News 2001年12月31日 03:07 AM 更新

「2015年月面ホテルの旅」──宇宙旅行を現実のものにするプロジェクトが発足

宇宙旅行というと,すぐにSFやアニメの世界を連想してしまう。だが,年末に発足した「Lunar Cruise Project」は,「より現実的に」「より身近に」宇宙旅行を見せることをコンセプトに掲げている。

 「2001年宇宙の旅」は果たせなかった。だが今度は,「2015年月面ホテルの旅」がある──。

 2001年12月28日,冒頭の月面旅行を2015年に実現すべく,インターネット総合研究所の藤原洋所長を委員長とする「Lunar Cruise Project」が発足した。プロジェクトには,財団法人日本航空協会航空宇宙輸送研究委員会,ならびに国際ロボットデザイン委員会が参加している。

 宇宙開発事業団(NASDA)の「H-IIA」プロジェクトチーム開発部員で,Lunar Cruise Projectのテクニカルチームディレクターでもある神武直彦氏は,「2015年月面ホテルの旅」というランドマーク的な目標を打ち出したことについて,「宇宙旅行というものを,多くの人に現実的に捉えてもらうため」と説明する。

 Lunar Cruise Projectではまず,イベントスペースを活用して「宇宙旅行のある生活」を演出することから始める。2002年5月に原宿で開催予定のこのイベントでは,実際に月面ホテルのモデルルームを組み立て,展示する予定だという。

 「地球上の重力の6分の1という月面の環境では,建築物の形態も地球上のものとは大きく変わってくる。例えば,天井はものすごく高くなるかもしれない。決して空想ではなく,技術的なリアリティを追求しつつ,月面ホテルというものを考えていきたい」(同氏)。

 この月面ホテルを担当するのは,国際ロボットデザイン委員会の松井龍哉委員長。松井氏はヒューマノイドロボット「PINO」をデザインしたことで有名になったが,以前から宇宙モノのデザインも手がけてみたかったという。さらにこの展示会では,「宇宙旅行パンフレット」も用意する。

 「2015年は,バリ島にするか,ハワイにするか,月面にするか……という時代になっているかもしれない。地球が人類にとって住み難い環境になったから宇宙に移住する──といったシリアスなものではなく,もっと文化的なアプローチをしたい」(神武氏)。

 また,Lunar Cruise Projectにはもう1つの狙いがある。それは,宇宙産業の発展だ。同プロジェクトは,基本的にオープンなスタンスをとっており,プロジェクトの趣旨に賛同する民間企業とは積極的に協力していく方針である。

 「人類は,30年以上も前に月に降り立っている。現在の先端技術を持ち寄れば,当時よりももっと安全に,もっとコストをかけずに月にいけるはずだ。だが,モチベーションがない。何が何でも宇宙旅行をしようという雰囲気になっていない。Lunar Cruise Projectが中心となって,宇宙旅行の実現するための“サイクル”を作っていきたい」(同氏)。

 神武氏と同じくNASDAから,Lunar Cruise Projectにテクニカルメンバーとして参加している松村秦起氏は,宇宙旅行とヒューマノイドロボットを比較しながら,こんな話をした。  「もともとロボットと言えば,産業用のものがほとんどだったのに,今ではヒューマノイドロボットが大きな注目を集め,ある種,流れのようなものができている。だが,ヒューマノイドのアプリケーション,つまり,具体的に何をさせようだとか,何に使おうというのは,あまり見えていない。宇宙旅行も同じで,ソフトはこれから作っていかなければならない。そのためには,ヒューマノイドロボットがそうであったように,世の中の動きというものが,Lunar Cruise Projectの成功には必要となる」  Lunar Cruise Projectの役割は,宇宙旅行を一部の人間のものではなく,一般の人々の目線に持ってくることだ――神武氏と松村氏はこう口を揃えた。
[中村琢磨, ITmedia]

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