News 2001年11月27日 11:54 PM 更新

Intel,“ムーアの法則”を延命させる新テクノロジーを発表

Intelは11月27日,ムーアの法則の有効性を今後も維持することができるトランジスタ製造の新テクノロジーを発表した。新構造と新素材は,トランジスタの動作速度,電力効率,発熱量削減などに劇的な向上をもたらすという。

 Intelは11月27日,トランジスタ製造に向けた新構造と新素材を開発したと発表した(別記事参照)。この新テクノロジーは,トランジスタの動作速度,電力効率,発熱量削減などに劇的な向上をもたらすという。同社では「この技術によって,ムーアの法則の有効性を今後も維持できる」としている。

 またもや,“ムーア”である。

 同社が「約2年ごとにトランジスタの集積度は倍増する」というお馴染みの法則をことあるごとに持ち出すのは,Gordon Moore氏が同社の共同創設者で取締役だから……ではない。

 都内で今回の新技術の説明にあたったインテル日本法人の取締役・開発技術本部長,城浩二氏は,ムーアの法則を持ち出す理由について「2つのメッセージがこめられている。1つは競争に打ち勝つためにIntelはテクノロジーを18〜24カ月で変遷させていくという“スピード”のメッセージ。もう1つは既存のテクノロジーの延長線だということ。つまり地道な開発を続けることによって到達できるというメッセージだ」と語る。


「ムーアの法則には2つのメッセージがこめられている」と語る城氏

 同社の研究開発機関「Intel Labs」では,すでにトランジスタの物理ゲート長がわずか15ナノメートル(0.015マイクロメートル)という世界最小のトランジスタ開発に成功している。


物理ゲート長15ナノメートルの世界最小トランジスタ開発に成功

 0.13マイクロメートルの製造プロセスで作られているPentium 4といった最新プロセッサのトランジスタ物理ゲート長は70ナノメートル。同社が明らかにしたロードマップでは,2003年には50ナノメートル,2005年には30ナノメートルとなり,2008年ごろには15ナノメートルを実現できるとしている。


2008年には物理ゲート長15ナノメートルを実現

 このように微細化が進んでいけば,チップに集積できるトランジスタの数はトランジスタサイズの縮小化に伴って高まり,18〜24カ月ごとに倍増するという例の法則が無事成り立つ。これでIntelの牙城は当分安泰……。

 ……とは,世の中うまくはいかないものだ。

 トランジスタの集積化が進むにつれ,消費電力は指数関数的に増大する。現在のPentiumでも「単位面積あたりの電力密度は,熱量で表すとホットプレート並み」(城氏)という状況だ。

 今後も集積が進むと,原子炉並み,ロケット噴射口並みと電力密度の熱量はエスカレートし,「ゆくゆくは太陽の表面温度に到達してしまう」(同氏)ことにもなりかねない。これでは,ムーアの法則に基づいた未来のCPU開発は実現不可能だ。


電力密度を熱量で表すと,ゆくゆくは太陽の表面温度に到達してしまう

 「消費電力・発熱量が増える最大の要因は,ゲート絶縁膜やソースからドレインへの“リーク電流”と高い動作電圧」と城氏は指摘する。

 ゲート絶縁膜の厚みによって電流の流れるスピードが決まるので,これが薄ければ薄いほど処理スピードは速くなる。「例えば,20ナノメートルのトランジスタでは,ゲート絶縁膜の厚みは0.8ナノメートル。これは,なんと原子3個分でしかない」(城氏)。

 一方で,ここを薄くすればするほど,電流の漏れ(リーク電流)が発生してしまう。


ここを薄くすればするほど,電流の漏れが発生

 そこで新しいテクノロジーでは,高誘電率ゲート絶縁膜(High-kゲート・ダイエレクトリック)という新材料を使うことで,リーク電流の低減を図っている。この新材料は,現在絶縁膜に使用している二酸化シリコンに比べて,ゲートのリーク電流を 1万分の1以下に削減することが可能で,高性能化に加えて発熱量の抑制やバッテリ時間の向上といったメリットがあるという。

 「高誘電率ゲート絶縁膜の材料は,Al2O3(酸化アルミニウム)やZrO2(酸化ジルコニウム)などいろいろ検討しているが,まだ決まっていない」(城氏)。


高誘電率ゲート絶縁膜でリーク電流の低減を図っている

 また,ソース・ドレイン下部に絶縁層(Oxide)を一層加えてソース・ドレインの厚みを増すことで,抵抗値を低減させている。抵抗値が減れば低い電圧で動作できることになる。結果的に低消費電力となり発熱量を抑えられるというわけだ。

 「厚みという縦の壁を作ることで,電流の漏れを約100分の1にできる。これと高誘電率ゲート絶縁膜によって,リーク電流を徹底的に削減している」(城氏)。


ソース・ドレインの厚みを増すことで,抵抗値を低減させている

 同社は,これらの新しい素材やテクノロジーを用いて,今後5〜10年のマイクロプロセッサの基礎となる「テラヘルツ・トランジスタ」技術を確立していく方針だ。

 「今回発表した新しいテラヘルツ・トランジスタ技術によって,プロセッサの消費電力,発熱,ピーク電流は現在のものと比べて格段に改善される。今後10年にわたり,ムーアの法則の有効性は証明できた」(城氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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