News 2001年7月6日 09:34 PM 更新

店員さんのアドバイスを鵜呑みにする怖さ

 いよいよボーナス商戦真っ盛りという時期らしい。電車に乗っていても,そこかしこで,ボーナスであれを買ったとか,これを買うつもりだという声を耳にするし,休日のターミナル駅周辺の量販店は,それこそ,満員電車並みの混雑で,買い物をするにも,相手をしてくれる店員さんを見つけるのに一苦労するくらいだ。

 この店員さんについて,ちょっとした話を聞いた。某パソコンメーカーのマーケティング担当の社員と話をしていたときのことだ。

 マーケティングという部署は,どのような商品を作れば市場に受け入れられるのか,あるいは,どのような商品を,どういう売り方をすれば,たくさん売れるのかといったことを,常日頃から考えるのが,重要な仕事のひとつだ。当然,足繁く量販店などに通い,今の市場がどんな感じで動いているのかを取材する。このあたりは,ぼくらの商売と通じる部分も多い。

 もちろん,量販店の店員さんは,貴重な情報ソースとなる。エンドユーザーが,どのような商品を求めているかを代弁するといってもいいのが,彼ら,あるいは彼女らだからだ。ぼくなんかも,買い物のたびに,それとなく,いろいろな話を聞くようにしているが,貴重な情報をもらえることも少なくない。

 だが,そのアドバイスを鵜呑みにしてしまうと,マーケティングを誤ってしまうということもあるらしいのだ。つまり,エンドユーザーが求めているものが,そのままイコール,量販店にとって魅力があり,売りやすい商品であるとは限らないということだ。

 売る側と買う側の論理が違うことは,十分に分かっているつもりでも,毎日,エンドユーザーと密接にコミュニケーションをしている人たちの意見を,つい重要視したくなってしまう気持ちもわかる。だから「ああいわれれば,そうかな」と思う。そして,それをもとに商品企画をしたことが,大きな失敗に結びつくということもあるわけだ。

買い物には情報武装が必要

 ぼくなんかが買い物をするときは,パソコンやAV機器といったものであれば,徹底的な調査をしてから購入品を決める。店に赴いたときには,すでに買うものは決まっているので,店員には型番を告げるだけだ。今は,Webのおかげで,ちょっと畑違いの商品を購入する場合も,いちいちカタログを集める必要もないし,家に居ながら各社の商品を調べることができる。その気になれば,各店の価格も調べることができるので,どこに行けば,もっとも安く,望みの商品を購入できるかもわかる。

 一方,これが10年に一度くらいしか購入しないものであったりすると話は違ってくる。例えば,電子レンジの買い換えサイクルは10年を超えるそうだし,冷蔵庫や掃除機なんかも,そうそう買い換えるものではない。エアコンだってそうだ。その結果,いわゆる白モノ家電の買い換え時には,かなり情報非武装で買い物に挑んでしまう。

 だが,白モノ家電といえども,10年もたてば,世代はコロリと代わってしまっている。かつての非常識は常識となり,技術の進化は,かつての不可能を可能にしている。ウソのような本当の話が目の前で商品として売られているのだ。テレビのCFなどで頻繁に露出される話題の商品なら,それなりに情報を持ってはいるが,買い換えのタイミングと,そうした商品の発売タイミングがうまく重なるわけでもない。

 仮に,月刊冷蔵庫とか,週刊掃除機などといった雑誌があって,それを毎号読んでいれば,業界の動向はすべてが分かるという状況があったとしても,なかなか,それを実践することはできないだろう。結局,頼りにするのは,やはり,売り場にいる店員さんだったりすわけだ。

普通のユーザーは店員さんに頼るしかない。しかし……

 パソコンや情報家電も似たようなものなのだ。この文章を,今,読んでいる方は,おそらくは,業界の様子を常日頃から気にしていて,IT事情にも精通しているのだろう。他の重要記事で情報を収集するついでに,このコラムにも,ついでに目を通してくださっている方が多いと思う。

 でも,普通にパソコンなどを購入する“普通のユーザー”は,決してそうではない。浦島太郎のような状態で売り場に挑む。そんなユーザーにとって,カタログスペックを見ただけでは分からない細かい使い勝手が,実際にはどういうものなのかを教えてもらうには,店員さんに頼るしかないのだ。そして,相手はプロフェッショナルだと信じているから,そのまま相手のコメントを鵜呑みにしてしまう。

 しかし一歩間違えば,売る側の論理と買う側の論理が違うことの犠牲者になってしまうことだってあるわけだ。売り場で耳をダンボにして店員と客との会話を聞いていると,ときには「それは違うんじゃないか」と,割り込みたくなる衝動にかられることもある。

 この時代,賢い消費者になるためには,やはり,事前の情報収集は重要だ。一夜漬けの付け焼き刃でも,決して無駄にはならないはずだ。メーカーごとの誠意は,Webを見れば一目瞭然だ。

 貴重なボーナス。その使い道は熟考し,情報収集に時間をかけて,有効に活かしたいものだ。店員さんは,自分が掃除機を買うときのことを思い浮かべながら,ノービスユーザーの相談にのってあげて欲しい。

[山田祥平, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.