News 2001年9月5日 11:44 PM 更新

SCNがJustNetを買収

ソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)がJustNetを買収した。ブロードバンド化と熾烈な価格競争が繰り広げられているISP事業で,会員規模の拡大によるスケールメリットを生かしていくという。

 ソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)とジャストシステムは9月5日,ジャストシステム100%子会社でISP「JustNet」を運営するウェブオンラインネットワークス(WON)の全株式を,SCNが買収することで合意したと発表した。SCNは今年10月1日付でWONの7200株を取得する。

 都内で行われた記者会見には,SCNの山本泉二CEOとジャストシステムの浮川和宣社長,WONの長井定一社長が出席し,買収の経緯や今後の事業方針を語った。


記者会見に臨むジャストシステムの浮川和宣社長(左),SCNの山本CEO(中央),WONの長井社長

 SCNは自社ISP「So-net」を運営しているが,SCNの完全子会社化後も,JustNetブランドをはじめWONの接続サービスやコンテンツサービスは当面引き継がれる予定。JustNetユーザーは,メールアドレスやドメイン名を当面そのまま使用することができる。SCNはWONに役員を派遣するが,WONの長井社長は留任する予定だ。So-netとJustNetは,当面ダブルブランドでそれぞれの事業を続けていく。「いずれは統合されていくが,半年から1年かけて,じっくり取り組んでいく」(山本CEO)。

 JustNetは1996年3月にサービスを開始した。WONは,ジャストシステムのISP部門を分社化する形で2000年3月に設立された。2001年8月末現在,34万人の会員を有する。一方,So-netは1995年11月にサービスを開始し,2001年8月末の会員数は171万人にも及ぶ。

 今回のJustNet買収について山本CEOは,

  • 会員規模の拡大
  • オペレーションの効率化
  • 接続・コンテンツサービスの相乗効果

の3点が,買収の大きな目的であるとした。

 So-netには,ユニークなコンテンツやカスタマーサポート力,ブランド力,ソニーグループとの連携というものがある。一方,JustNetには,ジャストシステムが持つソフトウェア開発力や豊富なコンテンツ,広告・マーケティングノウハウがある。「2つの力を合わせることで,メディアカンパニーに向けた経営基盤の強化をはかる」(山本CEO)というのが,SCN側の買収目的だ。「楽しんでもらうというJustNetの基本コンセプトは共感するものがあり,So-netにも通じるものがあった」(同CEO)。

 WONの長井社長は,SCNへの子会社化について「ブロードバンド時代のISPには,強い価格競争力と付加サービス・付加価値が求められる。JustNetやSo-netが進めてきたコンテンツサービスにとっては,ブロードバンドはフォローの風。また,常にSo-netのサービスが我々にとって目標だった」と語る。

 WONの2000年度の売り上げは22億8900万円で,営業損失は2400万円と赤字だった。JustNetの売却は,34万ユーザーという中堅規模でISP事業を続けるのは困難と考えたジャストシステムが,赤字部門のISP事業を切り離したかのようにみえる。しかし,浮川社長はこの件について「実はJustNetは,数年前から3億〜4億円の利益を生み出してきた」と否定する。それでは,分社化以降の2000年度では,なぜ2400万円もの営業損失が発生したのだろうか。

JustNetの赤字は計画的なもの

 ジャストシステムは昨年2月に,ソーテックPCの購入ユーザーを対象にした「SOTEC-JustNetコース」を設置。入会金を無料にし、さらに入会から1年間は毎月10時間までインターネットが無料で使えるというサービスを始めた。初心者でも簡単にインターネット接続の設定ができるソフトウェアをソーテックPCにあらかじめインストールしてあり,ユーザーはアイコンをクリックするだけでJustNetに入会できる仕組みだ。これによって,JustNetは一気に7万人ものユーザーを新たに獲得した。

 しかし,入会金無料で年間累計120時間まで無料というサービスには,当然のごとく設備投資などコストがかかる。つまり,2000年度の損失は,このSOTEC-JustNetコースによるもので,WONとしても計画的な赤字だったというのだ。「インターネット接続ウィザードのアイコンから入会するケースは1〜2%程度なのだが,ソーテックPCからは10数%という高い確率で入会されている。非常に効率の良いビジネスモデルだ。SCN子会社後もこのサービスは続けていく方針」(長井社長)。

 JustNetはしっかり利益を生み出す構造になっていたというが,それでは,ジャストシステムはなぜ手放すのか。

 プロバイダー事業は熾烈な価格競争の時代となり,各ISPは生き残りをかけて必至だ。特に数十万ユーザーの中規模ISPにとって,料金値下げやブロードバンド化への設備投資は,経営をどんどん圧迫する。今回のJustNet売却の背景には,現行で34万人規模の中堅ISPとして今後も事業を継続し,利益を出していくのは難しいとの経営判断があったと思われる。

 また浮川社長は「昨年3月のWON分社化は,活動が柔軟にできるようにとの布石だった」とも述べている。SCN側に打診が来たのは「今年7月頃」(山本社長)というが,それよりかなり以前からジャストシステムは売却を決意し,パートナー探しをしてきたのではないか。

 JustNetは当初からアクセスプロバイダー事業だけでなく,さまざまなコンテンツサービスを展開してきた。「現在ではコンテンツがもてはやされているが,当時では珍しかった。先駆者としてJustNetの役割は大きかったと思う。ジャストネットを信頼してきた34万人のユーザーに,これからも最先端のサービスが提供できることを第1に考えている。So-netをよく似たサービスユーザーにとってもJustNetの延長で拡大していると考えられるのでは。結論として満足している。3社の新たな協力関係を築いていきたい」(浮川社長)。


新たな協力関係を築くべく固い握手を交わした3社の代表

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[西坂真人, ITmedia]

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