News 2001年12月21日 11:45 PM 更新

“放送のデジタル化”――ユーザーにとって最大のメリットは?

「放送のデジタル化」の最大のメリットは,高画質化や多チャンネル,双方向,蓄積型サービスなどではなく,“いつでもどこでも”携帯電話でTVが見られることなのかもしれない。

 BSデジタル放送が開始されて1年が経った。来年にはCS110度デジタル放送を使ったHDD蓄積型のepサービスも始まる。そして,2003年には地上波デジタル放送がスタートする。

 このように“放送のデジタル化”という流れは,一見順調に進んでいるように見える。だが,先陣を切ったBSデジタル放送の不振を見ても分かるように,現実は厳しい。

 電子情報技術産業協会(JEITA)によると,BSデジタル受信機の累計出荷台数は今年10月末現在で78万7000台と低迷している。月間の出荷台数をみても,今年4月からは2万〜3万台のラインで推移。10月には5万台とやや回復の兆しが見られたが,いずれにしてもこのペースでは年間100万台に到達しないのは確実だろう。

 当初「1000日で1000万世帯」を声高に掲げていたが,今のペースを考えると,残り2年で900万台はかなり厳しい。「BSデジタル放送が成功しないと,次に控える地上デジタル放送もうまくいかない」という業界の声も多い。

 そもそも,ユーザーがTVを見る時間が少ないという意見もある。コンテンツは現状の放送サービスだけでも有り余るほどあるのに,ユーザーの1日のTV視聴時間の平均は約3.5時間と意外に少ないのだ(別記事参照)。

 この少ない“見る時間”を有効に活用するためには,好きな番組を好きな時間に視聴できる蓄積型STBや「Video On Demand(VOD)」のシステムが必要となる。来春スタートするepサービスは,まさにここを狙っている(別記事参照)。

 しかし,このユーザーの少ない“見る時間”を,地上波デジタル放送が増やしてくれるかもしれないのだ。

 12月20日に行われた地上波デジタル放送の公開実験では,携帯電話型の小型受信機で地上波デジタル放送を視聴するというデモに注目が集まった(別記事参照)。

 公開実験の際,報告された調査結果では,携帯電話型受信機の利用したいシーンとして「交通機関の中」や「交通機関を待っている間」が全体の7割を占めていたという。そのほかにも,「飲食店内(レストランやファーストフード店)」「公園」「歩きながら(道で)」「トイレ」などが利用シーンとして紹介された。これまでボーっとしたり,本を読んだり,最近では携帯電話でメールやゲームなどをして潰していた時間だ。


「携帯電話型受信機の利用したいシーン」の調査結果

 それぞれは5分や10分といった短い時間だが,それでも積み重ねていくと大きい。今回の調査でも,ユーザーが携帯端末でTVを見たいと思う一日あたりの利用想定時間は,平均52.4分に達した。つまり,TVの平均視聴時間(約3.5時間)を一気に2〜3割も押し上げる可能性があるのだ。

 “放送のデジタル化”のメリットは,HDTVによる「高画質化」や,個々のユーザーの好みの番組を選択できる「多チャンネル」,通信との融合による「双方向サービス」,好きな番組を好きな時間に視聴できる「蓄積型サービス」などさまざまある。

 だが,ユーザーが一番便利に思うのは,小さな画面でお世辞にもキレイとは言えないMPEG-4の映像にもかかわらず,“いつでもどこでも”携帯電話でTVが見られることなのかもしれない。

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[西坂真人, ITmedia]

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