News | 2001年11月5日 11:55 PM 更新 |
松下電器は11月5日,デジタルシネマ用のHDカメラレコーダ「Varicam」を2002年2月1日より発売すると発表した。映画フィルムカメラの機能や画質を,低コストで再現できる。
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デジタルシネマ用のHDカメラレコーダ「Varicam」 |
デジタルシネマとは,撮影から編集,映写といった映画製作の一連の仕組みをデジタルフォーマットで統一したもの。従来の映画のように,フィルムを使わないのが特徴だ。上映システムでは,DLP(Digital Light Processing)方式のプロジェクタを使った映写実験が米国などで行われており,日本でも一部映画館で「トイ・ストーリー2」や「ミッション・トゥ・マーズ」などCGを多用した作品が,DLP方式のデジタルシネマで上映された。
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デジタルシネマ上映に使うDLP方式のプロジェクタ |
さて,DLP方式など明るい映写システムの登場で,“川下”の劇場側のデジタルシネマ環境は整いつつあるが,“川上”の撮影システムの方は,規格が混沌としている状況だ。
「StarWars Episode 1」の時に部分的にデジタル製作を取り入れ,米国の一部地域で業界初のデジタルシネマ上映を行ったGeorge Lucas氏は,StarWarsの次回作以降はフィルムを使わずにフルデジタルで製作すると明言。実際に「Episode 2」では,「Panavision Digital Camera」によって撮影されたが,これはソニーのHD1080/24pシステム「CineAlta(シネアルタ)」をベースに,Panavision社が映画撮影用に特別に設計製作した「Panavision Lens」を装着し,ビュアーなどにフィルムカメラマン用の改良を施したものだ。
このように,デジタルシネマ分野では1080/24p規格を推すソニーがやや先行していた。そこに今回,松下が720/60p規格のHDカメラレコーダを投入してきた。解像度のスペックではやや劣る方式だが,「従来のフィルムカメラで撮影する感覚で映画製作が行える」(同社)点が特徴だ。
映画では,スローモーションやハイスピードといった映像表現が必要となるケースがある。このようなシーンで使われていたフィルム撮影の手法「コマ落とし(アンダークランク)撮影」や「高速度(オーバークランク)撮影」を,Varicamではビデオカメラで初めて可能にした。秒間4〜60コマまでバリアブル(可変)に撮影できる。「6倍速から1/2.5のスローまで対応する。ソニーのHD1080/24p規格では,最高で1.25倍(秒間30コマ)程度で,可変速記録のニーズには応えられない」(同社)。
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秒間4〜60コマのバリアブル撮影で,6倍速から1/2.5のスローまで対応する |
映画の世界では,フィルムならではの色再現性にこだわる人も多い。Varicamに搭載された「シネガンマ」は,フィルムのラティチュード(再現域)をビデオカメラで表現できるという機能だ。従来のビデオガンマ方式に比べ,ダイナミックレンジが拡大し,明るい外の風景と暗い室内といった映像でも,両方はっきり見えるといった効果がある。「映画業界では“闇夜のカラスが見えなければいけない”と言われるが,暗い部分の階調表現も,従来機と比べると改善されている」(同社)。
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明るい外の風景と暗い室内といった映像でも,両方はっきり見える |
またVaricamでは,フィルムカメラ用のレンズ(スーパープライムレンズ)を使用できる。これによって,既存の資産を生かしながら,デジタルシネマへの移行が行える。
「本体価格や編集作業効率なども含め,ソニーのHD1080/24p方式よりも4割ほどコストダウンが図れる」(同社)。
相変わらず“ソニーvs松下”の規格戦争を繰り広げている両社だが,CGを駆使した高精細な映像を圧倒的予算で製作していくハリウッド映画には,ソニー方式がやはり有利に見える。しかし,少ない予算でフィルムライクな映像美や映画技法を駆使できる松下方式は,日本映画向けと言えるかも知れない。
なお,今月中旬からクランクインする東映映画「突入せよ!!あさま山荘事件」には,Varicamが採用されるという。
デジタルシネマでは,衛星や光ケーブルなど高速な通信回線を使って,劇場への配給までデジタル化しようという動きがある。これが実現すると,配給のためのフィルム化といったコストを減らすことができ,またこれまでロードショーが来なかったような遠隔地で最新映画が楽しめる可能性も出てきた。経年劣化のない高画質な映像が,今よりも安いチケット代で見れるようになる。
将来的に映画産業の中核をなしていくと期待されているデジタルシネマの動向は,注目していきたい。
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