News 2001年11月13日 10:42 PM 更新

「ユビキタス バリュー ネットワーク」と「FEEL」――ソニー・安藤氏が描いた未来図

ソニー社長の安藤国威氏がCOMDEXの基調講演に登場し,ユビキタス バリュー ネットワークという新コンセプトを提案,その前提となるユーザーインターフェイス「FEEL」も紹介した。同日,矢継ぎ早に発表された提携は,これらの構想を早期実現することを狙ったものだ。

 ソニーは一昨年,CEOの出井氏がCOMDEX/Fallの基調講演において,ビジネス指向のPC中心のモデルから,家電やエンターテイメントを指向したNetworked AV/ITというコンセプトを提案した。今年,やはり基調講演の壇上に立ったソニー社長兼COOの安藤国威氏は,新たに「ユビキタス バリュー ネットワーク」というコンセプトを提案した。

 ユビキタス バリュー ネットワークとは,単にどこでも,いつでも,ネットワークを通じてサービスや機能を利用するだけでなく,そこに“バリュー”,つまり,付加価値を付けることで今までにない新しい楽しみを提供し,新たなビジネスモデルやサービスを生み出すというコンセプトである。

 安藤氏はインターネットへのゲートウェイには4つの種類があると指摘。それは携帯電話やPDAなどの携帯デバイス,デジタルTV,ゲームコンソール,そしてPCだ。

 かつてナローバンドの時代には,PCを中心にインターネット世界が構築され,それに携帯電話が加わるといった程度だった。しかし,ブロードバンドの時代になれば,上記4つのゲートウェイを,利用のスタイルや場所によって使い分けるようになるというわけだ。

 このコンセプトの鍵となる技術としてソニーが挙げたのは,IPv6によってすべてのデバイスにIPアドレスが割り当てられるようになること,そしてワイヤレス技術,ユーザーインターフェイス技術である。


COMDEXで基調講演をする安藤国威氏

 IPv6に関しては改めて言うまでもない。すべてのデバイスに固有のIPアドレスが振られるようになれば,新しいユーゼージ(用途)が開けることは間違いない。また,様々なワイヤレス技術が使い勝手を向上させることも,疑いのないところだ。

 ソニーは先日,先陣を切って802.11a対応の54Mbps無線LAN装置をリリースしたが,これも高品質のビデオデータをワイヤレスで扱うために必須のものであり,少しでも早く高速無線LANの家庭への普及を促す必要があったからだろう。

 そしてもう一つのキーワード「ユーザーインターフェイス」に関しても,ソニーは新しいコンセプトを提案している。

近付くことで繋がるFEELコンセプト

 ユビキタス バリュー ネットワークは,ソニーの強みである各分野での要素技術をネットワークで接続することで,家庭で楽しめる新しい付加価値を持ったデジタルデバイスを創出するのが目的だが,それを使いこなすために必要なのが,XeroxからApple,Microsoftと続いてきたアイコンベースのGUIとは根本的に異なるユーザーインターフェイスのコンセプトだ。

 たとえばすべてのデバイスがネットワーク化されれば,腕時計に電子メールのノーティファイが届き,それを手持ちのPDAで読んでみたり,あるいは車の中でカーナビからメッセージを見たりと,様々なデバイスで同じ情報をシームレスに参照できるようになる。

 しかし,デバイス間のコネクションを確保するために,難しい操作があったら興ざめだ。デバイス間をワイヤレスで手早く,そして簡単に結ばなければならない。それを実現するのがFEELである。

 たとえば腕時計に届いた情報を,カーナビのモニタの前で腕時計を近づけ軽く2回振ってみると,カーナビで必要な情報を参照できる,その手をPDAに軽くかざしてやると自分宛ての情報にアクセスできる,といった具合に,FEELはデバイス間のコネクション確保を意識させない。

 FEELコンセプトの将来像をビデオで紹介した安藤氏だが,実機でのデモンストレーションもやってのけた。Bluetooth内蔵のPC2台と1台のCLIEを用意し,片方のPCにCLIEを近づけてボタンを押すと,PC内の画像がワイヤレスでCLIEに保存される。そしてもう一方のPCにCLIEを近づけ,軽くボタンに触れると今度は画像がPCに送り込まれるというデモだ。


安藤氏の腕にはまっていたのはカメラと動画再生可能なモニタ,ワイヤレス機能が詰まった腕時計端末。VAIOノートに近付き腕を振ると,相手の映像がPCで再生された。

 安藤氏は基調講演後に行った記者懇談会で,FEELのキーポイントは近付いたり,相手のデバイスに触れることでコネクションを確立し,その用途に合わせてシンプルな操作で感覚的にデータ通信が行えることだと話した。

 「ワイヤレスの問題のひとつに,常に相手を捜し続け,どこに情報を送るのかというセッション確立をいかにして行うかがある。FEELでは近付いたり触れたりすることでセッションが確立されるため,相手を捜すことが不要で電波も弱くて済む。ワイヤレスのもう一方の問題であるバッテリ消費に関しても,解決の糸口となる(安藤氏)」。

ユビキタス バリュー ネットワーク実現に向けた提携戦略

 安藤氏はまた懇談会でこうも話す。「MicrosoftとIntelはPCの世界で,PCを中心にしたソリューションしか提案しない。ではワールドワイドで,もっと広範なデジタルデバイスのプラットフォームを牽引するのはどこなのか? 私はソニーしかないと思う。ハードウェアの開発競争は大いに行うべきだが,バックエンドネットワークでの相互運用可能な環境は,できる限り多くの企業と一緒に作っていく必要がある」

 そこでソニーはAOLとの戦略的な提携を発表した。安藤氏は「日本にはSo-netがあるが,ワールドワイドで同時に大量の製品を出荷するソニーは,世界中で同じ品質のサービスが利用できる環境を作らなければならない。米国と欧州で強いAOLと提携したのはこのためだ。日本でもAOLジャパンとSo-netが共同でサービスコンテンツを開発する」という。

 今回の提携はブロードバンドホームネットワーク用のゲートウェイ機器およびその関連技術の共同開発,AV機器に適したインターネットブラウザの共同開発,そして米国におけるソニーのネットワーク対応AV機器に対してAOLがサービスの提供を行う可能性などが含まれている。すでにブラウザの分野では協業が進んでおり,たとえば今年のE3ではプレイステーション2用のインターネットアクセスキットにAOL製のクライアントが実装されていた。

 また時期はハッキリと言えないとしながら,ソニー製モバイル機器への情報配信やノーティファイ送信,コミュニケーションを行うためのメニューがAOLポータルのメニューとして組み込まれる予定だという。そのためのマイクロブラウザなどの共同開発も,すでに進められているようだ。

 さらにソニーは,携帯電話端末分野では競合となるNokiaとの提携も発表した。「端末では競合するが,サービスの相互運用性は確保しなければならない。Nokiaとの提携はユビキタス・バリュー・ネットワークを実現するためには不可欠だ。世界中でナンバーワンの企業との提携を進め,ワールドワイドでシームレスかつインタラクティブな手法でコミュニケーションを行えなければならない(安藤氏)」。両者はオープンで共通なネットワークサービスのためのミドルウェアプラットフォーム開発を共同で行っていく。

 デモンストレーションの中では,AIBOの見ている映像がPCに映し出されたり,電子メールをAIBOが読み上げるといったものもあった。事務機器の発展系から抜け出すことができないマイクロソフトとインテルの世界から一歩踏み出してみると,そこには驚くほど楽しいことがありそう。そんな気にさせられる。それはPCが不要な世界ではない。しかし,PCこそがすべての中心ではない新しい付加価値が存在するのではないだろうか。

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[本田雅一, ITmedia]

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