と呼ばれる無線チップが実装され,床タイルに配列してあるRFIDの固有IDを読み取る。サンダルはそのIDを無線LANのアクセスポイントに送信し,そこからイーサネット経由でPCに送られる。PC側では,IDに埋め込まれたマッピング情報と照らし合わせて移動体の位置を割り出す。


一見,普通のサンダルに見えるが,実はハイテクサンダルなのだ

 さらに,サンダルには曲げセンサが内蔵され,ユーザーの正面方向を推定できるほか,足首・親指の「曲げ角度検出機能」まで付いているというこだわりよう。このため,移動体がどのようなポーズでとちらを向いているか,PC側でグラフィックで再現できるという。サンダルを履いて歩いているだけなので,非常に地味なinfo Floorデモンストレーションなのだが,実は,非常に高度な処理が行われているのだ。

実用化への課題

 info Floorの開発責任者である島田義弘氏は,「実用化に向けて課題は多い」と話す。

 まず,タイルにいくつのICチップを埋め込むか。デモンストレーションでは,30センチ×30センチのタイルに,3センチ間隔で100個ものチップを配列している。1枚のタイルにつき100個のチップを使っているわけだから,10枚だと1000個,100枚だと1万個,1000枚だと10万個……。とにかくものすごい数のチップが必要になる。

 チップの数を減らすことも可能だが,「精度が犠牲にならない程度」(島田氏)という条件を満たすには,それでも7×7で合計49個のチップが必要だという(30センチ×30センチのタイルの場合)。


こちらは7×7のバージョン。ぎっしりとチップが詰まっている

 代替案としては,タイルに埋め込むチップは1つにして,タイルにセンサーを配線するという方法もある。ただ,「チップを大量に使った場合よりもコストが増える可能性がある」(島田氏)ため,あまり現実的ではないそうだ。「使用しているチップは,100個で1000円ぐらいなので,導入側にも負担にならないはず」(同氏)


こちらは配線バージョン。随分すっきりした印象だが……

 さらに,現時点では「高さ」と「移動速度」が制限されている。現在の仕様だと,高さ方向の計測範囲はタイルから3センチ離れたところまで。それ以上足を上げたりすると,RFIDを読み取ることができない。

 また,計測サンプリング周期(つまり計測するタイミング)は,1秒に10回。1秒間に10回計測すると聞くと,かなりの精度でデータが取れそうな気がするが,島田氏によると「走ったりするとデータが計測不能になる」というレベルだという。

実用化!?

 精度に対する直向きな姿勢が印象的な島田氏。ところで,本当にinfo Floorを実用化するつもりなのだろうか。これほど正確な位置情報を必要とする場面は,なかなか想像しにくい。

 島田氏は実用化について,「博物館などで“ある場所にくると何らかの情報を発信する”といったサービスが考えられる。また,デパートのフロアに階数情報と位置情報を持ったRFIDを敷き詰めて,はぐれた子供の居場所を確認できるようにしてもいい」と説明する。

 「バーチャルリアリティの研究課題は,軍事目的やエンターテインメントだけでなく,人々の生活にいかに密着させるかというところにある。info Floorは,そういった部分にアプローチしていきたい」(島田氏)

 こうした用途に“親指の曲げ角度”を検出する必要があるのかどうかは疑問だが,それよりもっと,info Floorには“致命的な欠陥”がある。必ずRFID付きのサンダルを履かなければならないことだ。一応,サンダル型のほかに,「自分の靴に取り付けられるアタッチメント型も用意している」(島田氏)ようだが,それを望んで付けたがる人もあまりいないだろう。

 「NTTサイバースペース研究所の中では,われわれなど氷山の一角」とは島田氏の言葉。どこかで,人体組込型無線チップの研究でもやっているような気がしたのは,こっちの気のせいだろうか……。

[中村琢磨, ITmedia]

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